著者
伊藤 貴啓
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.303-326, 1993
被引用文献数
2

本研究は愛知県豊橋市におけるつま物栽培の地域的性格を工業的農業という観点から検討した.つま物栽培農家は豊橋市の市街地隣接地区に集積する.その農業経営は利潤を目的に家族労働力と雇用労働力で経営内分業をしながら,施設化・装置化に基づいた計画的周年生産を特色とした.それによって,生産の季節性,生産と労働の時間的差異や土地の制約という農業の特殊性は克服されていった.また,つま物栽培は土地集約型・労働集約型・資本集約型農業の性格も示した.つま物栽培地域は土地利用の集約性と粗放性,後継者と男子専従者の存在.労働力多投農家の集中,高い土地生産性と労働生産性,高販売金額農家の集中によって特色づけられ,都市化地帯にありながら積極的に農業を維持していた.それは市街地隣接地区という立地をいかした女性労働力の雇用と専門農協の強力な共選共販による大都市圏出荷を基盤としていた・この点から,本地域は輸送園芸産地としての性格も有する.
著者
伊藤 貴啓
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.49-49, 2011

本発表は東海地方(愛知・三重・岐阜の3県)における農産物直売所の地域的特色をその設立と立地,開設効果,消費者ニーズとその対応などに関するアンケート調査1)を基に考察するものである。<BR> <B>直売所の設立と立地</B> 東海地方において,直売所は1990年代以降,とりわけ90年代後半から2000年代前半にかけて設立されたものが多い(図1)。その立地は愛知県を除いて山間部が過半数を占め,残りを主に平地農村部と都市部で分け合う形となっている。これに対して,愛知県では平地農村部が最も高く,都市部と山間部がともに4分の1ずつを占める。それらの立地理由として,各県直売所ともに主要道路沿線,生産者近接,既施設併設をあげる割合が高かった。また,設立・運営の主体は生産者または生産者グループが中心であるものの,愛知県において農協が設立・運営の主体になる割合が高い(図2)。これは農協施設に併設して直売所を設けるタイプが多いためである。<BR> <B>設立目的と開設効果</B> 直売所の設立目的として,直売所の6割強が「地元農業の振興」「地域の活性化」を,3割強が「地元農産物への消費者ニーズを満たす」「女性・高齢者の活躍の場を作る」を挙げる。具体的な利用者状況をみると,愛知・岐阜両県では年間利用者数1万人未満と10万人以上という直売所が多く,三重県では10万人以上が半数を占めた。年間売上高では愛知・岐阜両県の場合,年間売上高5千万円未満が半数以上を占め,他方で岐阜県の直売所の4分の1が年間1億~5億円の売上高を誇り,愛知県ではさらに年商5億円以上の直売所が12施設(11.7%)みられた。これらから規模からみた直売所の両極性を指摘できよう。全体としてみれば,直売所の開設効果は「地域農産物の有効利用」「消費者とのコミュニケーションの活発化」「地域の活性化」「生産者の所得向上」「女性・高齢者の活動が盛んに」という点にある(図5)。<BR> <B>出荷者と価格決定</B> 直売所へ出荷する生産者を規模別にみると,全体として50人未満の直売所が4割強を占め,なかでも愛知県の場合,半数以上を占めたのに対して,出荷者数300人以上の大規模な直売所も愛知県で12施設みられ,先述のような規模の両極性がみられた。出荷者は直売所と同一市町村内の農家がほとんど(86.9%~90.1%)であり,これに隣接市町村の農家が加わる形となる。従来,出荷者は専業農家が少なく,女性・高齢者を担い手とするとされたが,愛知県では4分の1弱の直売所で専業農家が過半数以上を占めることが注目される。各直売所の価格決定権はほぼ生産者個人または生産者集団に委ねられている。生産者は周辺スーパーの価格を参考とし,さらに愛知・岐阜両県では周辺直売所の価格を,三重県では津の卸売市場の建値を参考としていた。