著者
橋本 隼一
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的はminimax探索を基盤とするコンピュータ将棋プログラムに言語処理で培われてきたアルゴリズムを導入し,特にn-gram統計を利用したヒューリスティックを用いて強化を図り名人レベルのプログラムを実現することであった.実際,昨年度導入したn-gramを用いたキラーヒューリスティックや,浅いレベルに限定したヒューリスティックの利用は本研究室で開発を行ってきたコンピュータ将棋TACOSの強化に寄与し,その名前が先日情報処理学会から日本将棋連盟に送られた挑戦状において「名人に伍する力ありと情報処理学会が認めるまでに強いコンピュータ将棋」を実現するための一プログラムとして記されたことで,当初の目的は一定の成果を挙げた.ここ数年のコンピュータ将棋の発展を概観すると,その原動力が大規模な評価関数の自動調整と計算機速度の上昇によって可能となった網羅的な探索にあったと言える.そのような状況で我々の手法は選択的な探索を指向しており方向を異にしていた感はある.しかしながら本年度の発表に挙げたような人間の熟達度を測る指標としてのn-gram統計の利用を見出したことは,一般人がほとんど太刀打ちできなくなったコンピュータ将棋のこれからの方向性-初心者への教師としてのプログラム形成-を考えていく上で貢献できると考える.また本研究での成果はコンピュータ囲碁の発展に貢献できると考えられる.将棋では名人レベルへの目処がついたが,囲碁(19路)ではいまだアマチュアのレベルである.コンピュータチェス,コンピュータ将棋の歴史を見るといずれもヒューリスティックの効果的な利用がプログラム強化のブレイクスルーとなった時期があり,コンピュータ囲碁ではまさにその時期にあたる.本研究の延長として言語ベースアルゴリズムによる名人レベルのコンピュータ囲碁の実現を今後の課題としたい.
著者
横山 啓太
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

数学の諸命題の強さを論理学の視点から分析する逆数学研究の基盤を広げ、より多様な視点から数学の諸命題の評価を行うことを目指して研究を行った。特に、これまで計算可能性理論の視点からの命題の強さの評価に偏りがちだった組み合わせ命題の強さについて、帰納法の強さ等の証明論的強さの視点からの評価を行うための諸種の手法の導入を行った。さらに、これらの成果を構成的数学の視点を踏まえて計算機科学、特にプログラム検証の分野と結びつけるための道筋を得た。
著者
國藤 進 三浦 元喜 羽山 徹彩
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では個人とグループのスムーズな創造的思考活動の移行を可能にするための知識創造支援環境を研究開発した.そのために,まず発散的思考支援機能と収束的思考支援機能を備えた知識創造支援環境を調査した.発散的思考および収束的思考の主要な技術としてはブレインストーミング支援ツール"Brain Writer"および手書きKJ法支援ツール"GKJ"がある.それらは創造的思考プロセスの個人とグループの両モードに対し,適用することができる.
