著者
八木 忠之
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.29-35, 2009-01

九州の友人からもらった昨年の年賀状に、水稲の作柄が悪かったことが書かれていた。聞いてみると、数年前から出穂後の台風、高温少照により収量・品質が低下しており、さらにこの現象は地球温暖化による影響で、主力品種のヒノヒカリが高温に弱いと評価されている…ということであった。筆者にとっては思ってもみないことであり、何かの間違いではないかとの気持ちもあった。しかしその後、全国紙にもほぼ同じ内容の記事が掲載され、いよいよヒノヒカリが高温に弱いとされていることが確かなことと思われた。筆者は、ヒノヒカリが高温に弱いという状況すなわち立毛、品質、収量に現れた影響に出会ったことがなかった。育成期間はもちろん、普及開始から数年後に、猛暑続きの夏を経過した年も、ヒノヒカリの収量品質は従来の九州向け多収良質品種と同等、ないしは上回る成績を示していたことから、逆に高温にも強いという印象を持っていた。また、家畜の糞尿を大量投入し、倒伏といもち病が激甚で、どす黒い玄米がわずかしか収穫できなかったという厳しい場合であっても、従来の食味水準をはるかに超えていることも確認していたし、ヒノヒカリの安定多収能力にはひそかに自信を持っていた。いくつかの農家圃場で証明されてもいた。しかし、多収能力についてはヒノヒカリに多収品種というイメージを与えるとむしろ不利であるとして口を閉ざしてきた。なぜなら、ヒノヒカリで多収が得られるとなると、生産者はさらに多収をねらい高品質米生産が2次的になる恐れがあり、また、流通業者は買い叩く要因にすることはもとより、極良食味という特性に虚偽の疑いを抱くことにつながりかねないからであった。さらに栽培面積を拡大し、西日本の基幹品種として稲作の安定を図るためには多収のイメージを避ける必要があった、しかし一方で、多収能力がなければ現在ほど栽培が広がることはなかったと確信している。本稿は、九州稲生産の不作・品質不良の要因に対して、一因とされているヒノヒカリの育成者側からの分析と対策への提言を行うものである。
著者
福田 善通 藤田 佳克 田村 克徳 八木 忠之
出版者
北陸作物・育種学会
雑誌
北陸作物学会報 (ISSN:03888061)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.90-93, 1999

インド型品種密陽23号と日本型品種アキヒカリとの組合せのリコンビナント・インブレッドライン(RI系統群)について, いもち病抵抗性に対するRFLPマーカーを用いた量的形質遺伝子座(QTL)解析を行った.幼苗検定では第1染色体に2カ所, 第2染色体に1カ所, 第3染色体に1カ所, 計4カ所でQTLが検出された.それぞれのQTLについて, 第1染色体のものをqPYO-MA1aおよびqPYO-MA1bと仮称した.また第2染色体はqPYO-MA2a, 第3染色体はqPYO-MA3aとした.また畑晩播検定でも, qPYO-MA2aおよびqPYO-MA3aが検出された.いずれのQTLも密陽23型の遺伝子型をもったとき抵抗性を示したが, これらのうちqPYO-MA2aは, 他のQTLに比べ非常に高い作用力を示したことなどから, 主動遺伝子のPibに対応する遺伝子座であると推定した.
著者
岡本 正弘 平林 秀介 梶 亮太 福岡 律子 八木 忠之 西山 壽 西村 実 深浦 壮一 山下 浩 滝田 正 斉藤 薫
出版者
農業技術研究機構九州沖縄農業研究センター
雑誌
九州沖縄農業研究センター報告 (ISSN:13469177)
巻号頁・発行日
no.39, pp.127-141, 2001-12
被引用文献数
3

「柔小町」は暖地の普通期作に適する初めての低アミロースの水稲品種であり、1999年3月17日に第7084号として品種登録、2000年8月25日に水稲農林364号として命名登録された。「柔小町」は、中生の晩で多収の「ニシホマレ」を母、dull遺伝子を持つ低アミロース系統「探系2021」を父とした交配組合せから系統育種法によって育成された。熟期は育成地では「ニシホマレ」とほぼ同じ中生の晩に属し、粳種である。稈長は中、草型は中間型、耐倒伏性は中、止葉の直立程度はやや立で草姿熟色は良好である。いもち病抵抗性遺伝子、Piaをもつと推定され、葉いもち圃場抵抗性はやや弱、穂いもち圃場抵抗性は中である。白葉枯病抵抗性は金南風群に属し、圃場抵抗性はやや弱である。収量性は「ニシホマレ」と同程度で多収である。玄米の粒大はやや小で、外観品質は中の中である。登熟期間の気温が平年並みの場合には米はほとんど白濁しないが、高温年では低アミロース米特有の白濁を生じる。アミロース含有率は平均すると12%程度で低アミロース品種としては高い。タンパク質含有率は中である。低アミロース米のため、炊飯米の粘りが強く、食味の総合評価は「ヒノヒカリ」並の上の中である。また、他品種との混米による食味向上効果が大きく、ブレンド適性は良好である。暖地の平坦地から中山間地および温暖地西部の平坦地に適応する。
著者
梶 亮太 岡本 正弘 八木 忠之
出版者
農業技術研究機構九州沖縄農業研究センター
雑誌
九州沖縄農業研究センター報告 (ISSN:13469177)
巻号頁・発行日
no.47, pp.63-81, 2006-06
被引用文献数
1 1

「ふくいずみ」は,西海199号を母とし,北陸148号(どんとこい)を父とした交配組合せから育成された。2004年に水稲農林400号として登録され,「ふくいずみ」と命名された。「ふくいずみ」は育成地(筑後市)における出穂期,成熟期が「日本晴」に比べて2~4日程度遅く,暖地では"早生の晩"に属する。「日本晴」と比較して,稈長は1~4cm短く,穂長はわずかに短く,穂数は同程度かやや少ない。草型は"中間型"である。耐倒伏性は「日本晴」より明らかに強く"強"で,耐転び型倒伏性は"やや強"である。いもち病に対しては真性抵抗性遺伝子"Pii"を持つと推定され,葉いもち圃場抵抗性は"中",穂いもち圃場抵抗性は"やや強"である。白葉枯病抵抗性は"中",縞葉枯病には"罹病性"である。穂発芽性は「日本晴」並の"やや易"である。移植での収量性は「日本晴」並で,直播での収量性は「日本晴」を上回る。玄米品質は「日本晴」にやや優る"中上"である。白米のタンパク質含有率は"やや低",アミロース含有率は"中"で,いずれも「日本晴」より低い。食味は"上中"で「コシヒカリ」に近い良食味である。温暖地の平坦地および暖地の全域に適する。湛水直播栽培においても,「日本晴」より耐倒伏性が強く収量が安定して優れる。