著者
大場 淳 芦沢 真五 小貫 有紀子 田中 岳 前田 一之
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

日本の大学改革では意思決定における上意下達的側面や制度改革が重視され、一定方向のガバナンス改革が一律の全大学に適用される傾向がある中において、本研究は、国内外の調査に基づいて、個々の大学が有する諸条件によって望ましいガバナンスの在り方は異なっていることを明確にした。そのことは、大学運営に関する改革の在り方は、例えば学長の権限拡大や教授会の権限縮小といった一律の制度改革を行うことではなく、個々の大学が適切なガバナンスの在り方を構想することを支援することにあるべきことを示唆するものである。研究成果については、学会等での発表、雑誌論文の掲載、書籍への執筆等を通じて、日本語及び外国語で行った。
著者
前田 一之
出版者
京都教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

教授会の諮問的役割を明文化した平成27年4月の学校教育法改正は, 大学組織における上意下達型のガバナンスに決定的ともいえる法的正当性を付与したが, 国立大学法人化に淵源を有するこれら一連の改革は, 集権化が大学組織の経営効率を高めるという「前提」に依拠しているに過ぎず, 確たる裏付けがなされている訳ではない。「産業企業とは異なる組織特性を有する大学において, 組織構造の集権化は大学経営の質を高め得るのか」, 本研究は, かかる問題意識に基づき実施がなされたが, 研究の趣旨に照らし, 政策的誘導が相対的に生じにくい, 私立大学のみに限定した。従来, 私立大学における経営状態の規定要因を分析した先行研究では, 定員充足率や人件費比率が用いられてきたが, これら指標では, 本研究が目的とする「組織運営の効率性」を把握することはできない。そこで, 筆者は, 私立大学の財務データをもとに, DEAによる効率性分析とTobitモデルによる回帰分析を併用することで, 組織の運営効率に対する所有権構造の影響について実証的観点から検証を行うこととした。分析の結果, 組織構造は, 組織の運営効率に対して, 影響を及ぼしていないことが明らかとなった。逆に, 組織の運営効率に対して, 最も強い影響を及ぼしていたのは選抜性であり, わが国においては, 大学の威信による経路依存性が未だ根強く残っている状況が看取された。今後, 少子化が進行する中で, 大学の自助努力のみを期待する政策では, 多くの大学は自大学で統制不能な要因によって市場からの撤退を余儀なくされる可能性が高い。一方, かかる強い影響力を有する選抜性で統制してもなお, 柔軟性と革新性を志向するアドホクラシー文化が効率性に対して有意に正の影響を及ぼしていた事実は興味深く, この結果は, 米国における先行研究とも符合している。結果的に, 大学組織における中央集権的な所有権構造の有効性は否定されたといえる。
著者
前田 一之
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

わが国に限らず, 近年の大学ガバナンス改革は, 上意下達型の官僚制モデルを組織の調整メカニズムとして用いる点に特徴がある. しかし, 組織の形態は多種多様でありヒューマンサービス組織である大学において官僚制モデルが有効に機能し得る根拠はない. かかる問題意識に基づき筆者が先に行った研究(奨励研究 課題番号16H00084)では, 選抜性で統制してもなお, 柔軟性と革新性を志向する組織文化が組織の運営効率に好影響を及ぼしている実態が明らかとなった. あわせて, この研究では, 集権型の組織構造が, 運営効率に対して効果を有していない事実も明らかとなった. 一方, この研究では, 単一の個人による認知を組織文化一般として, 取り扱っている点に限界があった. そこで, 本研究ではマルチレベル分析を用いることによって, 大学の運営効率を高めるメカニズムを解明することを目的として実施された. 設定した課題は二つある. 第一の課題は, 大学レベルでの組織文化及び学長リーダーシップが個人レベルの組織コミットメントや集団の協働意識に影響力を持ち得るのか否か検証を行うことである。第二の課題は, 形成された協働意識が運営効率に対して影響力を持ち得るのか否か検証を行うことである.本研究を実施するうえで, 分析の対象は私立大学, 専門領域は人文系学部に限定し, 調査方法としてWebのアンケートフォームを用いることとした. アンケート送付対象者は, 教員に関しては, 全私立大学のHPを閲覧し, 公表されているメールアドレスを収集した. 最終的に収集したデータ数は178大学, 4831人である. また, 職員に関しては公表されている全私立大学の担当者メールアドレス一覧を利用し, データを収集することとした. 大学の組織文化やリーダーシップの定量的調査において, マルチレベル分析がなされたことはなく, 本研究はその点に意義を有する. 現在, 調査は完了していないが, 解析が完了次第, 成果を公表する予定である.