著者
冨山 清升 庄野 宏
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学総合教育機構紀要
巻号頁・発行日
no.4, pp.101-116, 2021-03

現在、AI やビックデータの処理といった新たな情報科学分野が発展しつつあり、日常生活においても急速に浸透しつつある。これらの分野を扱う基礎科学は数理データサイエンスと呼ばれており、大学においても全大学生の必須の知識として身につけることが求められている。鹿児島大学では、数理データサイエンス教育(以下DS 教育と略す)を全学必修科目として教える事が計画され、2020年度から実行に移された。鹿児島大学におけるDS 教育の全学必修化は、2019年度5月から共通教育センターにより計画立案されたが、異例の短期間で実施することができた。鹿児島大学におけるDS 教育の教育プログラム具体化の過程を、他校の事例の調査、各学部との折衝、鹿児島大学独自案の策定、各種会議の承認、などの観点からまとめた。また、DS 教育の基本プログラムとして、1年次に全学必修科目となっている「情報活用」にDS 教育の初歩的内容として組み込み、1・2年次に主に理系学部で準必修科目となっている「基礎統計学入門」をDS 教育の応用的内容として位置づけ、各学部の専門課程で行われるDS 教育の専門的内容につなげていく、積み上げ式のカリキュラム内容を示した。
著者
冨山 清升
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.87-100, 1993-03-31
被引用文献数
2

小笠原諸島父島において, アフリカマイマイAchatina furica(Ferussac)の殻の成長と生殖器形成の様式について観察をおこなった。一般に有肺類に属する陸産貝類は生殖器が形成されて性成熟すると殻の成長が停止し, 殻口外唇部が反転肥厚することが知られている。しかし, 本種では殻口反転はみられない。本種は生殖器が形成された後も3∿8ケ月の間, 殻の成長が継続する。性成熟が完了すると殻の成長は停止し, 時間とともにカルシウム沈着によって殻口外唇部は肥厚する。年齢の若い個体ほど殻口外唇部の厚さは薄いことが経験的に知られているため, 本研究では, 生殖器が形成されている検討個体を, 殻口外唇部の厚さで, 3つの令クラスに機械的にふりわけて比較した。すなわち, 若齢成熟個体(厚さ0.5mm未満), 中間個体(0.5mm以上0.8mm以下), および完全成熟個体(厚さ0.8mmを越える個体)とした。まず, 野外個体で, 殻口外唇部の厚さと殻の成長との関係を検討してみた。その結果, 殻口外唇部の薄い個体は殻の成長が著しく, 殻口外唇部が厚い個体は殻の成長が停止していることがわかった。また, 完全成熟個体とした令クラスはほとんど殻は成長していなかった。殻の成長率と殻口外唇部の厚さは相関があることがわかった。次に加齢に伴う性成熟の状態を比較するために, 若齢成熟個体と完全成熟個体の間で, 生殖器を比較した。その結果, 若齢成熟個体は精子生産のみで卵はほとんど生産しておらず, 完全成熟個体は精子・卵共に生産していることがわかった。しかし, 交尾嚢の比較の結果, 若齢成熟個体・完全成熟個体ともに交尾は行っており, 両者ともに生殖行動には参加していることがわかった。すなわち, 本種は雄性先熟の様式をもつものと推定された。有肺類は卵形成直前にタンパク腺が発達することが知られている。完全成熟個体では, タンパク腺がよく発達した卵形成直前の個体は交尾嚢が重く, よく交尾していることがわかった。本研究の結果, 殻口外唇部の厚さを測定することによって, 各個体の殻成長と性的成熟がある程度推定できることがわかった。
著者
冨山 清升
出版者
茨城大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

メダカを用いて、近親交配実験を行った。その結果、野生メダカは、飼育条件下では、近親交配によって、集団の遺伝的多様性のみならず、個体の遺伝的多様性も急速に低下することがわかった。集団の遺伝的均質化がいったん失われると、外部から新たな個体を導入しても容易に回復しないことも明らかになった。また、個体内の遺伝的多様性が失われた個体は、繁殖能力が著しく低下することも判った。RAPDプライマー法を用いて、直接、野生動物種の遺伝的多様性の検出を行い、集団のサイズやその集団が置かれている環境状態と関連性を調査した。調査対象としては、メダカ、オナジマイマイ、ウスカワマイマイを用いた。RAPDプライマー法の結果を用いて、メダカの野生集団、飼育集団、近親交配集団のDNAの多形の程度を数値化した。その結果、多形の程度は野生集団が十分の大きく、近親交配集団では、ほとんど多形が検出されないことがわかった。また、RAPDプライマー多形の程度は近親交配の程度を反映していることが裏付けられた。さらに、DNA多形の失われている個体は、形態においても左右対称性がゆがんでいることがわかった。以上の事実から、RAPDプライマー法を用いることによって、野外集団の近親交配の程度=絶滅の可能性の高さを推定することができることが判り、さらに、形態的な特徴である程度の推定が可能でことも示唆された。
著者
冨山 清升
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

南西諸島島嶼部における外来種陸産貝類の島の固有生態系に与える影響を調査した。アフリカマイマイの生息現況調査では、奄美大島においては、生息域が人家、畑付近、もしくは、道路沿いの草むらに限られ、自然林には侵入していないことが数量的に解明できた。ウスカワマイマイは亜種とされてきた、オオスミウスカワマイマイ、キカイウスカワマイマイ、オキナワウスカワマイマイ、ウスカワマイマイの4亜種がDNAレベルでは区別できないことが解った。また、ウスカワマイマイ類は人為的な分散をする傾向が強いが、DNAレベルで検討しても、人為分散の経路は解明が困難だと解った。
著者
山根 正気 冨山 清升
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.61-64, 1986-03-31

スマトラ・ジャワ両島の間に位置するクラカタウ諸島の生物相は, 1833年の大爆発により潰滅的な打撃をうけたといわれる。1908年から生物の再移住についての数次の調査がなされたが, 1934年を最後に約50年間中断されてきた。これまでに同諸島からは12種の陸産貝類が報告されていたが, 1982年の調査では8種が確認されそのうち2種(Amphidromus banksi, Pseudopartula arborascens)は未記録種であった。今回の調査には陸産貝類の専門家が同行しなかったため, 得られた結果はきわめて不充分なものと考えられるが, 少なくとも新たな種の移住が続いていることが強く示唆された。
著者
冨山 清升
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.211-227, 1984-10-15

タネガシママイマイSatsuma tanegashimae(Pilsbry)の種内変異について特に個体群間変異(地理的変異)の統計学的解析を行った。殻の20形質を計測し, 判別分析法, クラスター分析法によって個体群間の類似度を解析した。その結果以下のようなことがわかった。1. 本研究でタネガシママイマイとして扱った種は地理的変異が著しいが, すべての個体群が近縁種であるコベソマイマイとは明確に区別される。2. タネガシママイマイは4個の地理的グループ(宇治, 草垣, 三島-トカラ, 種子-屋久)に分けることができる。3. 宇治群島家島, 草垣群島上ノ島の個体群は他個体群にくらべ非常に特異的であり, 特に宇治群島個体群は若干の形質でコベソマイマイに似る。4. 硫黄島, 竹島の個体群は人為的に黒島から入った可能性が高い。5. トカラ列島の個体群は, 種子-屋久グループに対立する1つのグループを形成する。このことから, トカラ列島が過去に陸塊でつながっていた可能性が示唆される。