著者
菅原 里恵 堀中 繁夫 八木 博 石村 公彦 小口 渉 矢野 秀樹 石光 俊彦
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.1432-1436, 2012-11-15 (Released:2014-04-03)
参考文献数
17

脱水と溢水を繰り返し,心不全加療に難渋し全身性毛細血管漏出症候群と診断した症例を報告する.症例は66歳,男性.入院時の主訴は意識障害でBP 85/63mmHgと低血圧,血液検査ではHt上昇ならびに低アルブミン血症が認められたため,大量補液にて血圧は改善するも溢水となる.その翌日から急に5,000mL/日以上の多尿が認められ脱水となることを繰り返した.各種ホルモン検査および負荷試験はいずれも異常は認められなかった.しかし,尿中Na排泄量が多いため食塩負荷およびフルドロコルチゾンの投与を開始し増量したところ,再び溢水に伴う体重増加や心拡大,胸水貯留が認められたが用量の調整にて上記発作を出現することなく安定した状態で約2年間,外来通院内服加療した.再度心不全発症し,入院治療するも死亡.全身性毛細血管漏出症候群は,非常に稀な疾患であるが通常の加療に反応しないうっ血性心不全には,当疾患も鑑別疾患の1つとして念頭におくべきと考えられる.
著者
大八木 博貴 木下 和昭 眞田 祐太朗 阿部 渉 石田 一成 柴沼 均
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.145-149, 2021 (Released:2021-04-20)
参考文献数
25

〔目的〕本研究は人工膝関節全置換術(TKA)後の膝関節屈曲可動域(膝屈曲ROM)低下に及ぼす膝蓋骨アライメントの特徴を検討した.〔対象と方法〕対象は変形性膝関節症に対してTKAを施行された28膝とした.測定項目は年齢,Body Mass Index,膝屈曲ROM,膝蓋骨アライメント(外方傾斜角,外方偏位)とした.術後の膝屈曲ROMが術前値未満の群(ROM低下群)と術前値以上の群(ROM改善群)に分け,各測定項目を群間で比較した.〔結果〕ROM低下群はROM改善群に比べて術前後の膝蓋骨外方偏位と術後の膝蓋骨外方傾斜角が有意に高値であった.〔結語〕術後の膝屈曲ROMは,術前後の膝蓋骨外方偏位が大きく,術後に膝蓋骨外方傾斜角が増大するほど低値になる傾向が示唆された.
著者
木下 和昭 橋本 雅至 中 雄太 米田 勇貴 北西 秀行 大八木 博貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1394, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】簡便な下肢筋力推定方法であるスクリーニングとして30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30)や5回椅子立ち上がりテスト(以下,SS-5)がある。CS-30は歩行速度(曽我2008)や下肢伸展筋力(Jones CJ 1999),SS-5はレッグプレスによる下肢伸展筋力,Timed up and go test(以下,TUG)など(牧迫ら2008)と関係性を認め,それぞれ信頼性が報告されている。またCS-30とSS-5の間には有意な相関が認められ,相互に代用ができることも報告されている(大村ら2011)。しかし,これらは対象が虚弱高齢者や脳卒中片麻痺などであり,変形性膝関節症の患者(以下,膝OA)やその後,手術に至った患者での有用性は明らかにされていない。そこで本研究は膝OAの人工膝関節全置換術前(以下,pre)と人工膝関節全置換術後(以下,post)にて,この2種類の椅子立ち上がりテストの有用性について検討した。【方法】対象は膝OAの50名(年齢73.2±8.6歳,身長153.9±9.2cm,体重60.4±10.3kg)とした。測定項目はCS-30,SS-5,膝関節伸展筋力,台ステップテスト(以下,ST),TUGとした。2つの椅子立ち上がりテストは安静座位を開始肢位とし,両上肢を胸の前で組ませ,最大努力で40cm台からの立ち座り動作を繰り返す課題を行った。SS-5は5回の立ち座り動作の所要時間をストップウォッチにて測定した。CS-30は30秒間にできるだけ多く,立ち座り動作を繰り返させた回数を測定した。膝関節伸展筋力は加藤ら(2001)の方法に従い,端座位から膝関節屈曲90°位での最大等尺性収縮をハンドヘルドダイナモメーターにて測定した。測定値は体重にて除した数値とした。STはHillら(1996)が提唱した方法を一部改変し,静止立位をとった対象者の足部から前方に設置した20cm台の上に,最大努力で一側下肢を10秒間ステップさせた回数を測定した。TUGは椅子座位を開始肢位とし,任意のタイミングで立ち上がり3m前方のコーンで回転して開始肢位に戻るまでの歩行時間を計測した。本研究では,最大努力を課す変法(島田ら2006)を用いた。検討方法は手術2日前以内(pre)と退院時(post)に各項目を測定し,術前後の関連を検討した。統計学的手法はSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%未満とした。【結果】CS-30はSS-5との間に有意な負の相関が認められた(pre r=-0.65 p<0.01;post r=-0.83 p<0.01)。pre SS-5はpreの全ての測定項目との間に有意な相関が認められた(術側膝関節伸展筋力r=-0.44,p<0.01;非術側膝関節伸展筋力r=-0.37,p<0.05;術側ST r=-0.49,p<0.01;非術側ST r=-0.80 p<0.01;TUG r=0.46,p<0.01)。pre CS-30はpre術側のST以外に有意な相関が認められた(術側膝関節伸展筋力r=0.43,p<0.01;非術側膝関節伸展筋力r=0.33,p<0.05;非術側ST r=0.60 p<0.01;TUG r=-0.38,p<0.01)。post SS-5はpostの術側の膝関節伸展筋力以外に有意な相関が認められた(非術側膝関節伸展筋力r=-0.32,p<0.05;術側ST r=-0.48,p<0.01;非術側ST r=-0.61 p<0.01;TUG r=0.58,p<0.01)。post CS-30はpostの術側の膝関節伸展筋力と術側のSTにおいて,それぞれ有意な相関が認められなかった(非術側膝関節伸展筋力r=0.31,p<0.05;非術側ST r=0.38 p<0.01;TUG r=-0.49,p<0.01)。【考察】SS-5は今回測定した他の動作テストとの関係性が確認でき,先行研究と同様に膝OAに対して使用が可能であることが示唆された。CS-30はpreとpostともに,術側の動的バランステストとの関連を示さなかったため,人工膝関節全置換術前後の術側の評価においてはSS-5の方が短時間にて可能であり,負担が少なく,有用性の高いテストであると考えられた。しかし,下肢の筋力の推定を行う場合や立ち上がりが不可能な場合は,回数の規定がないCS-30の方も有用であると考えられ,荷重関節である膝関節に障害を持つ対象者に合わせて使用することが望ましいと考えられる。またpostでは今回用いた2つの椅子立ち上がりテストは,術側の膝関節伸展筋力と関係を示さず,退院時の術側の膝関節伸展筋力を推定するには課題があり,術後の動作に影響を及ばす関節可動域や変化した下肢アライメントなどが考慮されなければならないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】椅子立ち上がりテストは,臨床現場で簡易に行えるパフォーマンス(動作)テストであり,人工膝関節全置換術前の膝OAにも使用可能であったが,人工膝関節全置換術後の患者では術側の筋力を推定するには術後の動作に影響を及ばす他の要因を考慮する必要性が示唆できた。