著者
前田 竜孝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.92, no.6, pp.381-396, 2019-11-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
30
被引用文献数
4

本稿では,水産物直売所の開設が漁業経営にどのような影響を与えたのかを,大阪府岬町の深日漁業協同組合に所属する経営体を事例に考察した.深日においては,1950年代以降漁協が運営する共販市場が主な出荷先として機能してきたが,2017年4月にA店が町内に開店したことで流通構造が大きく変化した.直売を始めた経営体は漁獲金額を大幅に上昇させた.一方で,水産物の処理や箱詰め,店舗までの輸送といった作業が必要となり,集出荷作業に要する時間は増加した.加えて,直売の開始によって市場価値が低く共販市場で取引されてこなかった水産物の出荷先が確保されたことも判明した.この出荷の傾向は,くず魚を多く漁獲する底引網を営む経営体には有利に作用したが,その他の漁業種類を営む経営体には影響しなかった.このように,新たな流通システムが地域に導入される際,経営体間で変化の度合いにどのような差異があったのかは検討すべき重要な課題である.
著者
前田 竜孝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.319-331, 2020 (Released:2020-11-10)
参考文献数
23
被引用文献数
2

本稿では,兵庫県南あわじ市南淡漁協の水産物流通を事例に,販路開拓の歴史と集出荷に関わる諸活動を考察する.南淡漁協では,長らく出荷先が二つの流通業者に限られていた.しかし,2012年にその片方のS水産が倒産すると,漁業者は販路の減少による魚価の低下を懸念するようになった.そこで,漁協は,新たな試みとして自らで水産物を荷受けして,関西地方から北関東の卸売市場までの幅広い地域へ水産物を出荷する取組みを始めた.販路はこれまでS水産が構築してきたものを利用した.一方,集出荷作業は地元の労働者が,配送作業はS水産の家族企業であるS運輸が担った.遠隔地への水産物の配送は,さまざまな主体が関わり,彼らの活動が生産地から消費地まで連鎖することで可能となった.
著者
前田 竜孝
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.73-92, 2018 (Released:2018-04-02)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究は,養鰻業における経済的な変化を,産地における制度的・技術的な変化と,それらに応じた生産者間の関係性の変化に注目しながら考察した。事例地域として,日本有数の生産量を誇る愛知県西尾市一色町を設定した。一色町の養鰻業では,第二次世界大戦後の高度経済成長期に行政が中心となって生産基盤が整備された。各経営体も,この時期に生産力の強化を目的として,加温式ハウスに代表される様々な生産技術を導入した。一方で,各経営体の経営主間の関係性はこの期間に変化した。特に,集出荷作業における手伝い関係は,加温式ハウスの導入による作業の省力化によって解消された。このように,養鰻産地を取り巻く経済状況と個別経営体の経営状況,生産者間の関係性は相互に作用している。ただし,関係性の変化は経営主の経験によってそれぞれ異なるため,これらの相互作用を明らかにするためには,各経営体の個別具体的な状況を考察することが重要となる。