著者
福田 珠己
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.727-743, 1996
被引用文献数
14

本稿では,沖縄県竹富島において島を代表する存在である「赤瓦の町並み」が,どのように保存され今のような姿に至ったか,また,「赤瓦の町並み」が町並み保存運動の中で,伝統的建造物群保存地区という文化財としてどのように再生されていったか,伝統文化の創造という観点から考察する.町並み保存のプロセスを検討していくことによって,「伝統的」であると見なされている町並みが本来はいかなるものであるのか,さらに,「伝統的」であるとはいかなることなのかが,明らかになるのである.<br> 本研究の視点は,文化と真正性,伝統文化の創造,観光と伝統をめぐる諸研究と共通するものであり,本研究で取り上げた文化財として位置づけられている伝統的町並みは,研究者・行政・住民の三者の思惑が絡み合ったところに生じたもので,近年注目されっっある「ふるさと」の文化,地域の伝統文化を考える上で,格好の素材でもある.
著者
成瀬 敏郎 小野 有五 平川 一臣 岡下 松生 池谷 元伺
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.15-27, 1997
参考文献数
30
被引用文献数
14

MIS 2における東アジアの風成塵供給源と卓越風を復元する目的で,中国,韓国,日本の計26地域から黄土,土壌,古土壌,泥炭を採取し,これらの堆積層中の微細石英 (〓20μm) の酸素空格子信号強度を測定した.タクラマカンの砂漠レスやツアイダムのワジ堆積物は6.2~8.2, 黄土は5.8~8.3, 韓国の土壌は6.0~7.7であり,黄土や韓国土壌が中国の乾燥地域やチベット高原起源の風成塵の影響を強く受けたことを示している.日本各地の土壌・泥炭の微細石英はMIS 2で4.5~12.7であり,そのうち5.8~12,7の値を示す微細石英が遠隔地から飛来した広域風成塵起源,数値の低いものは大陸棚などから吹き上げられた風成塵と推測された.日本列島のうち北部日本地域は>10で東アジア北部から北西季節風によって,中央-西南日本地域は黄土と同じ5.8~8.7で中国の乾燥地域やチベット高原から偏西風によって,与那国島は9.7で中国南部などからそれぞれ飛来した可能性が指摘された.
著者
原 真志
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.701-722, 1994-10
被引用文献数
4

都市化した住宅地域で,旧村落時代からの祭り運営が残る大阪府堺市百舌鳥梅北町5丁を対象地域に,自治会加入全世帯についての自治会関連組織に関する行動の分析,および個人単位での社会ネットワーク・社会空間の分析を行ない,地域社会特性と住民の定着の相互関係について考察した.年齢別,性別に分化した自治会関連組織は年齢の両端に位置する子供会・老人会が空間的には限定的であるが幅広い世帯属性を包摂しているのに対し,中間の青年団・秋月会はその逆である.この重層的包摂構造が住民の定着に影響を与えており,早くから社会空間を認知し組織に参加することで自治会全域という地域社会スケールでの定着がうながされる「地域社会型定着過程」と,若い間は組織に参加せず隣組およびその周辺という近隣スケールでの定着がまず進行し,後に社会空間を認知し定着範囲が広がる「近隣型定着過程」という2つの定着過程が生じていると考えられる.
著者
田村 百代
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.253-268, 1993
被引用文献数
1

