著者
中村 玄 加藤 秀弘
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.73-88, 2014-06-30 (Released:2014-06-30)
参考文献数
25

コククジラEschrichtius robustusは北太平洋に分布し,日本を含むアジア周辺海域に生息する西部系群と北米側に生息する東部系群の二系群に分けられている.しかし近年,衛星標識を用いた研究などから夏季に西部系群の摂餌海域と考えられているサハリン沖に出現した個体が,冬期に東部系群の繁殖海域と考えられているオレゴン近海に回遊した例などから,従来の系群構造について再考が迫られている.本研究は1990–2005年にかけて,ストランディングや混獲などにより日本の太平洋沿岸域から得られたコククジラ5個体を対象に,頭骨を中心とした全身骨格の計測値および骨学的特徴の記載をおこなうとともに,既報データをもとに蔚山(n=1),中国(n=2),カリフォルニア産(n=1)の個体との骨格形態を比較した.頭頂部を中心に各海域に特徴的な形質が認められ,日本産個体では前上顎骨が鼻骨を包むように緩やかにカーブしており,前上顎骨後端が尖っておらず,上顎骨の後端より後方に位置していた.また,鼻骨の前縁部が央付近でやや前方に突出し,性成熟個体では左右の鼻骨が後方で癒合していた.頭頂部に加え,胸骨と骨盤痕跡の形状においても海域間に明瞭な違いが認められ,いずれの形質も日本産個体はカリフォルニア産の個体に類似した形状を示していた.本研究結果は東部系群が近年,日本沿岸域へ分布域を拡張している可能性を示唆している.
著者
辻 紀海香 加賀美 りさ 社方 健太郎 加藤 秀弘
出版者
公益社団法人 日本航海学会
雑誌
日本航海学会論文集 (ISSN:03887405)
巻号頁・発行日
vol.130, pp.105-113, 2014 (Released:2014-07-01)
参考文献数
19

In order to develop Under Water Speaker system (UWS) incorporating species specific audible properties, we examined cetacean sighting survey data collected by hydrofoil crew from four major hydrofoil sea lanes, in 2008 – 2011; “Northern Kyushu (including Busan-Iki-Tsushima routes)”, “Kagoshima”, “Izu-Oshima (including Atami routes)” and “Sado”. In “Northern Kyushu” cetaceans were tended to be frequent in offshore deeper than 100m. In “Kagoshima”, cetaceans including humpback whales were mainly observed in winter. In “Izu Oshima” it was remarkable that sperm whales occurred in winter to early spring with peak of January to March, and also it seemed to be currently increasing. Baird's beaked whales also occurred in winter in addition to regular occurrences in summer. In “Sado”, minke whales were mainly sighted in month from March to June. So as to increase accuracy in cetacean species identification, it is desire to conduct educational lecture and training for cetacean species identification.
著者
井上 聡子 木白 俊哉 藤瀬 良弘 中村 玄 加藤 秀弘
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.185-190, 2014 (Released:2014-03-20)
参考文献数
24

北太平洋産ミンククジラの精巣において,4 月から 10 月にかけての季節的変化を検討した。精巣重量の変化には 268 個体を使用し,うち 70 個体(各月 10 個体)の精巣組織を観察した。分析の結果,精巣重量は体長 7 m 以上の個体でのみ 7 月頃から増加が認められた。精細管直径は 5~6 月に縮小した後,徐々に拡大した。精母細胞など発達した精細胞は 7 月に最も減少し,その後増加した。これらのことから,ミンククジラの精子形成は 5 月から 6 月にかけて停滞し,8 月には次の繁殖期に向け準備が始まるという季節的変化が示唆された。