- 著者
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元橋 利恵
Motohashi Rie
モトハシ リエ
- 出版者
- 大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
- 雑誌
- 年報人間科学 (ISSN:02865149)
- 巻号頁・発行日
- no.40, pp.73-86, 2019-03-31
研究ノート本稿は、ケアの倫理と母性研究を接続することによって、現代日本の母性主義を捉えなおしていく視角を得ることを目的としている。従来の母性研究は、社会構築主義の立場から「母性の神話」を解体してきた。しかし、1990年代以降、少子化社会化のなかで、母性研究は母性よりも親性の概念を用いていくなど、母性に対置するものとして「近代的自我」を強調し母性を乗り越えていくことが目標とされてきた。一方、ケアの倫理から発展したフェミニズム理論は、母性と近代的自我を対置するのではなく、近代的自我の条件としてケアを見出す。ケアを自己犠牲と捉えるのではなく、自分よりも弱い者との共存の原理として捉え、公私二元論批判を通じてケア関係を政治的価値のある共同体として捉えなおしていく。そして、これらの議論は、ジェンダー平等のための戦略として、ケア関係を現実的に代表するものとして母子関係を置き、母性の価値の再考を促す。このような母性の捉えかたは、本質主義とは区別される戦略的な母性主義であるといえよう。ケアの倫理による戦略的な母性主義は、2000年代以降に現れている、女性の産み育てをめぐる自己選択や自己決定に関する抑圧や、女性たちによる母性を掲げた社会運動といった、従来の母性研究の枠組みでは捉えられてこなかった母性をめぐる言語的または社会的実践を分析していく有効な視角を提供してくれるであろう。