フンボルトは晩年の著書『コスモス(第1巻)』 (1845)の中で,宇宙の自然をその壮大な規模で描写する自然的宇宙記述を論じ,宇宙の諸力と諸現象を「自然画」として概観している.天空の星雲から,地上の植物・動物・人類までを包括する「自然画」は,ゲーテ自然研究の精神を踏襲しつつ,近代科学の成果をもとに描写されている.とくに宇宙全体像の究明,恒星系への重力の法則の拡大,諸力の変換に関する研究は,「自然画」の思想の枠組みを決定する役割を果たしていた.自然的宇宙記述すなわち「比較地理学および天文学」は,宇宙の諸力と諸現象を,宇宙のすべての創造物を生命ある自然全体として考察し,天空・地球のいずれの場合においても,諸力と諸現象の空間的分布から普遍的な法則を追究したところに,独立した科学としての固有の性格をそなえていた.自然的宇宙記述の中で,地球の諸力と諸現象に関する記述を行なう比較地理学は,「フンボルトの一般地理学」であることが明らかとなった.
著者
小長谷 一之
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.93-124, 1995
被引用文献数
4

政治学者や社会学者の多くは,投票行動の集計結果(投票率,得票率)に現われる地域差を,投票性向の異なる社会階層の居住構成が,地域ごとに異なることに帰着させてきた(構成主義的アプローチ).ところが,地理学者が行なってきた諸外国の研究事例では,地域差のなかで,構成主義理論によっては説明できない部分がかなりあることがわかっている.この説明未了の部分の大半は,近隣効果と呼ばれる地域文脈的効果によるものと考えられる.近隣効果の発見は,過去30年の選挙地理学の最大の成果の1つである.<br> 本稿では,京都市における1991年市議選の都市内地域における投票情報を分析し,次の3点を発見した.(1)有権者の階層構成の地域差は,投票率・得票率の地域差を説明できるほど大きくはない.(2)「地域別の投票率・得票率」は,地域ごとに変動し,その地域差パターンは構成主義モデルではほとんど説明できず,強い残差が残る(集計的近隣効果の存在).(3)「地域別かつ階層別の投票率・得票率」は,同じ階層について比較しても,地域ごとに変動し(非集計的近隣効果の存在),その地域差パターンは階層によらず,「地域別の投票率・得票率」の地域差パターンに類似する.この3つの現象は,普遍性をもち,たがいに密接に結びついていることがわかった.
著者
土屋 純 伊藤 健司 海野 由里
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.595-616, 2002-10
被引用文献数
1

愛知県の書籍小売業は1980年代後半から急激に再編成が進んでいる.1990年代における大規模小売店舗法の運用緩和の中で,郊外のロードサイドを中心として,書籍チェーンによる大型店の立地が進んでいる.そうした大型店では,CD販売やレンタル業などの兼業化が進んでおり,大きな駐車場が設置されている場合が多い.加えて,名古屋市の都心部では都心再開発の進展とともに超大型店のテナント入居も進んでいる.このような大型店の店舗展開と雑誌を取り扱うコンビニェンスストアの発展によって,商店街や住宅地内に立地する中小型店の淘汰が進んでいる.そこで,売場面積100坪 (330m<sup>2</sup>) 以上の大型書店を事例として, GIS (地理情報システム)を用いて商圏の時空間変化(日変化)を分析した.その結果,名古屋市内では21時までには多くの店舗が閉店するために大型店がカバーする商圏範囲が縮小するのに対して,それ以外の地域では大型店の商圏がくまなく地域をカバーし,深夜になっても競争が激しいことが明らかになった.さらにロードサイド店に右ける深夜営業の実態を分析したところ,レンタル業などを併設する複合店が深夜の新たな市場を開拓していることが明らかになった.
著者
加賀美 雅弘 ペーター・モイスブルガー
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.489-507, 1999
被引用文献数
1

