著者
〓刀 正行 藤森 一男 中野 武 原島 省
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 = Japan analyst (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.1001-1008, 2002-11-05
参考文献数
8
被引用文献数
4 4

人為起源の有害化学物質による海洋汚染は, 様々な輸送過程を経て全球的な規模の汚染へと進みつつある. 本研究は, フェリーを観測プラットフォームとして海水中の有害化学物質の存在状態とその動態を従来に比較して時間的・空間的に密な観測態勢を確立することにより明らかにするものである. 海水中の低濃度有害化学物質を高密度に観測するためにポリウレタンフォームを抽出剤とする固相抽出法を用いたフェリー搭載型連続濃縮捕集システムを開発し, 同システムにおける最適捕集条件を把握するとともに, 大阪-沖縄間の航路における観測を実施した. また, システムの一部自動化を実施した. 同航路上における有害化学物質は, 主にHCH, クロルデン, ノナクロルなどの農薬を中心として, 数pg/lから数百pg/lの広い濃度範囲で検出された. β-HCHは, 瀬戸内海の大阪湾から数百pg/lの比較的高い濃度で検出された以外は, 太平洋沿岸域で100pg/l前後, 黒潮及び沖縄周辺で100pg/l以下と低濃度であり, 季節や気象条件の変化に関係なくほぼこの傾向が見られた. 一方, α-HCHの濃度分布はおおむねβ-HCHと類似しているが, 気象条件 (輸送過程の変化) によりその濃度がかなり変化することが明らかとなった. また, クロルデンは, 多くの観測域で数pg/l程度と極めて低濃度であり, ほとんどの地点で検出限界近くであったが, 瀬戸内海及び沖縄近海で若干高い傾向が見られた. ノナクロルは, クロルデンよりも更に濃度及び変化が少ないが, 検出される位置はクロルデンと類似している. これらの濃度分布及びその変動は, 使用が禁止された以後も様々なリザーバーに蓄積している有害化学物質が徐々に再放出しているか, あるいはより汚染度の高い地域から輸送されてきていることを示唆している.
著者
原島 省 呉 在龍 姜 聲舷
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.79-90, 2001

海洋環境の変動をモニターするプラットフォームとして,定期航路船舶の連続取水系の利用が有効な手段となっている.主な理由は,観測専用船と異なり,維持経費がかからないことや,多様なフロースルー型の計測手法が適用できることなどであるが,最も本質的な点は,計測頻度が高いこと,長期間持続することが可能なこと,計測の空間的密度を高くできることから,植物プランクトンのブルームなど重要な海洋変動のスペクトルに対応する時空間スケールをカバーできることである.本報告では,国立環境研究所のフェリーによる海洋環境モニタリングの実行例(1991~現在),韓国海洋研究所による同様の実行例(1998年~現在),および諸外国の実行例や計画例を紹介し,フェリーの利用による特記的な成果を示すとともに,今後の課題や発展の可能性について述べる.
著者
功刀 正行 藤森 一男 中野 武 原島 省
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.1375-1387, 2004-12-05
被引用文献数
4 4

商船に搭載するための連続濃縮捕集システムを開発し,同システムを用いて同一海域を頻繁に航行するフェリーを観測プラットフォームとする有害化学物質による海洋汚染観測態勢を確立した.観測は,大阪港と那覇新港管を航行するフェリー「くろしお」において1996年12月から1998年2月に,またフェリー「さんふらわああいぼり」において1998年12月から2000年3月に実施した.観測結果から,海洋における有害化学物質による海洋汚染の動態の把握には高頻度の観測が不可欠であること,ヘキサクロロシクロヘキサン類,クロルデン頻を観測することにより観測地点・時点で支配的な起源推定が可能であることが明らかとなった.
著者
井上 千鶴 原島 省 渡辺 正孝 池辺 八州彦 市川 哲彦 佐藤 浩史 藤代 一成
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.48, pp.365-366, 1994-03-07

鞭毛藻などの数種の水生微生物の培養液の表面に、微生物を多く含む部分が筋状に垂れ下がることが知られている。Plattは、これをBenard型対流との相似性から生物対流と名付けた。この対流現象は、微生物の反重走性によって培養液に密度不安定が生じ、それが原因となって起こると考えられるため、生物系と非生物系との間の相互作用を扱っている点で非常にユニークである。80年代に著者の一部により、流体力学的アプローチによる生物対流の鉛直2次元数値シミュレーションが行なわれた。本研究の目的は、同様のアプローチに基づいた数値シミュレーションを3次元化し、さらに効果的な可視化によって現象を解析することにある。現在、この問題をとり上げる理由は大きく二点ある。一点は、この現象の同アプローチによる解析が2次元までしか行なわれていなかったこと、もう一点は、この現象がボリュームレイキャスティングと呼ばれるボリュームビジュアライゼーション手法によって効果的な可視化が可能となる典型的な例であることである。本稿では生物対流現象を概説したあと、可視化手法を紹介しその結果を考察する。そして最後にまとめと今後の展望を述べる。