著者
生井 貞行 原田 敏治 松沢 正 山崎 憲治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.7, pp.472-492, 1991-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

大都市周辺の畑作農業地域は,市場への近雛をいかして野菜酸として発展してきた.しかし,近年の都吏化現象の拡大と,遠隔大規模産地による市場支配で,これらの地域の生産力は低下傾向にある. 三浦市は東京大都市圏の一角にあって,第二次世界大戦前から温暖な気候条件をいかして,東京への野菜供給地として発展してきた.とくにダイコンは大正時代に,東京市場における練馬ダイコンとの競合を経て,有力産地の1つとなった. 本研究では,三浦市の露地野菜生産の発展の条件について南下浦地区大乗集落を事例にして考察した.その結果,ダイコンとキャベツの指定産地になり,共販体制が確立し,安定した価格で販売が可能となったこと,近年,おもに夏作で保有労働力や経営面積に見合った作物や販売方法を選択し,経営が改善されつつあることが発展の条件となっていることが明らかとなった.
著者
原田 敏治
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.37-56, 1995-03-31

本稿では先進農業国のニュージーランドにおける灌漑事業の成立と停滞の条件について考察する. これまでニュージーランドの牧羊業や酪農業が, 高い生産性を維持してきた背景には, ヨーロッパ人の入植以来の牧草地や飼料作物の輪作の改良, 家畜の繁殖率の向上がある. しかし近年, 国際的な畜産品価格の低迷や, アメリカ合衆国やオーストラリアとの競合で, より高い生産性を要求されている. ニュージーランドの主要な灌漑地域は, 南島のカンタベリー平野にある. ここでは1935年にランギタタ川から分水路が引かれ, いくつかの灌漑事業が計画されたが, 第二次世界大戦で多くの事業は遅延し, 本格的な普及は戦後に持ち越された. 1957年に公共事業法が改正されて, 灌漑事業の採否に関する農民の投票が, それまでの面積比から1農家1票制に改められて, 灌漑をより必要とする小規模農家の意向が強く反映されるようになったことも, カンタベリー平野で灌漑事業が本格化する一因となった. 1980年代になって, 農業に対する公共投資が削減された結果, 新しい灌漑事業の着工は停止され, 受益地域の個人の農場内のボーダーストリップの拡大は, 補助金の全廃で困難になっている. そして, 灌漑会社の財政改善のための水利費の値上げで, 一部の灌漑農家が乾燥地農業に戻ることも懸念されている.