本稿は,19世紀末のオーストリア・ハンガリー帝国領内における地域間格差を,住民の健康状態に着目して明らかにすることを目的とした.帝国は広大な領域を持ち,国内にある地域間格差がヨーロッパ全域の地域構造を把握する際にきわめて有意義であることが指摘されていながら,地理学においてはこれまでまったく議論されてこなかった.本稿では,『軍統計年鑑』に掲載されている徴兵検査結果に注目し,地域差を呈する住民の健康状態から地域間格差を論じた.具体的には,健康状態を全般的に示ずと考えられる身体の衰弱と低身長,さらに異なる地域的要因を持つ疾病として甲状腺腫,クレチン病,歯の疾患を取り上げ,その地域差を検討した.<br> これらの地域差を描写した結果,徴兵検査に代表される住民の健康状態の地域差が,地域の経済水準や医療・衛生施設の整備,生活水準の地域差と関わること,この地域差が地域外から流入するイノベーションや地域住民のイノベーション受容によって規定されるとの解釈を提示した.19世紀後半は,帝国において鉄道建設をはじめとする近代化が進行した時期にあたり,健康状態の地域差はかかる近代化のプロセスの地域差を反映するものであるといえる.
著者
漆原 和子 吉野 徳康 上原 浩
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.527-536, 1998-07
参考文献数
10
被引用文献数
2

福島県あぶくま洞内の小気候調査から,入洞者の影響により生じるCO<sub>2</sub>濃度の変化について考察した.観測は1995年夏季と秋季の2回実施し,気温・CO<sub>2</sub>濃度・風速の測定を移動観測と定点観測によって行った.その結果,閉鎖的な上部洞を中心に高温域とCO<sub>2</sub>濃度の高濃度域が形成されており,その持続時間は長かった.一方,下部洞では,夏季に洞窟内大気の流出,秋季に外気の流入が生じている.それは,洞窟内外の気温差が季節や日変化によって生じるためである.また,上部洞の三山の樹林では,夏季・秋季とも累積入洞者数とCO<sub>2</sub>濃度との関係に高い相関があり,得られた関係式から,約1500人で鍾流乳石の再溶食が生じるとされる2400ppmに達し,約4800人で人体に有害とされる5000ppmに達することが分かった.
著者
鈴木 啓助 小林 大二
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.707-724, 1987-11
被引用文献数
13

北海道北部の森林小流域(流域面積1.28krn2)において融雪流出の観測を行ない,融雪流出水の化学的な性質の検討,および融雪流出の形成機構についての考察を行なった。その結果,次のことが明らかになった. (1) 河川水中のCl<sup>-</sup>濃度は融雪初期に高く,後期には低くなる。HCO<sub>3</sub><sup>-</sup>濃度は融雪期に融雪の前後より低くなる. (2) 河川水中の陰イオン組成は,融雪開始前はHCO<sub>3</sub><sup>-</sup>が主要な成分であるが,融雪の開始とともに次第にCrの割合が大きくなり,融雪最盛期にはCrとHCO3<sup>-</sup>の当量がほぼ等しくなる.融雪完了後には融雪開始前の陰イオン組成に戻る. (3) 融雪最盛期の湧水のHCO<sub>3</sub><sup>-</sup>濃度は融雪開始前の河川水の濃度よりわずかに低く,Cl<sup>-</sup>濃度は融雪開始前の河川水の濃度よりわずかに高い.湧水を形成する「ふるい水」もその化学的性質は一定ではなく,わずかに融雪の影響を受けている. (4) 「ふるい水」のCl<sup>-</sup>濃度が徐々に変化するとして,水とCl<sup>-</sup>の質量保存則により2成分の流出成分分離を行なった結果,河川流量に占める「あたらしい水」の割合は,ピーク時でも約40%に過ぎず,日流出高については最大でも22%を占めるに過ぎない. (5) 融雪の進行に伴う積雪域の後退により,「ふるい水」の流出形態に変化がみられる.積雪域が河道近傍まで広がっているときには,「あたらしい水」の地中への浸透による「ふるい水」の押し出し流が顕著であり,積雪域の後退に従い押し出し流の効果が遅くかつ少なくなる.
著者
三冨 正隆
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.439-459, 1993
被引用文献数
8