<BR> <B>消費者ニーズとその対応</B> 消費者は同一市町村または隣接市町村に居住する者が多いため,リーピーターの割合が高い(図4)。ただ,一部の大規模直売所は県内他市町村からの集客を可能にしている。直売所は消費者ニーズを鮮度(5段階評価で4.3,以下同),安心・安全(4.1),品質(3.8),価格(3.8)の順で捉えている(図6)。これを具現化するため,直売所の過半数弱が朝採り販売を行い,3分の2が生産者氏名を明記し,3分の1強が地場農産物の安定販売や地場農産物の販売のみを行う。また,トレーサビリティに対応し,残留農薬の検査を行う直売所も3分の1弱ある。<BR> 直売所のこのような取り組みは消費者からみた「鮮度」「安心・安全」「品質」を真に具現化し,ローカルフードシステムの構築の地域的条件となり得ているのであろうか。この点について,今後,消費者側からの調査も含めて考察を深めていきたい。なお,発表では紙幅の関係で提示できなかった分布図も交えながら上記の諸点(直売所の設立と立地,開設効果,消費者ニーズとその対応など)について考察する。<BR><BR>1)アンケートは2011年3月に東海農政局及び各県ホームページ掲載の直売所(愛知県267か所,岐阜県123か所,三重県47か所)に対して行った。回答率は全体で37.1%(愛知県38.6%,岐阜県33.3%,三重県43.9%)であった。
著者
伊藤 貴啓
出版者
愛知教育大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究は経済の国際化・グローバル化における農業地理学分野からの貢献を念頭に,フードシステムにおける農業生産部門に焦点を当て,その国際的なネットワークの形成と構造について花卉産業を事例に究明しようとした。まず,農業に関連した国際化の推移を考察した。農業の国際化は,「農業生産の国際化」と「食の国際化」の両者が相互に作用して農業に影響している。後者では,食の外部化のなかで,加工・小売といった川下部門が影響力を強めて,農産物や加工原料の輸入を拡大させて国内産地に多大な影響を与えてきた。そこで,そのような状況と今後の日本農業の発展戦略を検討した(愛教大研究報告第50輯)。また,前者では,農業生産に海外からの技術や海外産の原材料が利用されているだけでなく,より積極的に国際的ネットワークを形成しながら経営を発展させ,地域的な農業の活性化・発展をもたらしている事例が存在していることが判明した。このような事例のなかから,本研究では,愛知県と沖縄県のキク栽培地域,およびネットワーク提携先のオランダを対象として研究を進めた。愛知県では渥美半島の農家群がオランダのファン・ザンデン社から種苗を輸入していた。これはリーダーが自ら同社とのネットワークを開拓して,試行錯誤しながら品種の導入をはかり,隣接農家をグループ化して形成したものであった。このネットワーク形成は近接効果によるといえよう。その形成目的は生産コストの低減と経営の大規模化であった。これに対して,沖縄県では花卉専門農協がインドネシアに地元出資者と合弁で種苗生産を行い,組合員に種苗を供給していた。これは農協が台風被害を最小限に食い止め,夏季の暑さで難しい県内での育苗をインドネシアで行ったものであった(『21世紀の地域問題』第V章)。次に,ネットワークの提携先としてのオランダで,日本の花卉生産者の国際的ネットワークの形成の特色を知るため,ネットワーク提携先のある花卉生産地域を対象に土地利用調査や資料等の収集を行った。その結果,花き生産を含む,施設園芸の立地移動が大規模に伝統的温室園芸地域で生じていることが明らかになった(経済地理学会中部支部例会発表,2002年2月)。以上から,(1)国勢的なアグロネットワークは,地域リーダーによる個別の情報収集からの形成と組織的な対応という2類型がみらること,(2)後者は合弁という形態で現地化をはかり,中国等への進出とネットワーク形成の類型となりえること,(3)国際的なアグロネットワークは,地域産業や個別経営の上方的発展をドライビングフォースとして内発的に形成されてきたことが明らかになった。しかしながら,ネットワークの形成と構造に関するフードシステムにおける川下部門からの研究が今後の課題として残されている。