- 著者
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仁井田 千絵
- 出版者
- 早稲田大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
研究目的:映画が無声映画からトーキーに移行すると、映画俳優はそれまで身体の動きと顔の表情を強調した演技から、舞台演劇と同じく台詞を含めた演技が求められるようになった。アメリカにおいては、映画のトーキー化に際し、舞台俳優が多く映画に出演するようになったが、さらに俳優によってはラジオ番組に出演し、ラジオ・ドラマという形で声のみによる演技を求められるようになった。ビジュアルな身体によって人気を獲得していた映画俳優が、ラジオ・ドラマにおいてはどのように評価されたのか、逆にラジオ・ドラマによって一般の観客に認識された俳優の声は、映画における演技にどのような影響をもたらしたのかを考察した。研究方法:映画俳優が出演した代表的なラジオ・ドラマである『ラックス・ラジオ・シアター』を対象に、映画とラジオにおける俳優の演技を検証した。具体的な作品として、メロドラマの傑作として名高い『ステラ・ダラス』(1937)の映画とラジオ・ドラマを比較し、両者のメディアにおける俳優の声について考察した。この際、資料としては、当時のラジオ・ドラマの録音に加え、ニューヨーク公共図書館が所蔵するラジオのファン雑誌『ラジオ・スター』にみられる映画の関連記事を取り上げた。研究成果:映画とラジオの産業間の提携が強まったことを契機とする映画俳優のラジオ番組への出演は、歌手でもコメディアンでもない、通常のドラマを演じる俳優が、いかに声のみによって説得力を持ったかを立証するものである。当時のファン雑誌の言説からは、観客を前にライヴ放送で行われるラジオ・ドラマが、映画俳優に舞台演劇の感覚を取り戻させるきっかけを与えた一方で、そこでの演技については、映画・舞台双方の俳優から様々な見解が持たれていたことが分かった。