著者
田中 雄太 加藤 茜 伊藤 香 五十嵐 佑子 木下 里美 木澤 義之 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.129-136, 2023 (Released:2023-05-10)
参考文献数
24

【目的】緩和ケアの実践には,現場の医療者の認識や受容性などを考慮することが重要である.本研究の目的は,救急・集中治療領域の医師の緩和ケアに対する認識や緩和ケア実践の障壁を明らかにすることである.【方法】集中治療室および救命救急センターに勤務する医師を対象に緩和ケアに関する質問紙調査を実施し,自由記述データを質的に分析した.【結果】873名に質問紙を送付し,436名から回答を得た(回収率50%).そのうち,自由記述欄に回答した95名(11%)を分析対象とした.【結論】本研究の結果から,わが国における救急・集中治療領域の医師は緩和ケアを自らの役割と捉え,日常的なケアの一部と考えて実践している一方で,緩和ケア実践の難しさや不十分さを感じていることが推察された.実践の障壁として,緩和ケアチームのマンパワー不足と利用可能性,救急・集中治療領域における緩和ケアに対する認識が統一されていないことなどが存在していた.
著者
野中 雄太 増田 一太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-114_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【症例紹介】 大後頭神経三叉神経症候群(以下,GOTS)とは,大後頭神経(以下,GON)と同側の三叉神経支配領域に痛みを生じる症候群である.臨床症状は,GON由来の後頭部痛や三叉神経由来の前頭部痛,頬の感覚低下が生じるとされている.一般的にGOTSの原因には不良姿勢の関与が報告されているが,姿勢評価を用いて発生要因を検討した報告はない. 今回,慢性的な右後頚部・後頭部痛,右前頭部痛や右頬の感覚低下を呈した症例を経験した.姿勢評価から本症例のGOTS発症因子について考察したので報告する.症例は60代男性.誘因はなく,右後頚部・後頭部痛,右前頭部痛を主訴に受診し,運動療法開始となった.【評価とリーズニング】 初期評価は,胸鎖乳突筋,下頭斜筋,頭半棘筋,僧帽筋上部線維,GON,小胸筋に圧痛を認めた.整形外科的テストはSpurling test,Jackson testは陰性,前胸部Tightness testは陽性であった.関節可動域は頸部屈曲50°,伸展30°,回旋は左50°/右50°であった.姿勢評価では,壁肩峰間距離は左5.5㎝/右8.3㎝で,胸椎回旋時の肩峰床面距離は左16.0㎝/右19.8㎝であった.また,立位にて壁から外後頭隆起間を測定したOcciput to wall distance(以下,OWD)は9.1㎝であった.OWDは胸椎後彎程度を軽度,中等度,強度に分類する簡易的な測定方法として用いられ,本症例は強度後彎であった.さらに,壁からC7棘突起間を測定したWall-C7 distance(以下WCD)は5.5㎝,Chin Brow Vertical Angleは35°,C7-Tragus Angle(以下,C7-T角)は40°であったことから,頭部前方位姿勢であると考えられた.X線所見にてC2-7角は18.9°と減少傾向であり,Chibaらの方法を用いた側面像Alignment分類においてはストレートに分類された. これらの評価より,本症例は頭部前方位姿勢による頸椎深層筋群への過負荷により,同筋らの攣縮が,GONへの圧迫・牽引刺激を引き起こしたものと考えられた.GONは,下頭斜筋背側を迂回,頭半棘筋や僧帽筋腱を貫通後,後頭部表層へと走行するため,筋による圧迫刺激が生じやすい.さらに,GONは三叉神経脊髄路核にて三叉神経とシナプス結合しており,GONへの刺激が三叉神経に伝播したことでGOTS症状を呈したものと考えられた.【介入と結果】 GON圧迫要因として考えられた頸椎深層筋群や頭部前方位姿勢を助長する因子である胸鎖乳突筋の攣縮除去を目的としたリラクセーションや同筋へのストレッチングを実施した.また,頭部前方位姿勢,胸椎後彎位の是正を目的とした前胸部柔軟性改善も同時に実施した.その結果,治療4週経過時に,主訴であった後頭頚部,前頭部,頬の感覚低下の消失を認めた.【結論】 本症例は頭部前方位姿勢による過負荷が頸椎深層筋群の攣縮を惹起し,GON圧迫刺激に加え,頭部前方位によるGONへの牽引刺激が合併したものと考えられた.さらに,胸鎖乳突筋の攣縮や前胸部の柔軟性低下も頭部前方位姿勢を助長する可能性が考えられた.【倫理的配慮,説明と同意】本症例に対して,本発表の意義を十分に説明し,口頭にて同意を得た.
