著者
丹羽 めぐみ 大森 秀之 人見 一彦
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.45-55, 2007-03

当院の性同一性障害専門外来に来院した青年期女性の性同一性障害の2症例について,ロールシャッハ・テストとHTPPの人物画を通して,性同一性を中心にその心理的特性を検討した.結果,2症例の共通点は1.性別の同一化が曖昧なために思春期に身体変化の衝撃を大きく受けており,身体の生々しさを受け入れられない,2.母親が同性のモデルになり難く,身近に性同一性の方向性や目標の手がかりとなる対象を見つけ難い,3.そのような性同一性が不安定な状態で性同一性障害という概念に同一化することで,精神的な安定がもたらされている.一方異なる点は,同性と異性への同一化の程度であった.
著者
田添 裕康 人見 一彦
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.515-523, 1991-09-25

We report psychopathology in a chronic schizophrenic who liked to paint and draw. He firet manifested the disease at the age of 27 and committed suicide at the age of 48. From his work of art made from 30 to 48 years of age, We analyzed the relationship between his psychopathology and the artwork he had done from the age of 30 until his death. While he was not in a psychotic state, his drawings were very meticuious but not creative. While he was in a psychotic state, by contrast, though the patient was distraught, his awork was very creative. Drawing was for him an effective method of alleviating the pain of psychosis. He attempted to understand himself and observe himself objectively by drawing his own portrait and making himself into a piece of art. He ultimately failed to objectively accept that he had psychosis, and he committed suicide.
著者
人見 一彦
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of center for clinical psychology Kinki University
巻号頁・発行日
no.2, pp.65-73, 2009-09-01

[要約] 身体化障害を呈した2老年期女性の現病歴、既往歴、生活歴を紹介し、治療関係にみられるドクターショッピングの背後にある両価性の精神病理を明らかにするとともに、最終的に治療の転機となった性的欲求不満のエピソードについて、それが彼女たちの長い人生行路を通じて用意されてきたものであることを明らかにした。このような精神身体症候群にみられる性愛の病理について考察し、最後に愛の本質について触れた。
著者
人見一彦
雑誌
臨床精神医学
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1343-1350, 1978
被引用文献数
1
著者
向井 泰二郎 人見 一彦
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.311-315, 2000-12-25

遺産相続を契機として, 被害関係, 被毒, 対話性幻聴, 宗教的実態的意識性, 「霊」あるいは「犬」の憑依状態を主症状とした遅発性精神分裂病の一例を報告した.被害関係, 被毒, 対話性幻聴による不安の中で, 「霊」が乗り移り, さらには被害関係, 被毒, 対話性幻聴による不安状態を救うかのように, 願望充足的に実態的意識性として「氏神」が体験され, この「氏神」によって守られるといった宗教的色彩のある病的体験へと変化した.ついで「犬の憑依」を体験し, 犬に憑依することにより「氏神」に祈りをささげるといった宗教儀式を毎日行うことによって, 妄想世界と現実世界との二重記帳を完成させ, 不安は軽減し精神状態は安定した.本症例を通して, 精神分裂病者の宗教的体験, 実態的意識性, 憑依状態への症状変遷とその精神病理学的意味について考察した.さらに本症例に見られた憑依状態に基づく宗教儀式を精神病理学的および民俗学的に考察することにより, 日本人の無意識に潜む古代の心性に触れた.
著者
人見 一彦
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-7, 2006-03-25

メンタルヘルス科の臨床は社会の変化と密接に関連している.医学部附属病院の開設以来,30年にわたり,メンタルヘルス科の臨床に携わってきた.その間に,微細脳損傷症状群から行動障害を伴う注意欠陥多動性障害への変化,破壊的行動障害のマーチ,自閉性障害から行動障害を伴う発達障害への変化,高機能自閉症への関心,統合失調症の軽症化,摂食障害の病像の変化,境界性人格障害に代表されるII軸診断における人格障害の登場,解離性同一性障害の増加,登校拒否・不登校などと表現される不適応行動から社会的引きこもりへの変化,うつ病の増加と密接に関係する自殺の増加,性同一性障害の登場などが問題となってきた.これらの変化は,家族内における対人関係の変化,それらと密接に関係するストレス社会,インターネット社会の登場と表裏一体をなしている.