著者
梶 幹男 澤田 晴雄 五十嵐 勇治 仁多見 俊夫
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.106, pp.1-16, 2001-12
被引用文献数
4

秩父山地のイヌブナ-ブナ林における17年間の堅果落下状況の推移から,イヌブナ,ブナともに2年に1回程度結実(総堅果落下量≧20個/m2)することが明らかになった。最大総堅果落下量はブナで992.4個/m2(1993年),イヌブナで943.9個/m2(1988年)であった。ブナおよびイヌブナの豊作年(総堅果落下量≧100個/m2)には明瞭な周期性は認められなかった。両種の豊作年が重なるのは2.3~3回に1回程度であると推定された。ブナとイヌブナの豊作年における平均健全堅果率(健全堅果量/総堅果落下量)は,イヌブナの方がブナよりも有意に高かった。同じく豊作年における両種の平均虫害堅果率(虫害堅果量/堅果落下量)はイヌブナよりもブナが有意に高かった。豊作年における総堅果落下量に占める潜在健全堅果量(健全堅果量+虫害堅果量+鳥獣害堅果量)の割合は7割程度で,平均値は両種間で有意な差がなかった。また,潜在健全堅果量に占める虫害堅果量の割合,すなわち虫害堅果率の平均値はブナがイヌブナよりも有意に高かった。これらのことから,ブナの健全堅果率が低い原因は同種の虫害堅果率が高いことによるものといえる。両種の豊作が同調した1993年と2000年の虫害堅果の落下時期はブナの方が早い傾向にあった。その原因として,ブナ堅果がイヌブナ堅果に比べて,早く成熟時の堅果サイズに達することによるものと推察された。ブナの虫害堅果落下時期は6月初旬~8月初旬および10月中旬~10月下旬に二つのピークが認められた。ブナの虫害堅果落下時期が二山型を示す現象は,東北地方と栃木県高原山においても観察されており,少なくとも東北地方から関東地方に広くみられる現象である可能性が示唆された。ブナ,イヌブナ堅果に共通する主要食害者としてブナヒメシンクイが重要であることが示唆された。日本海側に比べて太平洋側のブナの虫害堅果率が高い原因として,後者は冬期寡雪であることおよびイヌブナとブナが混生しており,両種の豊作年が必ずしも重ならないことが重要であると推論された。In order to investigate the long-term fluctuation of the seed production of beech species, the amounts of fallen nuts of Japanese beech (Fagus japonica Maxim.) and Siebold's beech (F. crenata Blume) were surveyed in sample plots of a natural beech forest in the Chichibu Mountains, Central Japan, for 17 years (1984-2000). Both of the beech species bore fruit (nuts≧20/m2) about half of the years. The maximum total fallen nuts were 992.4 nuts/m2 in Siebold'beech (1993) and 943.9 nuts/m2 in Japanese beech (1988), respectively. The mast year (nuts≧100/m2) interval was irregular. The probability when mast year of both beech species synchronize was estimated about once in 2.3-3 times of the mast year. The average ratio of sound nuts (SN) to total fallen nuts (TFN) of Japanese beech in the mast year was significantly higher than that of Siebold's beech. The average ratio of insect-damaged nuts (IDN) to TFN of Japanese beech in the mast year was significantly smaller than that of Siebold's beech. There was no significant difference between the species in the average ratio of potential sound nuts (PSN=SN+IDN+Animal-damaged nuts) to TFN. The average ratio of IDN to PSN of Siebold's beech was significantly higher than that of Japanese beech. The low average ratio of SN in Siebold's beech was mainly caused by high average ratio of IDN. The falling time of IDN of Siebold's beech nuts tended to be earlier than that of Japanese beech, as the growth of the Siebold's beech nuts is about two month faster than that of Japanese beech. As to the falling time of IDN in the synchronized mast year of both species in 1993 and 2000, Siebold's beech showed two modes at early June-early Aug. and mid Oct.-late Oct. The bimodal pattern for the falling time of IDN in Siebold's beech was also observed at Kunimi, Obonai (northern Honshu) and Mt. Takahara (central Honshu). This fact suggests that the phenomenon of bimodal insect damage on Siebold's beech nuts might be common in Tohoku and Kanto district. Pseudopammene fagivora Komai is one of the most important nut predators, for both Siebold's and Japanese beech. Larger insect damage in Siebold's beech nuts in the Pacific Ocean side in comparison to the Sea of Japan side, might be caused by the two factors that there are much smaller snow in winter and that mast year of two beech species is not always synchronize each other.
著者
仁多見 俊夫 鈴木 欣一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

木質バイオマスの収集効率を向上させることを目的として、圧縮成形機能をもつ処理機構をトラックに搭載した。圧縮成形機能を持つバンドラ―ユニットは重量6t、長さ5.5mで、林地残材などを受け入れるホッパー部、圧縮成形切断する主要部、圧縮成形されたバンドルを受けて側方へ流れ落とす受け部からなる。このユニットをトラックの後部車台へ、旋回可能に装架し、車両キャビン後方に装備した油圧グラップルクレーンでホッパー部へ材料を供給する。車両総重量は、18tである。林地残材は直径約70cm、長さ約4m、重量約400kgのバンドルに成形排出される。バンドル実証作業を行い、1本のバンドルを作成するための処理時間は平均約5分30秒、処理コストは約2千円/tであった。既往の同様な機構の作業では1バンドル処理時間は約2分であって、コストは約600円/tとなることが期待される。この処理量に対応する施業面積は間伐約200ha、主伐約70haとなり、トラックの機動性によって1台の単年の事業量として無理なく処理可能である。今後、さらに操作手順、ユニット機構、バランスの検討が必要である。
著者
佐野 孝志 仁多見 俊夫 酒井 秀夫
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.34.37, 2019-01-31 (Released:2019-03-08)
参考文献数
10