台湾の蘭嶼に居住するヤミ族は,天上神を中心とした世界観と空間認識の体系を発達させており,人の霊魂は天界から蘭嶼に来りて誕生し,死ぬと死霊となり彼方の死霊の島に去ってここに永久に留まるという不可逆的な時間・空間の観念が卓越していて,他のオーストロネシア諸文化とは逆に外洋方向を良い方向,山岳方向を悪い方向として象徴化している.<br> しかし蘭嶼がバタン諸島と渡洋交易を営んでいたはるか過去の時代には,祖霊を中心とした体系が発達しており,霊魂は山岳方向から来りて誕生し,死とともに外洋方向より死霊の島に去り,いつかまた再生するという循環的な時間・空間の観念が卓越していて,山岳方向が良い方向,外洋方向が悪い方向となっていた.この変容は,バタン諸島がスペイン人に征服されて蘭嶼が孤立した小世界となり,父系的血縁集団が衰退し,個人主義と威信競争が卓越するようになった社会秩序の変化と大きくかかわっている.
著者
内田 順文
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.495-512, 1989
被引用文献数
10

わが国の著名な避暑地・別荘地である軽井沢を事例として取り上げ,場所イメージの成立とその変化の過程を具体的に示すことによって,どのように「高級別荘地・避暑地」としての軽井沢のイメージが定着し,より多くの人々の問に浸透していったかを明らかにする.方法として,まず軽井沢を扱った文学作品や新聞・雑誌の記事などをもとに,過去の人々が抱いていた軽井沢のイメージを復元し,それを軽井沢の開発史と重ね合わせながら,軽井沢のイメージ,とくに「高級避暑地・別荘地」としてのイメージが歴史的にどのように形成され,定着していったかを記述した.次にそのイメージの定着の結果として引き起こされた地名の改変とくに「軽井沢」の名を冠した地名の分布の拡大という現象を解釈した.これらの結果は,ある一定の社会集団のレベルで,ある種の場所イメージが定着することを記号関係の形成(場所イメージの記号化)として捉えることにより,よりよく理解することができる.
著者
村田 啓介
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.367-386, 1995
参考文献数
61
被引用文献数
4

山形県の郵便局において実施されている「サクランボ小包」事業という,通信販売方式によるサクランボの産地直送事業は,販売業者と郵便局とが業務提携をして事業を遂行するという形態で,1985年の開始以降,一定の成長を示している.<br> 1992年まで「サクランボ小包」事業にはさまざまな販売業者が参入しているが,そこにはサクランボの主産地において,郵便局とりわけ特定郵便局からの働きかけによって早い時期に参入した販売業者が,熱心な担当者との相互協力のもとでその事業規模を拡大させていき,それが主として郵便局という1つのネットワークを通じて技術や手法が伝播し,後に他の産地や非産地のさまざまな販売業者の参入を促したという経過がみられる.また,事業規模を拡大させている販売業者の展開過程の共通点として,第1に販売業者の事業を拡大させようとする意欲,第2に郵便局の担当者が,自ら働きかけて販売業者の参入を促したという点に対するある種の責任感,第3に地元の事情に詳しく,かつ地元の発展を願う特定局の局長という立場からのこの事業への思い入れ,といった点が指摘できる.<br>この事例をとおして,通信販売方式による産地直送事業は小口貨物輸送業の輸送システムを活用することによって成立する事業であり,またその事業の盛衰は,中心的な役割を担う人材の実践力によるところが大きいということが指摘できる.
著者
小口 千明
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.638-654, 1994
被引用文献数
1

