著者
酒井 菜穂 上野 幸三 北林 耐 小田島 安平 板橋 家頭夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.79-86, 2005-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
23

近年欧米諸国と比較して我が国において, 急速に食物アレルギー患者数が増加している.この疾患に対する標準的な治療方法はいまだ確立されておらず, 原因抗原食品の除去療法が治療の中心となっている.我々はプレバイオティクスであるフラクトオリゴ糖 (Fructooligosaccaride以下FOSと略す) に着目し, その抗アレルギー作用について病理組織学的手法を用い, 食物アレルギーの新しい治療法の選択肢になりえるかを検討した.方法として卵白オボアルブミン (Ovalbumin以下OVAと略す) 感作により食物アレルギーモデルマウスを作製し, 5%FOS摂取群と非摂取群間で病理組織学的な変化について画像解析の手法を用い, 十二指腸の肥満細胞数と絨毛の浮腫発生率を計測し評価した.FOSの投与期間は2週間および8週間とし治療効果について比較検討した.十二指腸内の肥満細胞数はOVA感作で有意に増加したが, FOS8週間投与群で肥満細胞数は有意に減少した.絨毛内浮腫の発現頻度はOVA非感作群では, 5.9% (1/17例) とほとんど認められなかったが, OVA感作群の発現頻度は66.7% (20/30例) と高率に観察され, しかも高度な浮腫が認められた.一方, FOS投与群では, いずれの投与期間でも統計学的な有意差は認められなかったが, 浮腫率は減少しており, 絨毛の組織傷害の修復に効果があることが示唆された.この研究の結果よりフラクトオリゴ糖には肥満細胞数を減少させ, アレルギー治療効果を有することが明らかとなり, 食物アレルギー治療法の一つとして有用であると考えられた.
著者
北林 耐 佐藤 佐由里 足立 満
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.574-578, 2013

バラのソフトクリームによりアナフィラキシーを呈した10歳男児例を経験した.リンゴ,モモ,ビワ,ナシ,キウイを食べると咽頭に違和感を生じるため,ImmunoCAP ISACでアレルゲンコンポーネントに対する特異的IgEを調べたところ,シラカンバ,ハンノキ,ハシバミ,リンゴ,モモ,ピーナッツ,ヘーゼルナッツ,大豆の各PR-10タンパクが陽性を示し,カバノキ科の花粉とバラ科の果物の交差反応によるPollen Food Allergy Syndrome (PFAS)と診断した.アナフィラキシーの原因がバラのソフトクリーム中に含まれるバラの成分にあると考え,赤バラシロップについてas isでプリックテストを行ったところ強陽性を示したが,含有されているバラ香油,食用赤色2号については陰性であった.その後赤バラシロップ中にリンゴ果汁が含まれていることが判明したため,リンゴについてprick-prick testを施行したところ強陽性が確認され,これが原因と考えられた.食品を製造,加工して一般消費者に直接販売する場合には特定原材料の表示をする義務がないため,アレルギー物質が入っているとは知らずに誤って摂取する可能性があり,今後表示方法を改善していく必要があるように思われた.
著者
北林 耐
出版者
一般社団法人 日本ゴム協会
雑誌
日本ゴム協会誌 (ISSN:0029022X)
巻号頁・発行日
vol.88, no.9, pp.351-357, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
18

Latex allergy (LA) is the allergic reaction triggered by proteins containing in natural rubber latex (NRL) or chemicals in NRL products. The pathophysiology of LA is divided into the immediate type (type I) allergy and the delayed type (type IV) allergy. Majority of LA is the allergic reactions mediated by specific IgE (sIgE) antibodies produced by contacts and exposures to NRL by inhaling the powder in the environments when wearing or removing the gloves made from NRL. Recently, the frequency of immediate type allergy reaction is decreasing, but the delayed type allergy reaction caused by chemical substances added during glove manufacturing is increasing. Allergic contact dermatitis (ACD) caused by thiuram compound (a vulcanization accelerator), is increasing and it is clear that 80% of ACD cases in health care workers are sensitized to this substance. For Diagnosis of LA, a detailed patient interview is the most important and sensitization to NRL is confirmed by a blood test or skin test to show an existence of sIgE antibodies to NRL. Also a positive provocation is useful for diagnosis. Treatment for type I reactions is histamine H1 receptor antagonist or systemic steroids. However, in severe case such as anaphylactic shock, it is necessary to administer adrenaline. In case of type IV reactions, it is important to take local steroids or use moisturizing agents in addition to replace gloves free of vulcanization accelerator.
著者
星野 顕宏 阿部 祥英 冨家 俊弥 校條 愛子 中村 俊紀 齋藤 多賀子 酒井 菜穂 伊藤 良子 神谷 太郎 北林 耐 板橋 家頭夫
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.217-224, 2010 (Released:2010-10-07)
参考文献数
24

気管支喘息呼吸不全の児に対して硫酸マグネシウム(MgSO4)を点滴静注し,気管挿管を回避しえた女児例を経験した.本症例は2歳11ヵ月時に喘鳴と呼吸困難を認め,気管支喘息呼吸不全の診断で入院した.ステロイド薬静注,アミノフィリン持続点滴,イソプロテレノール持続吸入による治療を行ったが,呼吸状態は改善せず,不穏と高二酸化炭素血症認めた.気管挿管を考慮したが侵襲性が高いため,50mg/kgのMgSO4を20分かけて点滴静注した.速やかに不穏の軽快と呼吸状態の改善が得られ,投与開始1時間後に二酸化炭素分圧,心拍数,呼吸数はそれぞれ54.9mmHgから46.5 mmHg,157回/分から126回/分,48回/分から40回/分に低下した.MgSO4の有害事象は認めなかった.MgSO4は気管支平滑筋細胞からのカルシウムの駆出を増加させ,平滑筋の収縮を抑制させると考えられている.MgSO4は即効性のある薬剤として有効である可能性があり,特に治療抵抗性で気管挿管を考慮する症例にそれを回避する目的で投与する価値があると考える.