著者
伊東 明子 阪本 大輔 杉浦 俊彦 森口 卓哉
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.207-215, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
29

ニホンナシにおける耐凍性の簡便な評価法の開発を目的に,茨城県つくば市(農研機構果樹茶部門),鳥取県東伯郡北栄町(鳥取園試),福岡県筑紫野市(福岡農林総試),熊本県宇城市(熊本農研セ果研),熊本県八代郡氷川町(現地圃場),および鹿児島県薩摩川内市(鹿児島農開総セ果樹北薩:当時)に植栽の ‘幸水’,‘新高’ および ‘二十世紀’ 成木を用い,道管液糖含量と耐凍性(半数致死温度:LT50 (°C))の関係を2011~2017年度の12月から2月(‘二十世紀’ は12月から1月)のサンプルを用いて調査したところ,両者の間には品種ごとに異なる負の相関があることが明らかとなった(‘幸水’:LT50 (°C) = –0.516A–0.417,‘新高’ LT50 (°C) = –0.342A–4.55,‘二十世紀’:LT50 (°C) = –0.268A–9.84,ここでAは道管液糖含量(mg・mL–1)を示す).またその相関から外れたサンプルの一部については,ポット樹を用いた温度制御実験により,急激な温度変化が起こると道管液糖含量は温度変化に反応して比較的速やか(1~2日)に変化するのに対し,LT50 (°C)の反応は遅い(10日以上)ことが示され,両者の温度変化に対する反応の早さの違いが要因である可能性が示された.また,道管液の糖含量は果実糖度計など簡易的な示差屈折計を用いてもおおよそ把握できることが示された.本手法は,品種ごとに異なる検量線の作成を要すること,また糖含量はLT50 (°C)を決定する重要な要因の一つではあるが唯一の要因ではないことから,使用場面に一定の限界はあるが,たとえば耐凍性が問題となる地域において,当該期間中に定期的に道管液を測定することで,耐凍性の脆弱な園地や年次を把握するツールとして使用できるものと考えられた.
著者
伊東 明子 羽山 裕子 樫村 芳記
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.253-261, 2003-07-15
参考文献数
26
被引用文献数
5

花芽形成における糖および糖代謝の影響を明らかにするため,ニホンナシ'幸水'の短果枝頂芽に対し,5月24日から9月2日にかけ,時期をずらして3週間ごとに遮光処理(光透過率24%)を行い,芽における炭水化物含量(フラクトース,グルコース,ソルビトール,スクロース,デンプン)およびソルビトール異化酵素[NAD依存型ソルビトール脱水素酵素(NAD-SDH),NADP依存型ソルビトール脱水素酵素(NADP-SDH)]とスクロース異化酵素[スクロース合成酵素(SS),酸性インベルターゼ(AI)]の活性を測定した.5月24日から7月28日にかけて行った遮光は,芽におけるフラクトース,グルコースおよびソルビトールの含量を低下させると同時に,遮光期間中の芽の新鮮重増加を抑制したが,それ以降の時期(7月28日から9月2日)の遮光は,糖含量・芽の重量のいずれにも影響しなかった.また,遮光時期により,NAD-SDH,NADP-SDH,AI(遊離型)およびSSの活性が増加した一方,AI(膜結合型)活性の減少が認められた.芽の成長速度は,芽のフラクトース,グルコース,ソルビトール含量とそれぞれ正の相関を示した.また,ソルビトール含量は全SDH(NAD-SDH+NADP-SDH)活性およびAI(遊離型)と,グルコース含量はNADP-SDH活性とそれぞれ負の相関が認められた.以上より,炭水化物の供給が制限されている状態では,糖含量が芽の成長の制限要因になると考えられた.また,遮光により芽の糖異化活性が増加したのは,これにより,芽が同化産物を取り込む力(シンク力)を増加させるためでないかと考えられた.糖含量の低下がシグナルとなり,芽における糖異化活性の増加を誘導している可能性が示唆された.