著者
南雲 直子 久保 純子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.141-152, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
14
被引用文献数
2 8

2011年8月~10月に大規模洪水が発生したカンボジアのメコン川下流平野を対象とし,首都プノンペンを中心とした地域で洪水と微地形に関する調査を行った.衛星画像を用いて浸水範囲を把握し,水文データ等を入手するとともに,2012年3月の現地調査では洪水痕跡より浸水深を測定した.その結果,微地形と浸水範囲・浸水深の対応が良好に見られた.洪水はメコン川の氾濫原を利用して流下するとともに,トンレサップ川沿いでは深く湛水し,通常の雨季には浸水することのない高位沖積面にまで洪水が達した.これは近年最大規模といわれた2000年洪水に匹敵する規模であった.また,浸水域に比較すると相対的な被害は大きくなかった.カンボジアのメコン川はほとんど築堤が行われておらず,伝統的な地域に住む人々は毎年の洪水を経験しながらも,その環境に適応し,洪水リスクを最小限にするような土地利用や生活様式を続けている.
著者
南雲 直子 大原 美保 藤兼 雅和 井上 卓也 平松 裕基 ジャラニラ サンチェズ パトリシア アン
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.123-136, 2022 (Released:2022-06-04)
参考文献数
17

地理情報や被災記録に乏しい途上国において将来の洪水災害に備えるためには,ハザード情報を簡単に可視化・共有でき,住民らが地域の氾濫特性を理解するための手助けとなるような技術が重要な役割を果たす.そこで本研究では,フィリピン共和国の洪水常襲地を対象に,Google Earthを用いて降雨流出氾濫(RRI)モデルによる洪水氾濫計算結果を描画し,建物高さと浸水深の関係を可視化できる3D浸水ハザードマップを作成した.また,このハザードマップに関する講義およびチュートリアル教材を作成し,フィリピンでの技術普及を目的としたオンライン研修で取り上げた.その結果,3D浸水ハザードマップはフィリピンの人々も簡単に作成・利用できるものであり,地域の浸水リスクを理解するのに役立つことが明らかとなった.Google Earthは多言語に対応する無償ソフトウェアであることから,本研究によるハザードマップ作成手法は予算や人材が不足する途上国においても有用な技術であると考えられる.
著者
山崎 祐介 江頭 進治 南雲 直子
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B1(水工学) (ISSN:2185467X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.I_931-I_936, 2018 (Released:2019-03-30)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

本研究では,豪雨に伴う崩壊分布の推定法および土砂流出量の推定法を提案している.土砂流出予測法は,崩壊土砂が土石流化したものを質点系支配方程式で記述し,崩壊土砂の流下に伴う侵食・堆積の解析にもとづいて開発している.これを福岡県赤谷川流域において2017年7月に発生した豪雨を対象に適用し,次のような結果を得ている.本推定法は,豪雨に伴って支川流域で発生した崩壊土砂が土石流化し,流下にともない侵食して主要河道に到達し,そこで堆積するという土砂流出過程をよく再現している.流域河道の次数をHorton-Strahlerによる方法で分類し,各河道の平均渓床勾配と土石流の平衡勾配を用いて表現される渓床の侵食・堆積現象は,実際の土石流の侵食・堆積の傾向とよく一致している.流域内の侵食・堆積の空間分布は,河床勾配の空間分布と土石流の平衡勾配によって推測可能である.
著者
南雲 直子 大原 美保 バドリ バクタ シュレスタ 澤野 久弥
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.361-374, 2016 (Released:2016-11-16)
参考文献数
22
被引用文献数
2

洪水常襲地帯であるフィリピン共和国パンパンガ川下流域のブラカン州カルンピット市をモデル地域に,降雨流出氾濫モデルによる洪水氾濫解析とGISマッピングを実施し,地域の住民避難や時系列の洪水災害対応計画に役立つリソースマップ,浸水想定マップ,浸水確率マップ,浸水チャートを作成した.こうした資料の作成には,高解像度数値標高モデルをはじめとする地理空間情報と洪水記録の蓄積が必須である.また,地域の浸水危険性の把握には洪水氾濫解析結果だけでなく,地理学的視点からの土地の成り立ちへの理解も重要で,同時に住民が自ら考え行動できるよう継続的な支援を行っていくことが洪水被害の軽減に役立つ.
著者
南雲 直子 バドリ バクタ シュレスタ 大原 美保 澤野 久弥
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

フィリピン共和国ルソン島中部のパンパンガ川流域は、 2015年10月中旬に襲来した台風24号及び12月中旬の台風27号により流域の広い範囲が浸水した。台風27号による降水量は台風24号のものよりも多かったが、観測された河川水位・浸水深、人的・建物被害は台風24号の方が大きかった。また、両台風による降水量・洪水規模は、過去30年間で最大とされる、2011年台風17号を超えることはなかった。フィリピンではNDRRMC(National Disaster Risk Reduction and Management Councilを中心に広域行政区、州、市、バランガイにそれぞれDRRMCが設置され、防災体制は他の東南アジア諸国と比べ進んでいる。しかし、洪水が頻繁に発生し、ある程度の時間差で上流から下流へと洪水が波及するパンパンガ川流域では、ハザードマップ作成やリスク評価とともに、地域レベルでのタイムライン策定など、より良い復興のための対策を今後も充実させていくことが必要であろう。