著者
南 雅文 金田 勝幸 井手 聡一郎
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

脳内分界条床核において、神経ペプチドであるCRFとNPYによる神経情報伝達が、痛みによる不快情動生成において相反的な役割を果たすことを明らかにした。また、これら神経ペプチドが分界条床核II型神経細胞に選択的に作用し、その活動をCRFは促進し、NPYは抑制することを示した。さらに、組織学的解析により、分界条床核II型神経細胞の活動亢進が、腹側被蓋野ドパミン神経の活動を抑制することにより不快情動を惹起する可能性を示し、痛みによる不快情動生成の神経機構を明らかにした。
著者
井手 聡一郎
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、痛みによる情動変化に対する側坐核内領域特異的ドパミン神経情報伝達の生理的役割を明らかにすることを目的とした検討を行った。痛み刺激負荷後の側坐核内ドパミン遊離は、側坐核Shell吻側領域で引き起こされ、痛み刺激負荷により当該領域の神経細胞が活性化することが確認された。また、条件付け場所嫌悪性試験法を用いた解析により、ドパミントランスポーター欠損マウスにおいては、痛みによる負情動生起が阻害されていることを見出した。さらに、抑うつ状態を併発していると考えられる慢性疼痛モデル動物においては、報酬刺激によるドパミン遊離亢進が抑制されていることを明らかとした。
著者
井手 聡一郎 南 雅文 佐藤 公道 曽良 一郎 池田 和隆
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.1, pp.11-15, 2005 (Released:2005-03-01)
参考文献数
43

近年,疼痛緩和ケアが重視される中で,情動が病態や治療に与える影響が注目されている.オピオイド神経系は,情動の中でも快と痛みに深く関係しており,その作動薬であるモルヒネなど麻薬性鎮痛薬は有用な鎮痛効果をもたらす.また,痛みを感じている状況下では依存が形成されないことなどから,オピオイドの快と鎮痛作用が分離出来る可能性が示唆されている.近年,ノックアウトマウスを用いた実験などでは,麻薬性鎮痛薬の主たる作用部位であるµオピオイド受容体が,モルヒネを始めとした多くの麻薬性鎮痛薬の鎮痛効果,報酬効果において中心的な役割を果たすことが示されてきた.しかし,オピオイド鎮痛薬の一つであるブプレノルフィンでは,µオピオイド受容体が欠損すると,鎮痛効果は完全に消失するが,報酬効果は残存することが明らかになった.オピオイドによる快と鎮痛発生機構はやはり一部異なると考えられる.また,アルコールや覚醒剤の報酬効果と鎮痛効果においてもメカニズムの違いが明らかになりつつある.快と痛みの詳細なメカニズムの解明は,Quality of Life(QOL)の向上をもたらすと考えられ,今後さらなる研究が期待される.