本研究は,位置選定にかかわる日本の伝統的な吉凶判断において方位がきわめて重要視されるのに対し,距離や寸法にはあまり関心がもたれないことに着目して,日本における伝統的な空間認識の特質を寸法とのかかわりから捉えようとしたものである.<br> 沖縄県を中心として唐尺と呼ばれるものさしが存在し,このものさしを用いて,寸法による吉凶判断が行なわれている.そこで,現実の景観のなかにこのものさしに基づく吉凶の観念がどのように投影されているかを,沖縄県の波照間島と鹿児島県の与路島を事例として検討した.<br> 沖縄県の波照間島では,住居の門の幅と墓の特定部分の寸法が唐尺による吉凶判断の対象とされる.奄美の与路島では唐尺は用いられていないが,唐尺と類似の目盛りを有するさしがねが門の位置と幅を定めるための判断基準として用いられている.両島内の集落で住居の門幅を実測したところ,それぞれの地域の判断方法に基づき吉寸を示すものが高率であった.これは,寸法に対する吉凶の観念が投影された住居景観が現実に存在することを示している.ただし,両島に方位にかかわる習俗が存在しないことを意味するものではない.<br> 日本では,位置選定にかかわる吉凶判断において,空間の評価軸が方位に置かれる場合が多い.しかし,現在までのところ沖縄や奄美地方でのみ確認された例ではあるが,寸法の概念も評価軸として存在することが示された.理論的には方位も寸法もともに空間評価のための座標軸となりうるなかで,現実としてどの尺度が座標軸として選択されるかは地域によって相対的であるといえる.したがって,方位による吉凶を著しく重視した空間認識は,見方を変えれば寸法による吉凶を重視しない空間認識としてその特質を把握することが可能となる.
著者
田林 明
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.437-460, 1994
被引用文献数
2

本報告では富山県東部の黒部川扇状地において, 1948年から1991年までの44年間にチューリップ球根栽培を行なったことのあるすべての農家を取り上げ,その分布変化から球根栽培地域の形成過程を明らかにし,さらに形成の諸条件を考察した.その結果, 1950年代にはいくつかの特定の集落から栽培が周辺に拡大し,そして1960年代以降再びその集落あるいは近辺に後退したことがわかった. 1950年代中頃までにチューリップ球根栽培が盛んになった地域が,現在でも核心となっている.また,球根栽培の分布域と,旧町村をいくつか統合した範囲が対応していた.チューリップ球根栽培地域の形成条件としては,気候や土:壌などの自然条件とともに,富山県花卉球根農業協同組合の役割,他の農業経営部門や農外就業との関係,先覚者や指導者,地域組織の存在,行政からの助成などが重要である.年齢や後継者の有無,技術水準など,栽培者の個人の属性も関係していた.
著者
中谷 友樹
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.71-92, 1995-02-01

空間単位の集計化が空間的相互作用モデルに対し及ぼす影響については,従来,集計単位の画定に関する定義問題が中心に論じられ,かっ,経験的データを用いた感度分析研究に限定されてきた.それに対し,本稿では,流動の距離逓減性を示す距離パラメターの集計バイアスを,空間単位間の距離の定義との関係において理論的に考察した.その結果,空間単位の集計化に伴う距離パラメターのバイアスは系統的な方向を示し,それは集計距離の定義(平均距離ないし平均移動距離)によって異なることが予想された.<br> この予想を検討するために,1988(昭和63)年度の東京PT調査のデータによって, Huffモデルの空間単位集計化の感度分析を行ない,次のような結果を得た.(1)距離パラメターの集計バイアスの方向は,集計距離の定義,および流動の距離逓減傾向の強さによって異なり,それは理論的に期待される方向と一致した.(2)平均移動距離の利用は,適合度,距離パラメターのバイアスの小ささ,距離パラメターの各スケールでの代表性の各点で,平均距離を利用する場合に比べ優れていた.(3)集計空間単位の形のコンパクトさを考慮することが距離パラメターのスケール変化を小さくし,それは理論的にも解釈されうるものであった.
著者
水岡 不二雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.12, pp.824-834, 1997-12-01
参考文献数
5
被引用文献数
1

