著者
荻原 桂子
出版者
九州女子大学・九州女子短期大学
雑誌
九州女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09162151)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.85-92, 2002-10

「舞姫」は、明治二三年 (一八九〇) 一月「国民之友」第69号付録に掲載された。鴎外二九歳の作である。太田豊太郎の一人称で語られるこの作品は、完成度の高さにおいて、近代文学史において重要な位置をしめている。本稿は、ここに描かれる太田豊太郎の近代知識人としてのありかたについて考えるなかで、その感性を導きだしたエリスの存在について考察する。明治日本の精神においては、異国での結婚を前提とした恋愛、官命への反抗、家の放棄は、倫理に反する重罪であった。たとえば、愛した女性を捨てるよりも、国家や家を捨てることのほうが、罪が深いとされる。明治日本の精神構造のなかでは、個人の精神は、抹殺される。そのなかで、エリスは狂い、太田豊太郎は痛恨の痛みを持続する。近代知識人太田豊太郎が超えようとした近代とは何だったのか。森鴎外「舞姫」について論及する。
著者
村上 昇 幸野 亮太 中原 桂子 井田 隆徳 黒田 治門
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.S・viii, 763-766, 2000-07-25
被引用文献数
3

一年以上の間, 室温22度, 14時間明:10時間暗の照明条件下で飼育されたシマリスを短日照明(10時間明:14時間暗)と低温条件に暴露することにより季節外冬眠を誘起した.我々は一年のどの時期でもこの季節外冬眠を誘起できた.この季節外冬眠は季節間において, 冬眠一党醒インターバルや, それぞれの冬眠や覚醒時間には有意な差を認めなかったが, 冬眠に入るまでの期間の長さにおいて夏のみ約60日を要し, 他の季節の平均30日より長かった.さらに, 覚醒インターバルでの覚醒時刻は冬では明期に起こるのに対し, 春では明期と暗期でほぼ等しい割合で起こった.これらの結果はシマリスの冬眠がサーカディアンリズム(概日リズム)とサーカニュアルリズム(概年リズム)の両者にリンクしていることを示唆している.夏の季節外冬眠において, セロトニン枯渇剤であるパラクロロフェニルアラニン(PCPA)の冬眠中での慢性投与は冬眠を阻止し, 非冬眠動物への投与は逆に冬眠を誘発した.一方, オピオイドのアンタゴニストであるナロキソンの投与は覚醒時間の延長を起こした.これらの結果は, セロトニンによる冬眠誘超や維持機構がサーカニュアル(概年リズム)システムと独立したものであることを示唆している.
著者
荻原 桂子
出版者
九州女子大学・九州女子短期大学
雑誌
九州女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09162151)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.67-75, 2001-09

賢治の童話は、その法華信仰に強く根差してはいても、それが決して説教臭くなったりすることはない。なぜなら、賢治自身が信仰であり、その心のさまをそのまま描いたものが「心象スケツチ」(「新刊案内」) という賢治童話だからである。それは、かりものではない、賢治の心身をかけた祈りそのものである。賢治にとっては、「きれいにすきとほつた風をたべ」(「序」) ることも、「桃いろのうつくしい朝の日光をのむ」(序) ことも、日常茶飯の出来事で、特別なことではない。しかし、賢治をとりまく社会は、「すばらしいびらうどや羅紗や、宝石いりのきもの」(「序」) に、現を抜かす。そうした社会の暴力や貧困に蝕まれていく純真無垢なこどものために、賢治は祈りを込めて、童話を書くのである。人間の生そのものが抱える不条理を、現代社会が抱える精神の危機を打開するために、「すきとほつたほんたうのたべもの」(「序」) の実現を、九つの童話に託すのである。童話集の三番目に収録された「注文の多い料理店」では、信仰によっても救いきれない人間の軽薄が、二人の紳士の顔がもとにもどらないことの原因である。賢治が、「都会文明と放恣な階級に対する止むに止まれない反感」(「新刊案内」) と書いたとき、その矛先を自分自身にも向けたに違いない。「イギリス風紳士」を迎え撃つ「山猫軒」は、その名のとおりすべてにおいて、西洋風にできた「西洋料理店」なのである。「山猫」も、巧みな言葉をつかって獲物をおびきよせる狡猾な頭脳犯なのである。「すきとほつたほんたうのたべもの」(「序」) とは、こうした現代社会に巣くうのっぴきならない根源悪に立ち向かうための唯一の武器であり、時代や社会に押し流された人間が、本来のすがたにもどるための解毒剤でもあったのだ。
著者
荻原 桂子
出版者
九州共立大学
雑誌
九州共立大学・九州女子大学・九州女子短期大学・生涯学習研究センター紀要 (ISSN:13421034)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.25-35, 2008

Haruki Murakami is a novelist who can write about his personal, imaginary world and make his works universally appealing to the reading public. Human beings used words and invented letters and through these two mediums transmitted culture. There is an uneasiness felt about the frigidity towards letters in modern society. Will not indifference towards others and a lack of imagination for the life of another person cause various problems? Haruki Murakami is admired by many people as a novelist who can empathize with people and offer solutions for their problems in modern society. In the present age, when avoiding literature and other printed materials is the norm, the works of Haruki Murakami are supported by an overwhelming number of readers and his works have been translated into many languages. Haruki Murakami's works have the power to help people understand and cope with the universal human problems concerning modern society. From among numerous works of Haruki Murakami, I will introduce three full-length novels: A Wild Sheep Chase, Norwegian Wood, and Kafka on the Shore.