著者
水本 正晴
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2020年度の国際会議Cross-Linguistic Disagreement の計画を、研究協力者と共に議論し、会議の要旨を作成した。それをもとに、会議の基調講演をColiva Annalisa (University of California, Irvine)、Jennifer Lackey (Northwestern University)、John MacFarlane (University of California, Berkeley)に依頼し、幸い3人とも引き受けてもらえた。また、その会議の理論的基礎となる論文集Epistemology for the Rest of the World をオックスフォード大学出版から出版した他、その続編となる論文集Ethno-Epistemologyを編集、世界的な出版社と出版について交渉し、現在査読中である。すでに非常に好意的なレビューが一つ返ってきている。また、ニュージーランドで開催された実験哲学の会議では、「知っている」と「分かっている」についてのさらなる詳しい研究を発表し、両者の使用の判断についての大きな違いを報告すると共に、それらが異なる知識概念を表しているという水本の従来の主張を補強した。さらに、他者の感情についての判断について日本人、中国人、アメリカ人の間で極めて興味深い違いがあることを発見し、それをオーストラリアで開催された心理学の哲学の会議で報告した。これらはcross-linguistic disagreement を具体的に考察するためのさらなる具体例を与えることになる。
著者
横山 啓太
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は前年度から継続して研究しているKolodziejczyk博士(ワルシャワ大学)、Wong博士(シンガポール国立大学)らとの共同で算術における証明のサイズ・長さと公理系の関係についての分析を幅広く進めた。特に組み合わせ命題がどのような条件で証明を短縮できるかについて細かく調べ、ラムゼイの定理の場合について証明の長さを短縮する例・しない例についての具体的な結果を得るとともに一般の場合についての予想を得た。この研究中で、指標関数と呼ばれる1970年代に提案された算術の超準モデルの分析手法を現代的に整備し直し、多くの新しい研究に適用できる形に手法を一般化した。また、国内の4人の研究者との共同で算術における論理公理の分離問題をクリプキモデルと超準モデルの手法を組み合わせて一般的に解く手法の構築を進めた。さらに完備距離空間上の最適化問題に関するEkelendの定理やCaristiの不動点定理の逆数学的強さの分析等の研究を進展させ、Ekelandの定理がいわゆる可述的と呼ばれるレベルの公理系を超える強い公理と同値になること等の結果を得た。いずれについても、現在主要な成果について論文にまとめる作業を進めており、投稿に向けて準備中である。また前年度大きく発展した諸種の組み合わせ論の強さの逆数学手法による分析成果をまとめ、特にラムゼイの定理に関する証明論的強さを確定させた主要な2本の論文が受理されるとともにそれらを計算機科学分野の定理に応用した論文についても受理された。関連論文の執筆も引き続き進めている。
著者
佐藤 理史
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、電子ニュースにおける、いわゆる「掲示型」と呼ばれるニュースグループ(例えば、fj. wantedやfj. forsale等)のダイジェストを自動作成する方法について検討し、fj. wantedのダイジェストの自動生成システムを実現した。本システムの中心技術は、ニュース記事からその記事のカテゴリを判定し、その記事の内容を端的に表すサマリ文を抽出する技術である。本研究で開発した方法は,言わば「斜め読みを模擬した処理」であり、まず、表層的な表現を手がかりとして、42の特徴を抽出する。次に、それらの特徴を利用したルールによって、記事のカテゴリとサマリ文を抽出する。ブラインドデータに対する実験において、本方法は、カテゴリ判定正解率81%、サマリ文抽出正解率76%という値を示した。抽出されたサマリ文はカテゴリ毎に整理され、HTML形式のダイジェストとして出力される。このとき、元の記事へのポインタは、ハイパーテキストのリンクとして埋め込まれる。作成されたダイジェストは、WWWのクライアントプログラムによって読むことができる。本研究で開発した方法は、fj. wantedを対象としたものであるが、他の掲示情報型ニュースグループや質問応答型のニュースグループのダイジェスト作成にも、同様な手法が適用できると考えられる。また、本方法をさらに発展させることによって、FAQの自動作成も可能になると考えられる。
著者
橋本 剛
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