Space and Society, a commission of the Association of Japanese Geographers, published in 1996 a reader containing the following seven seminal papers which had been published in the period from the late 1960s to early 1980s and had provided human geography with a new perspective on the conceptualization of space in society: A. Buttimer (1969), &ldquo;Social space in an interdisciplinary perspective&rdquo;; D. Harvey (1976), &ldquo;Labor, capital and class struggle around the built environment in advanced capitalist societies&rdquo;; D. Ley (1977), &ldquo;Social geography and the taken-for-granted world&rdquo;; E. Soja, &ldquo;Sociospatial dialectic&rdquo;; D. Gregory (1981), &ldquo;Human agency and human geography&rdquo;; D. Cosgrove (1984), &ldquo;Towards a radical cultural geography&rdquo;; and N. Thrift (1983), &ldquo;On the determination of social action in space and time&rdquo;.<br> In order to facilitate the understanding of the spatial conceptions contained in these seminal papers, which are significant for the future development of alternative (or critical) geography in Japan, this paper extracts some quotes from the above papers and lists them under the following basic tenets of spatial conceptions:<br> 1. Space is the objective, material existence which supports society and human subjects.<br> 2. Society and Humans are not passive in space. They positively subsume it to create new (humanized) space and to reproduce themselves.<br> 3. Socioeconomic relations or values produce space, and the spatial entity thus produced supports the stabilization and reproduction of the relations and values for a longer period.<br> 4. Space once produced ossifies itself into structure (the built environment), which reacts to control, differentiate, and transform social relations.<br> 5. Every subject must deploy an expanse of bounded space and a relative position for its action. The form of their deployment is specific to the social relations.<br> 6. A social structure on an upper tier of space produces territories on a lower tier, each of which forms a separate entity in the structure. This stratified configuration of space displaces social relations spatially, and alters the original relations in return.<br> 7. Spatial relations displacing conflict on a particular spatial scale can reify or modify the social relations on different scales.<br>8. Space and subject fuse together spontaneously to constitute a unique &ldquo;place, &rdquo; the focal point where subjects converge into a social structure, mediated with all of its embeddedness.<br> 9. The subject attempts to strengthen the embeddedness and resists its disruption. This place consciousness may obscure the consciousness of social relations.<br> 10. The distanciation and isolation arising from relative space make the subjects in proximity interact more intensely, giving rise to a localized social group.<br> 11. The spatial coexistence of heterogeneous elements of a society and their mutual sharing of the same built environment create social conflict.<br> 12. The built environment exerts a common coercive power over people to stabilize the modes of production and living over the long term.<br> 13. A social group is fragmented and its fractions formed according to the spatially uneven and fixed components of a spatial configuration and natural landscape.<br> 14. The range of subjective space is smaller than that of the objective thus rational behavior is not guaranteed since one obtains information imperfectly from subjective space.<br> 15. The modes of production and experience create collective absolute spaces, the most pivotal of which is the separation between the places for living and for work.<br> 16. It is essential for a social revolution to involve a revolution in spatial configuration.
著者
立岡 裕士
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.516-539, 1987-08
被引用文献数
3

日本のアカデミズム地理学の初期段階において日本地理学会が負わされた主たる役割は,コミュニケーションの場を提供することにより地理学の知的・社会的制度化を促進することであった。そこで戦前期の日本地理学会が社会的制度化の進展にどの程度貢献したかという点を明らかにするために,研究者に対する本学会の包摂性と本学会に対する研究者の依存性とを検討した。その結果,次の3点が明らかになった. 1) 会員の構成では当会は1930年代半ばにはある程度全国的な組織となっていた. 2) これに積極的に参加していた者はほとんど東大または文理大の出身者で,東京近在ないしはたかだか東日本の居住者であるが,その一方で全国化の傾向も認められる. 3) 当会が提供した発表の機会は学界全体を覆うほどのものではなく,それに対する会員の依存度も必ずしも高くない.<br> 以上のことから,戦前期の日本地理学会は地理学の社会的制度化にとって一応の貢献はしたが,研究者の相互依存性を著しく高めるにはいたらなかった,と考えられる.
著者
佐野 洋 中谷 友樹
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.559-577, 2000
参考文献数
47
被引用文献数
2