著者
増田 一太 西野 雄大 野中 雄太 山村 拓由 河田 龍人 笠野 由布子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0208, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】梨状筋症候群(以下,PS)は,運動時や座位時に殿部痛を主体とする圧迫型神経障害である。PSの発症には,不良座位姿勢が危険因子であることや鑑別試験であるPaceテストは座位で実施するなど,PSと座位時痛の関係性は深い。若年者を対象とした先行研究においても,座位時の梨状筋偏平化要因は殿部脂肪厚と比較的強いの正の相関(r=0.7,p=0.02)を認め,座位に伴う梨状筋の偏平化の可能性が示された。しかし,脂肪組織のクッション機能が経年的に低下することが報告されているため,PSの好発年齢である中年者においても先行研究の結果が必ずしも当てはまるとは言い難い。そこで今回,PS例を殿部痛の有無により分類し。殿部痛の発生要因を統計学的に検討したので報告する。【方法】対象は2014年4月より2015年3月までの間に,PSと診断され運動療法を終了した50名を対象とした。その内,座位時殿部痛を有する群(以下,S群)は21名(59.5±14.3歳)と座位時殿部痛を有さない群(以下,N群)29名(67.3±11.9歳)とした。検討した項目は身長,体重,BMI,性差,殿部最大周径,殿部最大周径をASIS間距離で除し正規化した殿部係数,レントゲンより計測した腰仙椎アライメント,腰椎前後角度とした。これらの検討項目から判別分析を行うために,性差にはカイ二乗検定,その他の項目には対応のないt検定を実施し検討項目を選別した。選別した項目に対しステップワイズ法による判別分析を用いて疼痛要因を分析した。統計学的処理の有意水準は5%未満とした。【結果】検討項目の選別において,年齢,体重,BMI,仙骨傾斜角,殿部最大周径,殿部係数に有意な差(p<0.05)を認めた。これらの項目に対し判別分析を実施した結果,BMI,殿部係数,年齢が座位時殿部痛の発生を判別するのに重要な因子であった。【結論】深部軟部組織は長時間座位に伴いより圧迫を受けやすいことや長時間の筋の圧迫による筋内圧上昇により脈管系を妨げ組織壊死を生じさせる可能性を指摘する報告がある。これらより,深層に存在する梨状筋は,長時間座位に伴い圧迫ストレスを持続的に受けやすく,また脈管系の阻害に伴い攣縮が生じやすい環境が存在するため,座位時殿部痛が継続的に生じる可能性が高い。判別分析の結果より座位時殿部痛の発生要因は,BMI,殿部係数,年齢の順に座位時殿部痛の発生に強く関与していることが分かった。S群において,BMI,殿部係数の低値など殿部脂肪組織厚が薄い可能性を示す所見が得られた。これは先行研究の結果の殿部脂肪組織厚と梨状筋の偏平化率との関係性を支持する結果であると考えることができる。またN群に比較し高い年齢帯であることは,経年的に脂肪組織のクッション機能が低下する報告とも整合性が得られる結果となった。これらより殿部脂肪組織の薄さは,座位時殿部痛との関係が深く,治癒阻害因子となる可能性が示唆された。
著者
木下 和昭 橋本 雅至 中 雄太 米田 勇貴 北西 秀行 大八木 博貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1394, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】簡便な下肢筋力推定方法であるスクリーニングとして30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30)や5回椅子立ち上がりテスト(以下,SS-5)がある。CS-30は歩行速度(曽我2008)や下肢伸展筋力(Jones CJ 1999),SS-5はレッグプレスによる下肢伸展筋力,Timed up and go test(以下,TUG)など(牧迫ら2008)と関係性を認め,それぞれ信頼性が報告されている。またCS-30とSS-5の間には有意な相関が認められ,相互に代用ができることも報告されている(大村ら2011)。しかし,これらは対象が虚弱高齢者や脳卒中片麻痺などであり,変形性膝関節症の患者(以下,膝OA)やその後,手術に至った患者での有用性は明らかにされていない。