著者
北原 啓司
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

前年度の先進事例の実態調査を受け、平成16年度には、大きく3つのアンケート調査を実施している。一つは東北地方に存在するすべての都市の都市計画担当者を対象とした、コンパクトシティ戦略および街なか居住施策に対するアンケートである。10万人以下の都市においては、依然として郊外拡大が継続されており、また、農業従事者による農地転用要求により、街なか居住施策の有効性が担保できない状況が明らかになった。また、10万人以上の都市においては、住宅マスタープランや中心市街地活性化基本計画と連動する形で、コンパクトな都市計画マスタープランが策定されてはいるものの、具体的な街なか居住施策がとられている自治体は非常に少なく、掲げる目標と実際の施策との整合性があまりとれていない現状がある。一方で、昭和40〜50年代に郊外に住宅地を求めた世帯の今後の住み替え需要と、街なか居住施策との関連性を探る目的で、現在、都市計画マスタープランにおいて、コンパクトなまちづくりを目指す八戸市郊外の住宅団地を対象とした住民アンケート調査を実施している。アンケートの冒頭では、特に将来的な危惧を抱いておらず住み替えをほとんど意識していない回答が大半であるものの、質問項目が進んで行くにつれて、将来に対する不安が増大していくこととなり、街なかの集合住宅居住を希望するものの、現在所有する住宅をどのような形で処分していくかが未知数であるために、現実的に住み替えを志向できない状況が明らかになった。また、郊外の市営住宅居住者に対して実施したアンケート調査に於いては、街なかの公営住宅の必要性と家賃との関連性についての意識を問うている。しかし、特に郊外の市営住宅階層は、長期的な居住を続ける高齢者層が多く、そのような郊外居住者の住み替え需要よりも、結婚や転勤等により新たに登場する若年層の需要に対応した公共住宅供給の必要性が明らかになった。
著者
北原 啓司
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

東日本大震災からの復興を広域的に支援する拠点として設置した「きたかみ震災復興ステーション」における実践を通して、復興まちづくりにおける多様な課題を整理し、次に発生する可能性の高い南海・東南海地震における災害復興に向けた重要な論点を抽出することができた。また、「きたかみ震災復興ステーション」のように、専門家と行政、そして地域活動団体が連携する形での広域後方支援拠点が、広範囲の災害からの復興において如何に重要であるかを明らかにした。
著者
櫛引 素夫 北原 啓司
出版者
弘前大学
雑誌
弘前大学大学院地域社会研究科年報 (ISSN:13498282)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.79-95, 2005

東北新幹線盛岡-八戸間は2002年12月に開業を迎え、新幹線が青森県に到達した。同区間の利用者は在来線当時に比べて51%増加し、首都圏から青森県内への入り込み客数も大幅に増えて、新幹線開業は経済面で地元に恩恵をもたらしている。しかし、新幹線の経済的効果が及ぶ地域や業種はまだ限定的である上、JR東日本から経営分離された並行在来線の沿線では、運賃の上昇などによって新幹線と並行在来線双方の利用者が伸び悩んだ。高校進学予定者の進路が狭められる不利益も発生している。さらに、新幹線建設費の一部を地元県が負担する建設スキームは、青森県財政の最大の圧迫要因となっている。これらの大きな原因として、整備新幹線構想自体が持つ問題点と、地元側の開業準備態勢の問題が考えられる。2010年度の東北新幹線全通・新青森開業、2015年度の北海道新幹線新函館開業を控え、新幹線によるメリットを最大化し、デメリットを最小化するための対策はますます重要になっている。地域振興のために効果的な対策を講じるには、沿線の鉄道利用実態や新幹線がもたらすとみられる利害を早急に調査するとともに、行政や経済界、NPOなどによる議論や調整の場を設けるべきである。
著者
近江 隆 北原 啓司
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

大都市圏及び地方中心都市に立地する区分所有集合住宅(マンション)において、所有と利用の不一致、すなわち、所有者の不在化の進行状況、背後にある所有権の流動化、マンションの立地・供給動向、不在者の離散プロセスとその意味等について分析した。調査対象は札幌、仙台、大宮、千葉、名古屋、堺、広島、福岡である。分析結果の概要を以下に述べる。1.大都市圏のベットタウン都市は不在化が抑制され、逆に所有権の移動が激しい。これは中古住宅の流動性の高さ、定住の為の住宅需要が支配的であることを示す。2.地方中心都市では不在化が4割水準に達し、賃貸住宅需要、業務需要マルテハビテーションの需要が大きい。従って、投資的要素が強く、それだけ所有権の移動が抑制されている。3.不在化はオイルショック後に完成した物件で特に進行し、ストックとしての不安定な状態が益々深刻化してゆくと考えられる。4.不在化は立地、建設年代、開発・販売主体等の要因でかなり左右される。但し、これらの作用は地域の市場関係の特殊な条件とも関連し、各々の都市で独自な傾向をもつくりだしている。5.不在・賃貸化した住宅は市場において一定の社会的役割をはたしている。特に、着工レベルの小規模賃貸住宅への偏りが、市場レベルではマンションの賃貸化により、定住可能型と云える中・大規模の需要を吸収している。6.持家政策の中でつくりだされたマンションが、社会的な借家需要に応えるという矛盾を内在させている為、分譲持家としての限界性と共に、借家としても社会的ストックとして位置づけための問題性、要件の欠落と有している。所有者不在とその空間的離散は、マンションの社会的、政策的な位置づけの方向転換を迫る結果を示した。