著者
仲野徹著
出版者
晶文社
巻号頁・発行日
2017
著者
鍔田 武志 RAJEWSKY Kla LEDERMAN Set CLARK Edward 近藤 滋 上阪 等 仲野 徹
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

我々は、濾胞性樹状細胞(FDC)やTリンパ球によるBリンパ球のプログラム死や分化の制御、とりわけ細胞間接触による制御の機構について検索を行った。活性化T細胞とB細胞が接触した際には、活性化T細胞上のCD40L分子がB細胞上のCD40分子と反応する。CD40を介するシグナルがB細胞の活性化や増殖、分化の際に重要な役割を果すことが示されていた。また、FDCがB細胞の生存や分化に何らかの役割を果たすことも示唆されていた。そこで、我々は、細胞株を用いて、T細胞やFDCとB細胞との反応を解析できる細胞系の確立を試みた。まず、我々は、T細胞株JarkatのCD40L陽性の変異株D1.1や可溶化CD40L分子、抗CD40抗体はいずれも、CD40を介してシグナルを伝達し、B細胞株の抗原レセプター架橋によるアポトーシス(プログラム死)を阻害することを明らかにした。また、これらCD40を介するシグナルはIL-4やTGF-βの存在下で、B細胞株CH12.LVのIgMからIgAへのクラススイッチを著明に誘導することを示し、さらに我々は、これらの刺激により非常に効率よくクラススイッチをおこすCH12.LVのサブクローンF3を得た。また、株化FDCと種々の株化B細胞を共培養し、FDCによるB細胞のプログラム死や分化の制御を検索したところ、B細胞株WEHI-231の抗原レセプター架橋によるアポトーシス(プログラム死)がFDCとの共培養により阻害されることを明らかにした。次に、以上の細胞系を用いて、FDCやT細胞によるB細胞のアポトーシスやクラススイッチの制御機構を解析した。まず、FDCによるWEHI-231のアポトーシス阻害の際には、FDCはCD40のリガンドを発現せず、また、LFA-1,ICAM-1,VCAM-1などの抗体ではFDCの作用を阻害できないので、CD40やこれらの接着分子を介さない経路によりWEHI-231のアポトーシスを阻害することが明らかとなった。また、WEHI-231ではCD40シグナルによりbcl-2やbcl-xといったアポトーシス阻害分子の発現が誘導されるが、FDCにはこのような作用はなく、CD40とは異なった機構でアポトーシスを阻害することが強く示唆された。FDCによるB細胞アポトーシス阻害に関与する分子を同定する目的で、WEHI-231やFDCに対するモノクローナル抗体を作成したが、B細胞アポトーシスの制御に関与する分子は同定できなかった。また我々は、CD40シグナルによるB細胞アポトーシス阻害の機構をWEHI-231を用いて検索した。まず、WEHI-231細胞においてCD40シグナルによりその発現が変化する遺伝子をdifferential displayにより同定することを試みた。しかしながら、differential displayの方法上の制約などのため、発現が大きく変化する遺伝子を同定することはできなかった。一方、我々は、WEHI-231の細胞周期回転の制御機構の研究から、CD40シグナルが細胞周期阻害分子p27^<Kip1>の発現を著明に阻害することを明らかにしていたが、p27^<Kip1>のアンチセンスオリゴによりp27^<Kip1>の発現を低下させると、WEHI-231の抗原レセプター架橋によるアポトーシスが阻害されることを明らかにし、p27^<Kip1>がCD40シグナルによるB細胞アポトーシスの制御で重要な標的分子であることを示した。また我々は、F3細胞を用いてCD40シグナルによるクラススイッチ誘導機構の解析を行った。まず、組み換えが起こる免疫グロブリンC領域の胚型転写とそのメチル化について検索したところ、脱メチル化の度合いとスイッチ組換えの起きる比率がきわめてよく相関していたが、胚型転写はスイッチとは相関しなかった。したがって、胚型転写は組換えとはあまり関係がなく、メチル化が組み換えの分子機構に何らかの関係があることが示唆された。さらに、CD40シグナルによる免疫グロブリンクラススイッチに関与する分子を同定する目的で、CD40Lなどで処理したF3細胞由来のcDNAと無処理のF3細胞のmRNAの間でサブトラクション法を行い、CD40Lなどの刺激で誘導される遺伝子を2つ単離した。現在、この遺伝子がクラススイッチに本当に関与しているか解析中である。
著者
中辻 憲夫 小倉 淳郎 佐々木 裕之 塩田 邦郎 仲野 徹 松居 靖久
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

当該特定領域研究は、発生生物学、実験動物学、遺伝学、分子生物学など多分野にまたがる学際的研究グループを形成しており、多様なバックグラウンドをもつ研究者による研究課題を推進してきた。平成19年度までに、極めて多くの研究成果が得られて優れた学術論文として発表されている。それと同時に、多様な組み合わせで各研究者の得意分野によるシナジーを生み出しながら、多くの共同研究が行われ成功してきた。平成20年度は、本総括班の活動の総仕上げとして、これら特定領域研究によって過去5年間に生み出されて研究成果のとりまとめを行うと同時に、研究成果報告書を作成した。なお、研究成果報告書の体裁に従って研究成果発表の詳細なリストなど報告資料として作成した報告書に加えて、研究成果を広く研究者コミュニティーに対する広報活動として周知させることを目的として、研究成果を読みやすい体裁で取りまとめた報告書も並行して作成し配布した。[連携研究者]独立行政法人理化学研究所・バイオリソースセンター 小倉淳郎 領域事務担当者としての連絡調整国立遺伝学研究所・総合遺伝研究系 佐々木裕之 ゲノム刷り込み研究の企画調整東京大学・農学生命科学研究科 塩田邦郎 エピジェネティクス研究の企画調整大阪大学・大学院生命機能研究科 仲野徹 生殖細胞特性研究の企画調整東北大学・加齢医学研究所 松居靖久 生殖細胞発生研究の企画調整
著者
仲野 徹 木村 透
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

PGC7/Stellaは、初期胚、始原生殖細胞、卵細胞で特異的に発現し、受精後に細胞内局在が細胞質から核へと変化する。また、遺伝子改変マウスを用いた解析から、PGC7/Stellaは、卵子に存在する初期発生に必要な「母性因子」であることが明らかにされている。我々は、PGC7/Stellaの機能を解析するために、結合因子の探索を行い、タンパク質の核内輸送に関与するRanBP5(Rallbinding protein 5)を同定した。培養細胞を用いた実験から、RanBP5はPGC7/Stellaの核移行を促進することが明らかになった。次に、RanBPSとエストロゲン受容体のリガンド結合ドメインを融合させることにより、核に移行することができない細胞質局在型RanBP5を作製した。細胞質局在型RanBPSを受精卵に発現させると、PGC7/Stellaの核移行を阻害しただけではなく、PGC7/Stellaを欠損する卵子とほぼ同様の発生異常を示した。この発生異常は、核局在型PGC7/Stellaを同時に発現させることにより正常化することができた。PGC7/Stellaが受精直後の核内で機能することから、受精卵おけるゲノムのメチル化状態を検討した。その結果、PGC7/Stella欠損の受精卵において、DNA複製が開始される前に雌性ゲノムの脱メチル化が生じていることが明らかとなった。また、PGC7/Stella欠損の受精卵において、いくつかのインプリント遺伝子のメチル化が低下していた。以上のことから、PGC7/Stellaは受精卵におけるエピジェネティック不均等性の成立および初期発生におけるインプリントの維持という、ゲノムの不均等性維持に重要な機能を有することが明らかとなった。