そこで本研究は膝OAの人工膝関節全置換術前(以下,pre)と人工膝関節全置換術後(以下,post)にて,この2種類の椅子立ち上がりテストの有用性について検討した。【方法】対象は膝OAの50名(年齢73.2±8.6歳,身長153.9±9.2cm,体重60.4±10.3kg)とした。測定項目はCS-30,SS-5,膝関節伸展筋力,台ステップテスト(以下,ST),TUGとした。2つの椅子立ち上がりテストは安静座位を開始肢位とし,両上肢を胸の前で組ませ,最大努力で40cm台からの立ち座り動作を繰り返す課題を行った。SS-5は5回の立ち座り動作の所要時間をストップウォッチにて測定した。CS-30は30秒間にできるだけ多く,立ち座り動作を繰り返させた回数を測定した。膝関節伸展筋力は加藤ら(2001)の方法に従い,端座位から膝関節屈曲90°位での最大等尺性収縮をハンドヘルドダイナモメーターにて測定した。測定値は体重にて除した数値とした。STはHillら(1996)が提唱した方法を一部改変し,静止立位をとった対象者の足部から前方に設置した20cm台の上に,最大努力で一側下肢を10秒間ステップさせた回数を測定した。TUGは椅子座位を開始肢位とし,任意のタイミングで立ち上がり3m前方のコーンで回転して開始肢位に戻るまでの歩行時間を計測した。本研究では,最大努力を課す変法(島田ら2006)を用いた。検討方法は手術2日前以内(pre)と退院時(post)に各項目を測定し,術前後の関連を検討した。統計学的手法はSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%未満とした。【結果】CS-30はSS-5との間に有意な負の相関が認められた(pre r=-0.65 p<0.01;post r=-0.83 p<0.01)。pre SS-5はpreの全ての測定項目との間に有意な相関が認められた(術側膝関節伸展筋力r=-0.44,p<0.01;非術側膝関節伸展筋力r=-0.37,p<0.05;術側ST r=-0.49,p<0.01;非術側ST r=-0.80 p<0.01;TUG r=0.46,p<0.01)。pre CS-30はpre術側のST以外に有意な相関が認められた(術側膝関節伸展筋力r=0.43,p<0.01;非術側膝関節伸展筋力r=0.33,p<0.05;非術側ST r=0.60 p<0.01;TUG r=-0.38,p<0.01)。post SS-5はpostの術側の膝関節伸展筋力以外に有意な相関が認められた(非術側膝関節伸展筋力r=-0.32,p<0.05;術側ST r=-0.48,p<0.01;非術側ST r=-0.61 p<0.01;TUG r=0.58,p<0.01)。post CS-30はpostの術側の膝関節伸展筋力と術側のSTにおいて,それぞれ有意な相関が認められなかった(非術側膝関節伸展筋力r=0.31,p<0.05;非術側ST r=0.38 p<0.01;TUG r=-0.49,p<0.01)。【考察】SS-5は今回測定した他の動作テストとの関係性が確認でき,先行研究と同様に膝OAに対して使用が可能であることが示唆された。CS-30はpreとpostともに,術側の動的バランステストとの関連を示さなかったため,人工膝関節全置換術前後の術側の評価においてはSS-5の方が短時間にて可能であり,負担が少なく,有用性の高いテストであると考えられた。しかし,下肢の筋力の推定を行う場合や立ち上がりが不可能な場合は,回数の規定がないCS-30の方も有用であると考えられ,荷重関節である膝関節に障害を持つ対象者に合わせて使用することが望ましいと考えられる。またpostでは今回用いた2つの椅子立ち上がりテストは,術側の膝関節伸展筋力と関係を示さず,退院時の術側の膝関節伸展筋力を推定するには課題があり,術後の動作に影響を及ばす関節可動域や変化した下肢アライメントなどが考慮されなければならないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】椅子立ち上がりテストは,臨床現場で簡易に行えるパフォーマンス(動作)テストであり,人工膝関節全置換術前の膝OAにも使用可能であったが,人工膝関節全置換術後の患者では術側の筋力を推定するには術後の動作に影響を及ばす他の要因を考慮する必要性が示唆できた。