多党化した日本における小選挙区制の選挙バイアスを明らかにするために,1996年衆議院議員総選挙の投票データを用いて選挙バイアスを測定した.その結果,英米の選挙について報告されてきたものよりも大規模な選挙バイアスを確認した.バイアスの構成では,議席定数の不均衡配分よりも死票によるものが大部分を占めている。また,多党制では政党規模が相対的に小さくなり,全選挙区で立候補者を擁立できないため,各政党は効率的な立候補者の擁立を図り,立候補者の有無によるバイアスが,死票を見掛け上少なく抑えている.これらのバイアスを介して,多党化の地域差は,議席定数の不均衡配分の効果と合わさり,「大都市圏」一「非大都市圏」間で1票が議席に与える影響力の格差を拡大している.
著者
小泉 武栄 青柳 章一
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.269-286, 1993
被引用文献数
8

わが国の高山地域には,化石周氷河斜面と呼ばれる岩塊斜面や礫斜面が広く分布する.化石周氷河斜面における岩屑の供給期を明らかにするために,北アルプス薬師岳西面の石英斑岩地域の岩屑斜面を調査地に選び,岩屑表面に生じた風化皮膜の厚さを測定した.その結果,主稜線から斜面の下方に向かって,風化皮膜の厚さを異にする,次の4種類の斜面堆積物と1つの氷河性堆積物を確認することができた.A:風化皮膜をもたない岩屑.分布は狭く,稜線沿いの一部に限られる.B:平均0.8mmの厚さの風化皮膜をもつローブ構成礫.これは東南尾根の一部にのみ分布する.C:西側斜面を広く覆う,平均2.4mmの厚さの風化皮膜をもつ粗大な岩塊群.稜線から海抜2,750m付近までは斜面の大半を覆う. D:平均4.0-44mmの厚さの風化皮膜をもつ人頭大の亜円礫.これはCの岩塊群に覆われなかった斜面上の窪みと斜面の下方にのみ分布する. E:平均7.8mmの厚さの風化皮膜をもつ,モレーンの丘の構成礫.平滑斜面末端の海抜2,600m付近に分布する.<br> 次に風化皮膜の厚さから岩屑の供給された年代を推定するための基準値の設定を目的として,稜線の東側にある金作谷カール内の氷河堆積物の風化皮膜を調べた.ここにはおよそ2万年前の最終氷期最盛期頃に形成されたと考えられるM字形モレーンと,4-5万年前の最終氷期前半の亜氷期に堆積したと考えられる古期モレーンとがあり,風化皮膜の厚さはそれぞれ4.6mmと8.0mmであった.またこれらとは別にプロテーラスランパートも認められ,その構成礫の風化皮膜の厚さは2.6mmであった.このうちモレーンから得られた2つの値を基準にして風化皮膜の成長曲線を描き,それをもとに西側斜面の堆積物の供給された年代を推定すると,古い順に,Eは4-5万年前,Dは1.8万-1.9万年前,Cはおよそ1万年前,そしてBはおよそ3,000年前となった.またAは現在ないし現在にごく近い時期と考えられる.この年代と堆積物の性質から考えると,Eは最終氷期前半の氷河堆積物,Dは最終氷期最盛期頃の周氷河性の斜面堆積物かアブレージョンティル,Cは晩氷期(おそらく新ドリアス期頃)の周氷河性の凍結破砕礫,Bはネオグラシエーション期の凍結破砕礫とみることができる.またAは現在またはごく近い過去の凍結破砕礫であろう.<br> このように化石周氷河斜面における岩屑の供給期は一回だけでなく,最終氷期以降少なくとも3回はあり,主要な岩屑供給期は寒冷な時期に一致していることが明らかになった.またカール内のプロテーラスランパートも晩氷期に形成された可能性が大きい.
著者
浅井 辰郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.553-554, 1997-09
被引用文献数
1