著者
太刀川 弘和
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1025-1032, 2021-07-15

抄録 本稿では,コロナ禍前(プレコロナ),コロナ禍中(ウィズコロナ)にわけて日本と世界の自殺者数の推移や現況を各種統計から概観した。プレコロナでは,1998年以後14年にわたり年間自殺者数3万人以上の状態が続いていたが,2009年より減少傾向となった。それでも世界と比較すれば,日本はOECD加盟国では6位,G7では1位の自殺率であり,年次推移も世界の自殺率減少のトレンドに及ばなかった。ウィズコロナの2020年,日本の自殺率は11年ぶりに増加し,特に女性,若年層,医療従事者,飲食店関係者など,コロナ禍に関連して社会経済生活にストレスが生じた層の自殺者数が増加した。現在までにコロナ禍と直接関係づけられる自殺者数増加が報告されているのは,日本の他世界的に少ない。ポストコロナにおいて自殺者数増加を抑止するためには,精神保健福祉システムの強化やレジリエンスを高める教育システムの強化が喫緊の課題と思われる。
著者
相羽 美幸 太刀川 弘和 Lebowitz Adam J.
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.90.17241, (Released:2019-11-15)
参考文献数
31
被引用文献数
1 3

The interpersonal-psychological theory of suicide proposes that suicide occurs in the presence of three factors: perceived burdensomeness, thwarted belongingness, and acquired capability for suicide. The Interpersonal Needs Questionnaire (INQ) was developed to assess the first two factors, and the Acquired Capability for Suicide Scale (ACSS) was developed for the third. Our study presented here developed and evaluated Japanese versions of the INQ and ACSS, and determined the best ones for Japanese samples. In Study 1, we asked 189 university undergraduates to evaluate each scale’s clarity. In Study 2, 812 undergraduates were asked about the INQ, the ACSS, and validity items, and 225 undergraduates participated in a second survey approximately one-month from the initial survey for test-retest reliability. In Study 3, 104 psychiatric patients completed the INQ and ACSS and were asked about suicidal ideation and suicidal attempt. Content, structural, generalizability, and external validity results showed that each version of the INQ and ACSS demonstrated acceptable validity. Our comprehensive evaluation provides evidence that INQ-10/INQ-15, and ACSS-5/ACSS-FAD can yield reliable data from Japanese-language population samples.
著者
堀 正士 太刀川 弘和
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

研究目体に同意が得られ、音声採取を行った統合失調症患者は12名(男性9名、女性3名)であった。採取時年齢平均44.8歳、平均発症年齢23.5歳、平均罹病期間21.3歳であり、全例が慢性期にある患者であった。全例が抗精神病薬を投与中であり、12例中9例が主に非定型抗精神病薬を投与されており、全例でパーキンソニズムやアカシジア、アキネジアなどの錐体外路症状は認められなかった。これらを我々の主観に基づきプレコックス感あり(以下「あり」と略)とプレコックス感なし(以下「なし」と略)の二群にわけて相違点を検討した。二群間で平均発症年齢、平均罹病期間、採取時平均年齢を見たが相違は認められなかった。しかし、「あり」では5例中2例が解体型であったのに対して「なし」では7例中わずか1例が解体型であり、病型に差違が認められた。また二群間でPANSS得点を比較すると、陽性症状尺度、陰性症状尺度、総合精神病理評価尺度いずれにおいても、「あり」が「なし」に比較して高得点である傾向が見られた。さらに二群間で音声解析結果を比較すると、以下のような傾向が見られた。発声指示から実際の発声までの時間(発声潜時)は怒り、喜び、悲しみのいずれの感情を込めて発声する場合も、「あり」が「なし」よりも短時間であった。なかでも、「なし」では悲しみの感情を込めた発声で他の2つの感情よりも潜時が長くなる傾向があるのに対して、「あり」ではいずれの感情を込めた場合もほぼ同じ潜時であった。また、実際の発声時間においては、怒りと悲しみの感情において「あり」の発声時間が「なし」よりも短時間である傾向が認められた。音声の周波数特性に関しては、二群間ではスペクトログラフィの目視上では明らかな違いが認められなかった。以上まとめると、プレコックス感の認められた症例では解体型が多く、音声採取時点で精神症状がより活発な傾向が認められた。また同群では感情をどのように発声に反映させるかという試行錯誤の時間がプレコックス感なしの群に比較して短く、感情移入の障害があると推察された。
著者
小髙 真美 高井 美智子 立森 久照 太刀川 弘和 眞﨑 直子 髙橋 あすみ 竹島 正
出版者
一般社団法人 日本自殺予防学会
雑誌
自殺予防と危機介入 (ISSN:18836046)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.36-46, 2022-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
22

