著者
佐伯 聰夫 阿部 生雄 菊 幸一 仲澤 眞 矢島 ますみ 生沼 芳弘 上杉 正幸 米谷 正造
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度研究において、我々はEU化の変動の中で先進的な企業経営を行っているドイツ及びフランスのゲルマン系トップ企業を訪問し、経営とスポーツ支援に関わる責任者を中心としたインタビュー調査を実施した。同様に、平成16年度には、イタリアとスペインのラテン系トップ企業を、17年度には、米国と英国のアングルサクソン系企業を対象としたインタビュー調査を実施した。また、これに対応して、支援を受けるスポーツクラブやNOC等のスポーツ団体の調査も実施した。この間、平行して、日本において伝統的にスポーツ支援に積極的に取り組み、また、企業スポーツを展開している新日鐵等の素材企業、トヨタや日産等の自動車産業、NECや松下等の家電企業、サントリーやキリン等の飲食産業、東電や東京ガス等のエネルギー産業等の一流企業を対象とした企業経営とスポーツ支援についてのインタビュー調査を実施した。関連資料の収集・分析とこうしたインタビュー調査の結果から、以下のような結論を得た。欧米の企業は、経済環境のグローバル化と企業の社会的責任論の進展の中におけるメディアとしてのスポーツの価値を認識し、企業と市民社会とのコミュニケーションメディアとしてスポーツを活用するために、スポーツ支援を経営戦略の一環として展開している。一方、日本の企業の場合は、長期経済不況から脱したものの、なお、積極的経営に留保しており、スポーツ支援、特に企業巣スポーツについては、企業忠誠心や労働モラールの高揚のために、またスポーツスポンサードについては、マーケティングの一環として展開している状況が見られた。しかし、環境と共生という21世紀世界課題に対応する形で、企業の社会的責任がグローバルスタンダードとなる現代、日本企業にも社会的責任論に立つ企業経営が求められている。従って我が国では、企業が、市民社会とのコミュニケーションメディアとして最強であるスポーツを、経営資源として戦略的に活用することが求められている。こうした視点から、日本企業の固有資源としての企業スポーツを、1.スポーツ文化の発展を担うプロスポーツ化2.地域社会貢献を担う地域クラブ化3.職域・職場の人間化を担う福祉化の3つを、日本企業が所有するスポーツ資源を、成熟型企業経営における経営戦略的活用のモデルとして開発し、提案する。
著者
佐伯 聰夫 仲澤 眞 矢島 ますみ 鈴木 守 間宮 聰夫
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

競技スポーツ大会の開催には、地域経済への波及効果を含め、地域住民のアイデンティティやロイヤリティ醸成等の地域活性化に対する効果が期待されている。しかし、一次的な競技大会の開催では、その効果も一過的なものに過ぎない。そこで本研究は、継続的・定期的な開催によって地域社会における社会制度にまで発展した競技スポーツ大会が、当該地域のコミュニティ形成にどのような意味を持ち、どのような機能を果たしているかを競技大会と地域社会の関連分析から調査した。具体的には、それぞれの競技大会開催地域に赴き、大会運営機構、関連組織、地域行政、地域住民組織、一般市民、学識経験者等にインタビユー調査を、また、合わせて関連資料の収集と分析を行うことによって明らかにしようとした。平成8年度調査は、単一種目の競技大会では至高の権威を有するウインブルドン・ローンテニスチャンピオンシップスとオーガスタ・マスターズトーナメントを事例に調査した。平成9年度調査では、伝統や歴史を担う民族文化的性格を持つ競技大会として、中世サッカーを再興させているフィレンツェ・カルチョストリコとバスク・ルーラルスポーツを事例として調査した。平成10年度調査は、グローナリゼーションの中にある地域形成の問題を焦点にして、英国スカイ島のハイランドゲームズとドイツ・バイヤー04レーバークーゼンのブンデスリーガ・ホームゲームを事例に調査した。こうした調査で得られたデータ分析の結果、競技大会が地域社会における社会制度として発展し、豊かなコミュニティ形成の機能を発揮するためには、競技大会が当該地域住民のコミュニティ・アイデンティティやローカル・ロイヤリティのシンボルとなることが重要であり、そのシンボル化作用は、長い開催の歴史に支えられた競技大会の権威、伝統文化やエスニシティと関わる文化的固有性、そして住民の生活と密着しながら社会変化に対応する柔軟な運営システムが必要なことが分析された。