- 著者
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原田 敏治
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, no.1, pp.37-56, 1995-03-31
本稿では先進農業国のニュージーランドにおける灌漑事業の成立と停滞の条件について考察する. これまでニュージーランドの牧羊業や酪農業が, 高い生産性を維持してきた背景には, ヨーロッパ人の入植以来の牧草地や飼料作物の輪作の改良, 家畜の繁殖率の向上がある. しかし近年, 国際的な畜産品価格の低迷や, アメリカ合衆国やオーストラリアとの競合で, より高い生産性を要求されている. ニュージーランドの主要な灌漑地域は, 南島のカンタベリー平野にある. ここでは1935年にランギタタ川から分水路が引かれ, いくつかの灌漑事業が計画されたが, 第二次世界大戦で多くの事業は遅延し, 本格的な普及は戦後に持ち越された. 1957年に公共事業法が改正されて, 灌漑事業の採否に関する農民の投票が, それまでの面積比から1農家1票制に改められて, 灌漑をより必要とする小規模農家の意向が強く反映されるようになったことも, カンタベリー平野で灌漑事業が本格化する一因となった. 1980年代になって, 農業に対する公共投資が削減された結果, 新しい灌漑事業の着工は停止され, 受益地域の個人の農場内のボーダーストリップの拡大は, 補助金の全廃で困難になっている. そして, 灌漑会社の財政改善のための水利費の値上げで, 一部の灌漑農家が乾燥地農業に戻ることも懸念されている.