名人に勝つコンピュータ将棋の実現に向けて,動的なマージンを用いるFutility Pruningの提案,部分局面n-gram法の改良,詰め将棋探索で問題となる二重カウント問題の有効な対処法としてWeak Proof Number Searchの開発などを行った。マージンを用いるFutility Pruningの研究について,これまでfutility pruningは,チェスでは有効であるが将棋では探索空間の広大さと選択的探索が主流な事もあり,有効ではないと考えられていた枝刈り技術であった。しかし近年futility pruningを将棋に用いたBonanzaが好成績を収めて以降将棋でもfutility pruningが注目されることになった。futility pruningは大雑把な評価値にマージンを持たせαβのWINDOWから十分外れている場合に枝刈りをする技術である。これまでfutility pruningで用いるマージンには定数が用いられていたが,局面状況によって適切なマージンが変化すべきである場合に対応できないという問題があった。そこで,まずfutility pruningのマージンを定数で扱っている事による問題点を解析し,その改良案として,探索毎に動的なマージンを決定するアルゴリズムを提案,実装し評価を行った。その結果,動的なマージンを用いたfutility pruningが従来のものに比べて175勝138敗1分で統計的に有意に勝ち越し,その優秀性を証明することができた。部分局面n-gram法の改良では,プロ棋士の棋譜から頻度の高い指し手列を抽出し低ノイズで探索に組み込むことに成功した。また,指し手列の出現頻度をカウントし実現確率探索の遷移確率として扱うことでより人間らしい手筋を効率的に読ませることで探索の強化に成功した。詰み探索では従来のdf-pnに代わる二重カウント問題に影響されない新たな探索法Weak Proof Number Searchを提案し,ベンチマークテストでは611手詰みの「寿」をわずか数秒で解くなど従来手法に比べて圧倒的な性能を示した。
著者
徳光 永輔
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は、大きな電荷密度を誘起できる強誘電体または高誘電率材料を用いて、面積を可変できる酸化物伝導体の電極構造を提案し、これを利用して集積化可能な小型・高性能の可変容量キャパシタを実現することである。本研究では、まず提案する素子を実現するための強誘電体(Bi,La)4Ti3O12(BLT)膜形成条件の最適化と溶液プロセスによる高誘電率材料の探索を実施した。次にITOまたはIn2O3をチャネルに用いた薄膜トランジスタ型の素子を試作して動作検証を行い、約1500%のゲート電圧による容量変化を実現した。さらに素子のスイッチング特性の改善およびナノインプリントを用いた素子の微細化を実施した。
著者
長嶋 淳
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

目標とする名人を超えるコンピュータ将棋ソフトの作成のため,前年度より引き続き,コンピュータ将棋の弱点である序盤を主な対象として改良を行った.前年度にこれまでの研究成果をまとめた論文を雑誌投稿し,7月にNew Mathematics and Natural Computation Journalに掲載された.今年度はこれまでの序盤の研究に加え,序盤を抜けた辺りに見られる仕掛けの問題にも取り組んだ.1つのアプローチとして,局面情報から仕掛けのタイミングを認識し,必要な時にのみ探索コストを集中させて問題への対処とする研究を行った.また,同時に別アプローチとして,人間の対局記録である棋譜から仕掛けなどの数手一組の手順を抽出し,探索に利用する研究のサポートにあたった.本年度も多くのコンピュータ将棋の大会があり,開発を行っているコンピュータ将棋TACOSが多くの成果を残した.1.第16回世界コンピュータ将棋選手権 4位2.11th Computer Olympiad将棋部門 3位3.第2回コンピュータ将棋世界最強決定戦2007 2位1では決勝シードと予選を勝ち抜いた8チームによる総当たり戦において4勝3敗となり,初めて勝ち越しに成功し,過去最高の順位となった.2では1で優勝及び準優勝のプログラムと戦い,3プログラムが全て1勝1敗で並ぶ結果となった.3においても,優勝した激指以外は全て1勝2敗で並ぶ結果であった.これらの結果から,Tacosとトップのコンピュータプログラムと差がほとんど無くなってきた事が確認できた.また,インターネット上の対局サーバでも実力の向上が見られ,強さはアマチュア6段相当に向上したことが確認できた.
著者
飯田 弘之
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

将棋ソフトは近年大幅に改善されてきた。早指しであればコンピュータが名人に勝つことも不可能ではない。本研究で開発した将棋ソフトTACOSは,研究開始当時,他の将棋ソフト同様,序盤や中盤などいくつかの致命的な欠点があった。本研究における様々な技術的進歩によってTACOSの強さは大幅に改善され人間を超えるほどに至った。顕著な進歩の例として,証明数を用いたAND/OR木探索があげられる。その他多くの改良により名人レベルに到達できた。
著者
伊藤 泰信 谷口 晋一 孫 大輔 大谷 かがり
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究は、医学教育者/医師らと“共働”する医学教育実践の中で、サービスデザインの視点を取り込んだ文化人類学を構想するものである。ここでいうサービスデザインの視点とは、患者がなし遂げたいコト(サービス)起点で医療提供を考える視点である。具体的には、生活者としての患者の視点を重視する人類学的素養を導入した総合研修専門医の教育(研修)プログラムを医学教育者と共にデザインする。他方で、そうした教育実践を通じて、「サービスデザイン人類学」という新たな領域を切り拓こうとする試みである。