- 著者
-
森 康則
犬飼 健自
一色 博
今井 奈妙
- 出版者
- The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine
- 雑誌
- 日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
- 巻号頁・発行日
- vol.80, no.2, pp.66-72, 2016 (Released:2017-05-30)
- 参考文献数
- 13
目的:ヒノキに代表される木質の建築資材は,利用者のリラックス感を促進すると考えられている.本研究では,三重県産ヒノキで作られた浴槽に入浴する者の自律神経機能と感情尺度の変化に着目して,その仮説の科学的な検証を試みた.方法:被験者には,健常成年16名を選定した.被験者1人につき,入浴介入を2回行った.1回の入浴は通常のユニットバスでの入浴とし(対照実験),もう1回の入浴はユニットバスと同一形状に設計されたヒノキで作られた浴槽での入浴とした.入浴介入前に唾液の採取と主観的感情尺度(MCL-S.2)の測定,入浴介入後にも唾液の採取と主観的感情尺度(MCL-S.2, VAS)の測定をそれぞれ行った.また実験を通じて,胸部に防水機構付きのホルター心電計を装着し,データを採取した.結果および考察:MCL-S.2による感情尺度評価の結果,ヒノキ製浴槽への入浴前後の「快感情」で,有意なスコア上昇が認められた.加えて,VASによる感情尺度評価の結果,ヒノキ製浴槽の入浴後の方が,対照実験後のそれに比べて,「疲労感」のスコアが有意に低い値が得られた.このことから,ヒノキ浴槽における入浴の「快感情」の促進効果と,「疲労感」の軽減効果が示唆された.また,唾液中コルチゾールの各入浴介入前後の比較の結果,いずれの入浴介入においても入浴後の有意な濃度低下が認められた.また,入浴直前と入浴後安静における副交感神経指標である√HFの比較を行ったところ,いずれの入浴介入においても,有意に高い値に推移していることが明らかになった.これらの結果から,いずれの浴槽材質の入浴であっても,本研究で設定した入浴条件(38~39℃15分間)であれば,入浴行為そのものによっても副交感神経が優位となる傾向が示された.