著者
山里 道彦 佐藤 晋爾 池嶋 千秋 朝田 隆
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.200-208, 2006 (Released:2007-07-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

Ponsford の提唱した「談話障害」に該当する症例を経験した。  症例は 37 歳男性で,脳外傷慢性期に,注意障害と記憶障害,遂行機能障害がみられた。脳外傷の部位は,両側前頭前野背内側部,右側頭葉外側部および右扁桃体であった。当症例の発言の特徴は a) 話がまわりくどい,b) 場にそぐわない話題を選ぶ,c) 自分のことを一方的に延々と話し続ける,d) 聞き手の不快感を考慮しないことの 4 点であった。これに起因して,対人関係の面で支障をきたしてきたものと思われた。こうした問題は,遂行機能障害,情動の認知障害,それに言動の自制困難の要素が合わさって生じる特有の臨床像と考察された。
著者
佐藤 晋爾 朝田 隆
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.571-574, 2013-06-15

はじめに 激越型うつ病とは,非常に強い不安と落ち着きのなさを示すうつ状態であり,うつ病の主な特徴である抑制性を部分的に認めない病態をいう。典型的な病像は7,8,9,14),一時も落ち着かずそわそわとし,椅子に座ったり立ったりし部屋の中をうろうろと歩き回り,あるいは逆に「体が動かない」と唐突に横になろうとする。一方,体のどこか,特に両手をもぞもぞと動かし,髪の毛や服などをずっといじっている。嘆息しながら苦悶様の表情で強い絶望感,不安感注1),悲哀感,罪業感,心気的訴えなどを繰り返し,話の内容も常同的といってよい状態となる。なかには訴えの内容が妄想的になり,精神病性うつ病へと診断が移行する場合もある。苦悩感が強い上に衝動的(激越発作;raptus melancholicus)13)になることがあり,臨床的には自殺企図が危惧される状態である9,14)。激越型うつ病は女性,高齢者に比較的多くみられ,いわゆる退行期うつ病(Involutionsdepression)との重複が論じられることもある4,7,14)。
著者
佐藤 晋爾
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.559-562, 2018-05-15

抄録 五苓散は浮腫,下痢,嘔吐などに使われ,安全性が高く高齢者にも用いられる漢方薬の一つである。今回,慢性的な口渇と抑うつ状態が五苓散により改善した1例を経験した。症例は62歳の女性。Amoxapineで小康状態となったものの,約9年間,口渇を訴え続けていた。抗コリン作用の少ない抗うつ薬に変更したが変化はなく,内科的問題も指摘されなかった。このため五苓散を投与したところ,投与1か月後に口渇は改善した。五苓散は水分バランスの調整作用から口渇に効果があるとされているが,抗うつ作用,抗不安作用を持つと考えられる茯苓を含んでおり,器質的な口渇のみならず精神的な口渇感にも効果を有する可能性が考えられた。
著者
山口 直美 小林 純 太刀川 弘和 佐藤 晋爾 堀 正士 鈴木 利人 白石 博康
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.25-32, 2000-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
30

摂食障害患者を自殺企図の有無で2群に分類し, 2群間でParental Bonding Instrument(PBI)で測定された両親の養育態度や臨床症状などについて比較検討した.PBIの結果において, 自殺企図群では両親のoverotection(過保護)得点が有意に高かつた.また自殺企図群では虐待体験を伴う症例が有意に多かつた.一方, 発症年齢, 調査時年齢, 摂食障害の重症度, 過食, 嘔吐, 下剤乱用, 物質乱用, 抑うつ状態の有無などについては2群間に有意差を認めなかつた.摂食障害患者において自殺企図の危険因子として, PBIの高いover protection得点で示されるような, 親の支配的で過保護な養育態度や虐待体験などが重要と考えられた.