【目的】自殺予防のためのゲートキーパー(GK)に最小限必要な知識とスキルを評価する簡便な指標を開発することとした。【方法】内閣府の『ゲートキーパー養成研修用テキスト』からデルファイ法を用いて抽出した、GKに求められる知識とスキルの習得度を評価する尺度を作成した。次にGK研修受講者に研修前後と一週間後に質問紙調査を実施した。質問紙は本研究で開発した尺度(GK知識・GKスキル)、『日本版自殺の知識尺度』『自殺予防におけるゲートキーパー自己効力感尺度(GKSES)』等で構成した。【結果】研修受講者109名から回答を得た。GKスキル得点とGKSES得点に有意な中程度の正の相関が認められた。研修後は研修前よりもGK知識・スキル得点の平均値が有意に高かった。GK知識・GKスキルの各合計得点と研修1週間後の各合計得点には有意な強い正の級内相関が認められた。【考察】本研究で開発した尺度の信頼性と妥当性が確認され、『自殺予防ゲートキーパー知識・スキル評価尺度(GKS)』と命名した。
著者
太刀川 弘和 高橋 あすみ
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

近年各大学で自殺予防対策が始まっている。しかしこれまでに、大学生向けの標準化された自殺予防教育手法は開発されていない。そこで本研究では、欧米の自殺予防プログラムを参照して講義形式とeラーニング形式の二つの自殺予防のメンタルヘルス・リテラシー教材を開発し、有用性を検証した。講義と演習からなる自殺予防教育プログラムCAMPUSは、医学部生に実施した。実施後に自殺予防の理解度は向上し、3か月後に自殺念慮も低下した。E-learningの危機介入リテラシープログラムは、実施後のウェブ調査で被験者の知識が向上し、抑うつ気分も低下した。二つの自殺予防教育プログラムは、大学生の自殺予防に有効と思われた。
著者
相羽 美幸 太刀川 弘和 Lebowitz Adam J.
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, pp.473-483, 2019 (Released:2019-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
3

The interpersonal-psychological theory of suicide proposes that suicide occurs in the presence of three factors: perceived burdensomeness, thwarted belongingness, and acquired capability for suicide. The Interpersonal Needs Questionnaire (INQ) was developed to assess the first two factors, and the Acquired Capability for Suicide Scale (ACSS) was developed for the third. Our study presented here developed and evaluated Japanese versions of the INQ and ACSS, and determined the best ones for Japanese samples. In Study 1, we asked 189 university undergraduates to evaluate each scale’s clarity. In Study 2, 812 undergraduates were asked about the INQ, the ACSS, and validity items, and 225 undergraduates participated in a second survey approximately one-month from the initial survey for test-retest reliability. In Study 3, 104 psychiatric patients completed the INQ and ACSS and were asked about suicidal ideation and suicidal attempt. Content, structural, generalizability, and external validity results showed that each version of the INQ and ACSS demonstrated acceptable validity. Our comprehensive evaluation provides evidence that INQ-10/INQ-15, and ACSS-5/ACSS-FAD can yield reliable data from Japanese-language population samples.
著者
山口 直美 小林 純 太刀川 弘和 佐藤 晋爾 堀 正士 鈴木 利人 白石 博康
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.25-32, 2000-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
30

摂食障害患者を自殺企図の有無で2群に分類し, 2群間でParental Bonding Instrument(PBI)で測定された両親の養育態度や臨床症状などについて比較検討した.PBIの結果において, 自殺企図群では両親のoverotection(過保護)得点が有意に高かつた.また自殺企図群では虐待体験を伴う症例が有意に多かつた.一方, 発症年齢, 調査時年齢, 摂食障害の重症度, 過食, 嘔吐, 下剤乱用, 物質乱用, 抑うつ状態の有無などについては2群間に有意差を認めなかつた.摂食障害患者において自殺企図の危険因子として, PBIの高いover protection得点で示されるような, 親の支配的で過保護な養育態度や虐待体験などが重要と考えられた.