本研究は林業界の課題となっている竹林の放置・荒廃の問題に着目し,その利用によって地域資源として再生を図るべく,竹から乳酸発酵竹粉を製造する高性能機械を開発した。製造された竹粉は,300-400μm程度の粒度で,内部に多孔質を持ち,竹由来の乳酸菌が生息する。この乳酸発酵竹粉を農業資材としての効果の実証をし,売れる商品としてのビジネスモデルを構築した。機械の製造能力300tに対し,年間50t の製造販売で,販売価格を現在の市況価格300 円/kg を200 円/kg に下げても136万円の粗利となる。年間100t になれば年間747万円の粗利で,約2年で機械費1500万円が回収出来ることになる。竹林伐採(1次)・竹粉製造(2次)・竹粉販売(3次)の6次産業化を実践し,将来は工業製品までの用途開発を進めて,バイオマス活用の新事業創出による地域活性化に役立つ可能性があり,開発した機械はトラック搭載してモバイル機構化し,林道上で竹粉化処理も検討に値する。
著者
仁多見 俊夫 廿日出 崇
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用研究会誌 (ISSN:0912960X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.5-13, 1991-03-15

パソコンおよびディジタイザを用いて,作業時間観測結果の分析作業を容易に行うことのできるシステムを作成した。作業現場で野帳に記入した作業時間観測結果をパソコンおよびディジタイザを用いて電気データに変換してデータファイルを作り,そのデータファイルを表計算プログラム群で処理することによって,作業工程,功程,サイクルタイム等の作業仕組みを検討するために必要な基礎的数値を容易に得ることができる。作業時間分析作業の能率を高めるとともに,パソコン上において対話式の処理作業を行うことを可能とすることによって,分析者の問題意識に基づく対象作業についての数量的な検討を,さまざまな側面から行うことを容易にした。
著者
酒井 秀夫 南方 康 伊藤 幸也 仁多見 俊夫 岩岡 正博
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.78, pp.p1-8, 1988-02

最近になって,わが国でもようやくグラップルクレーンが普及し始めている。グラップルクレーンを中心に木材積込作業について調査した結果,積込作業能率はグラップルクレーンが20.405m3/人時,小型ウィンチクレーンが6.217m3/人時,手積が0.867m3/人時となり,グラップルクレーンが非常に高能率であることが確認された。手積作業では,トラックまでの材の木寄せならびに椪の整理に,積込時間の64%を要していた。小型ウィンチクレーンは林内作業車の付属クレーンではあったが,スリングロープのつけかえが,積込作業の53%を占めていた。積込作業の費用は,試算の結果,人件費がグラップルクレーン83円/m3,小型ウィンチクレーン273円/m3,手積1961円/m3となり,グラップルクレーンのベースマシーン代,クレーン代および燃料油脂費は,高能率のためそれぞれ,40円/m3,21円/m3,6円/m3となり,人件費と合計しても手積作業の僅かに1割である。事業量によっては積込作業で節減できた費用によって,積込作業とつりあいがとれるような他の高度な機械投資を可能ならしめるものである。さらに,グラップルクレーンによれば,単に木材積込費用の低減のみならず,トラック運材の待ち時間を利用して,土場整理や,土場における造材作業補助を高能率に進めることができ,集材工程も円滑ならしめる。作業現場の位置によっては,貯木場までの1日当りのトリップ数を稼ぐことも可能であり,作業システムの総合評価の見地からも,間接的な経費節減は非常に大きい。Recently, hydraulic grapple-cranes have come into use in Japan. The log-loading productivity of our experiments with three methods was 20.405m3/man-hour by hydraulic grapple-crane, 6.217m3/man-hour by small winch-crane, and 0.867m3/man-hour manually, thus recognizing that the hydraulic grapple-crane is the most efficient. Handling logs from decks to the truck and arranging decks required 64% of the manual loading time. Hooking and unhooking sling ropes of a small winch-crane attached to a light forwarder required 53% of loading time. Hydraulic grapple-cranes can eliminate this additional work. Labor cost of loading was 83 yen/m3 by the hydraulic grapple-crane, 273 yen/m3 by the small winch-crane, and 1961 yen/m3 manually. Base-machine cost, crane cost, and fuel and oil cost of the hydraulic grapple-crane were only 40 yen/m3, 21 yen/m3, and 6 yen/m3, respectively, because of the high productivity. The total cost was only 10% of that of manual loading. The lower costs of hydraulic grapple-cranes enable the introduction of other high-performance logging-machines. Additionally, hydraulic grapple-cranes may reduce logging costs indirectly. For example, a hydraulic grapple-crane mounted on a back-hoe not only lowers the loading cost but also is useful for decking logs at the landing, which will bring about smoother logging operations. In some cases, it may enable an increase in the number of trips per day to the market.