著者
橋本 隆夫 内田 正博 小紫 重徳 光末 紀子 石川 達夫 三木原 浩 平野 雅史 石光 輝子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

冷戦構造の解体後の新たなナショナリズムのうねりの中で、ユーロ通貨統合に象徴される統合体としてのアイデンティティを模索するヨーロッパの文化の交錯をめぐるわれわれの研究は、これまでの成果を深めさらに一層の広がりと深みの地平を獲得し、ここでひとまず4年の区切りをつける。今年度は各自が4年の研究活動の集大成として、研究会の発表を基に、また、ある者は海外より持ち帰った最新の文献資料を駆使し、それぞれの研究を論文に結実させた。個々の活動としては、1 研究会としては11月30日に橋本隆夫氏が「新石器革命と大地母神信仰」と題して、ヨーロッパの基層にある大地母神信仰について考古学的知見とホメロスやヘロドトスの文献的研究をクロスさせた学際的発表を行った。2 7月12日に立命館大学教授西成彦氏を迎え、「小説の一言語使用」の題目で講演会および討論会を行い、ポーランド生まれのイギリス作家ジョセフ・コンラッドの言語的アイデンティティのゆらぎを中心に活発な意見が交わされた。3 12月7日には静岡文化芸術大学専任講師小林真理氏による講演会「ヨーロッパの文化権と文化法について」が行われた。文化芸術振興基本法についての議論が進められる中、文化の中心地として長く君臨したヨーロッパの現在の文化支援や文化政策について多くの知見が得られた。研究会、講演会、海外調査研究を通じて、わたしたちはヨーロッパにおける文化の交錯とアイデンティティの複雑さ、強靭さの一端を垣間見ることができた。地域研究=個別文化研究の枠組みにおさまりがちだったヨーロッパ研究の守備範囲を少しでも広げられたのではないかと小さな自負を感じるしだいである。
著者
光末 紀子 宗像 惠 曽根 ひろみ 須藤 健一 山崎 康仕 三浦 伸夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

平成12年度には、各研究領域に内在するジェンダー問題の摘出と分析が行われ、平成13年度には、研究会の開催と討議によってジェンダーに関する本格的な共同研究が進められた。平成14年度はこれをさらに推し進め、「現代社会における文化的性差を支える価値観と諸規範を根底から問い直す」という共通テーマに対する各人の研究成果を持ち寄って数回の研究会で意見交換を行い、共同討議を通じて研究の成果を統合することがめざされた。この研究計画にもとづき、3年間に合計9回の研究集会が開かれた。それぞれの報告者とテーマは以下のとおりである。第1回 曽根ひろみ「公娼制と梅毒」、桜井徹「『女としての自然』の収奪」。第2回 ブライディ・アンドリュース(ハーバード大学科学史・科学哲学科助教授)「アメリカにおけるジェンダー研究」。第3回 藤目ゆき(大阪外国語大学助教授)「公娼制度と日本軍慰安婦制度」。第4回 ロバート・フローデマン(コロラド鉱業大学教授)"Corrosive Effects : Environmental Ethics, Eco-feminism, and the Metaphysics of Acid-mine Drainage"。第5回 カリーム・ベナマル"Theory of Abundance and Scarcity"、土佐桂子「ミャンマーにおけるトランスヴェスタイト-男装者(ヤウチャシャー)のジェンダー論」。第6回 金野美奈子「性別職務分離研究再考-ジェンダー分析の方法論的リスク」。第7回 三浦伸夫「『レディーズ・ダイアリー』にみる18世紀英国の女性と数学」。第8回 光末紀子「B.パッペンハイムの思想と行動-ドイツにおける第一波フェミニズムの一動向」。第9回 曽根ひろみ「日本近世の法制とジェンダー」。いずれの研究集会においても、濃密な内容の報告をめぐって活発な討論が交わされ、本科研の共通テーマに関する研究分担者間の共通認識はいっそう深められた。その結果、新たな性差規範に基づく個々人のジェンダー・アイデンティティの確立と、あるべき「両性の共同性」への展望とを獲得するための基礎が築かれたと言えよう。さらに、各々の研究分担者における研究の進展の一部を紹介すれば、以下のごとくである。(1)光末は、19世紀末から20世紀初頭にわたるフェミニズム第一波の時代に、多くのフェミニストたちがジェンダーをめぐる様々な論争に参加したが、それらの論争を「母性」というキーワードのもとに検証した。(2)曽根は売買春についての歴史学、民俗学、社会学の研究史を批判的に検討し、それを一冊の単著にまとめた。(3)阪野は、ブレア政権の家族政策が、就労促進型給付の拡大や選別主義の強化といった点で保守党政権との連続性が強いことを明らかにした。(4)宗像は、フロイトのセクシュアリティ論を再検討し、男根中心主義とされるフロイト理論に伏在する、女性的セクシュアリティの始原性の契機を探求した。(5)土佐は、90年代のミャンマーの主要な雑誌に見られるジェンダー関係の記事を収集調査した。(6)上野はフランクフルト学派にみられる家父長制批判の論理とその逼塞を検討し、塚原はハーディングとハラウェイの観点観測論および強い客観性の概念を吟味した。