著者
吉村 元 今井 幸弘 別府 美奈子 尾原 信行 小林 潤也 葛谷 聡 山上 宏 川本 未知 幸原 伸夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.713-720, 2008 (Released:2008-12-01)
参考文献数
29
被引用文献数
4 7

症例は76歳男性である.インフルエンザA型感染症発症直後に高度の意識障害を呈し,その後急激にDICやショック,多臓器不全も合併した.インフルエンザ脳症(IAE)と診断し,オセルタミビル投与,ステロイドパルス療法を施行するも効果無く,発症から24時間強で死亡した.剖検では大脳に著明な浮腫とアメーバ様グリアのびまん性増加をみとめたが,炎症細胞浸潤は無かった.また,インフルエンザウイルスA・H3香港型が剖検肺から分離され,保存血清中のIL-6は35,800pg/mlと著明高値であった.本症例の臨床経過,検査所見,病理所見は小児IAE典型例と同様であり,成人でも小児と共通した病態機序でIAEをきたしうる.
著者
吉村 元 山上 宏 藤堂 謙一 川本 未知 幸原 伸夫
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.501-505, 2011 (Released:2011-09-27)
参考文献数
20

:症例は生来健康な22歳男性.性交後に右後頭部痛と顔面を含む左半身感覚障害,左上同名性四分盲を生じ,頭部MRIで右後頭葉と右視床に脳梗塞巣,頭部MRAにて右後大脳動脈にpearl & string signを認めた.性交を契機とした後大脳動脈解離による脳梗塞と診断し,抗血小板薬による保存的加療を行った.経過は良好で,クモ膜下出血の合併や脳梗塞再発は認めず,MRA上右後大脳動脈の壁不整所見も経時的に改善した.脳動脈解離は若年性脳梗塞の原因として重要であるが,性交が誘因となることもあり,頭痛や神経症状発症時の状況を詳しく病歴聴取することが大切である.また,性行為に伴って生じる頭痛は一般に経過良好なprimary headache associated with sexual activityとして知られているが,本症例のような脳動脈解離を鑑別する必要がある.
著者
藤原 悟 吉村 元 西矢 健太 大嶋 圭一 川本 未知 幸原 伸夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.785-787, 2017 (Released:2017-12-27)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

症例は67歳男性.全身麻酔下での開心術後1日目の抜管直後より,嗄声,構音障害,舌の左側偏倚を認めた.頭部MRIでは原因病変を認めず,軟口蓋麻痺はなく,耳鼻科診察で左声帯不全麻痺を認めたため,Tapia症候群(反回神経麻痺と舌下神経麻痺の合併)と診断した.神経症状は緩徐に改善し,発症4ヶ月後にはほぼ完全に回復した.Tapia症候群は稀ではあるが,全身麻酔時の気管内挿管の合併症等として報告されている.本例では左口角から挿入していた経食道超音波のプローブが左咽頭後壁を圧迫したことが原因と考えられた.本例は術中の経食道心臓超音波検査によって生じたTapia症候群の初めての報告である.
著者
片上 隆史 藤原 悟 秋山 智明 清水 祐里 原 重雄 川本 未知
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-001645, (Released:2021-10-16)
参考文献数
8

症例は53歳女性.来院3ヶ月前に頭痛,倦怠感を発症してから歩行障害,異常行動,幻覚等が階段状に出現した.入院時は傾眠傾向で,頭部MRIで両側脳室周囲白質に造影効果を伴う広範なFLAIR高信号病変を認めた.月単位の経過から腫瘍との鑑別を目的に定位脳生検を行うと,血管周囲性に炎症細胞浸潤がみられ,免疫治療への反応性は良好であった.その後髄液中の抗glial fibrillary acidic protein(GFAP)抗体が陽性と判明し,自己免疫性GFAPアストロサイトパチーと診断した.本疾患の報告はまだ少なく,緩徐な経過をとった点や脳生検による病理学的な評価を行った点は希少であるため報告する.
著者
幸原 伸夫 川本 未知 石井 淳子 村瀬 翔
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.28-35, 2016-02-01 (Released:2017-03-01)
参考文献数
17

LEMSは非特異的な疲労感が主訴となることが多いが, 近位筋の筋力低下と腱反射の低下, 口渇を認める患者をみたときにはLEMSを疑う必要がある。診断は手筋のCMAP振幅低下を確認し, 筋収縮後のCMAP振幅の増大をみることで容易に行える。10秒間の筋収縮終了直後に電気刺激を加え, 60%以上の振幅増大を認めたときにはLEMSの可能性がきわめて高い。神経末端のP/Q型電位依存性Caイオンチャンネルに対する抗体の存在が本症候群の原因であり, 陽性率は約90%である。対症療法として抗コリンエステラーゼ剤のほか3,4ジアミノピリジン (3,4 DAP) が有用である。悪性腫瘍を伴う場合は原因治療および免疫治療が, 伴わない場合は対症療法を中心として長期のフォローアップが重要である。
著者
石井 淳子 山本 司郎 吉村 元 藤堂 謙一 川本 未知 幸原 伸夫
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.165-170, 2015 (Released:2015-03-17)
参考文献数
26
被引用文献数
2 5

症例は82歳女性.呼吸困難で入院し,白血球17,700/μl,好酸球52%(9,204/μl),好酸球増多をおこす基礎疾患をみとめず,特発性好酸球増加症候群(hypereosinophilic syndrome; HES)と診断した.第6病日に左上下肢麻痺が出現し,頭部MRIで両側大脳半球分水嶺領域・小脳に散在性多発微小脳梗塞をみとめた.心エコーで左室壁全周性に血栓をみとめ,Löffler心内膜心筋炎合併による左室内血栓からの多発脳塞栓症であると考えた.抗凝固およびプレドニゾロン内服開始後,脳梗塞の再発はなかった.HESの合併症として脳梗塞を呈した際は,心内膜心筋障害を評価し早期治療介入が必要である.