著者
前島 佳孝
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

1 西魏政権下における行台について検討した。西魏の行台は多様な形態を見せ、地方に置かれた一般行台と政権中枢に関わった宇文泰の大行台とに大別され、一般行台はさらに設置形態により、(1)対東魏前線の西魏統治地域に置かれたもの、(2)周辺諸勢力に対する外征や反乱の鎮圧のために置かれたもの、(3)在地勢力へ授与されたものに分類できる。これらは短期間に置廃され常設されなかった点で、常設機構と化していた北魏末期から東魏・北斉の行台とは大きく異なり、本来の臨時機構としての設置形態に回帰したと見なせる。宇文泰の大行台は、丞相府と並ぶ西魏の最重要機構として常設された。大統初年頃に管轄地域名称が外され、これによって管轄地域を限定されることなく、宇文泰は在所における尚書省の権限を代行しえた。平時は確固たる行政機構ではなく、宇文泰の幕僚収容機構として政策・制度の策定に関与し、出征時には現地の行政を執行し、また丞相府とともに行軍組織の運営に参与したと考えられる。西魏の行台の全体像に関する論稿は投稿先にて現在審査中。宇文泰の大行台に関しては『アジア史研究』32号にて公刊予定。2 唐高祖李淵の祖父で、西魏時期に活躍した李虎の事跡と関連史料について検討した。李虎は北朝から唐を結ぶ重要人物でありながら、唐代に編纂された文献ではありのままに記述できない点があったために史料が零細である。甘粛省清水県で発見された李虎墓誌銘を唐皇祖李虎のものであるとした先行論文に批判を加え、現段階で研究に使用できる史料について、潤色が施されている点、内容がぼかされている点や史料批判が必要な点を逐一指摘した。『人文研紀要』2007年秋刊行号にて公刊予定。3 前年度に執筆した西魏北周時期の官制改革に関する論稿が『東洋史論集』34号にて、魏晋南北朝時期に関する学界動向が『史学雑誌』115編5号にて、それぞれ公刊された。
著者
前島 佳孝
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.91, pp.235-260, 2018

政権がその統治領域をどのように区分し、どの地域・都市を重要視していたのかは、政治・経済・国際関係の状況と密接に関わるものであり、相互に検討を深めていくことができる。その際には地図を描き起こすことが重要である。西魏政権については、かつて毛漢光氏が府兵制に基づく地域区分がなされていたという主張に基づいて地図を作成されたが、本稿はその所説に若干の批判を加えるものである。主な問題点として、仮説のベースとなった根本史料たる『周書』巻一六・末尾部分の信憑性が、史料批判の結果、大いに揺らいでいること、地域区分が地理的に不自然なこと、検討対象者に付与する属性の項目に問題があること、判断材料とするデータの採否に恣意的な例が見られること、検討対象者が少ないことなどが挙げられる。