著者
松葉 満江 石井 紀明 中原 元和 中村 良一 渡部 輝久 平野 茂樹
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.346-353, 2000-07-15 (Released:2011-03-10)
参考文献数
11
被引用文献数
5 6

誘導結合プラズマ質量分析法を用いて61種の海洋生物中のウラン濃度を定量するとともに沿岸水も分析して被曝線量推定に重要なパラメータである濃縮係数を算定した。海洋動物の軟組織中においてウラン濃度は, 湿重量当たり0.077から5040ng/g生の範囲にあり, 生物種の違いや部位でウラン濃度が大きく異なった。頭足類のエラ心臓には高濃度のウランが含まれていた。特にマダコのエラ心臓が最も高い値を示したが, 沿岸水のウラン濃度の平均値は3.1ng/mlであったので濃縮係数は1.6×103と計算された。海産魚の硬組織中のウラン濃度は軟組織よりも高く, 硬組織の存在割合が個体中のウラン濃度を支配していると考えられた。海藻中のウラン濃度は湿重量当たり2.0-310ng/g生の範囲にあったが, ワカメが最も高い値を示し濃縮係数は102と計算された。
著者
及川 真司 渡部 輝久 高田 兵衛 鈴木 千吉 中原 元和 御園生 淳
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.455-474, 2013-06-05 (Released:2013-06-27)
参考文献数
31
被引用文献数
6 20 3

漁場環境の放射能モニタリングを主たる目的とし,昭和58年度(1983年度)に「海洋環境における放射能調査及び総合評価事業」が開始された.本事業の一環として,全国の原子力発電所の前面海域(計15海域)で海水,海底土及び海産生物を採取し,90Sr(海水のみ)や137Csなどの人工放射性核種の継続的な調査を行い,局所的な影響評価はもとより全国規模での評価を行う上で基礎となる調査結果を蓄積してきた.これまでの調査結果のうち海水に関しては,昭和61年に発生した旧ソ連邦チェルノブイリ原子力発電所事故の影響を受けて一部の海域で137Cs濃度の一時的な上昇が確認されたが,翌年には元の水準に戻り,それ以来137Csの物理的半減期(約30年)よりも短い12~20年の半減期で漸減傾向を続けてきた.またその水準は,福島第一原子力発電所事故前年では1~2 mBq L−1程度であった.事故後平成23年5~6月に全国で採取した海水試料のうち福島近傍海域に加え,北海道や新潟及び佐賀海域の表層海水に事故由来と考えられる放射性セシウムを検出している.一方,海水に含まれる90Srは137Csと同様な漸減傾向を示していたが事故以降の福島海域で近年にない値を観測したが,そのほかの海域では事故以前の水準と同様であった.海底土に含まれる137Cs濃度は同一海域であっても採取点間でばらつきが大きく,砂質の場合には検出されないことが多々あったが,調査開始以来,137Csの物理的半減期と同等かそれよりも若干速い漸減傾向を続けており,事故前の水準は,「検出されない」~8 Bq kg−1乾土程度であった.事故後の調査では,福島海域に加え宮城及び茨城海域で近年にない値を観測したがその他の海域では顕著な上昇は確認されていない.海産生物の可食部位(筋肉)に含まれる137Cs濃度は,浮魚あるいは底魚といった棲息域の違いによる差はみられず,魚食性の食物連鎖上高次なスズキやヒラメが比較的高く,イカ・タコ類で低い結果を得てきた.チェルノブイリ原子力発電所事故の影響として一部魚種(スズキ)で翌年あるいは翌々年に若干の濃度上昇を確認したが,それ以降,137Csの物理的半減期と同等かあるいは若干速い漸減傾向を続け,事故前年の水準は「検出されない」~0.24 Bq kg−1生鮮物程度を示していた.平成23年3月に発生した福島第一原子力発電所事故以降,海洋環境における放射能問題には強い関心が寄せられてきた.本稿では,昭和58年度から継続して得られた海洋環境放射能モニタリング結果の概要について報告し,これまでの海洋環境放射能水準の推移を示すとともに福島第一原子力発電所事故の影響の程度の概略を示した.
著者
渡部 輝久
出版者
日本保健物理学会
雑誌
保健物理 (ISSN:03676110)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.221-233, 2006 (Released:2010-08-05)
参考文献数
25

Environmental protection is one of the key issues in the prospective policy and strategy of radiation protection. In this context, numerous efforts have been made for developing the framework for the protection of non-human species from ionizing radiation, especially in European countries and Unite States. The present report summarizes knowledge so far attained on the assessment of doses and radiation impact on marine organisms. Special attention was directed to the methodology for calculating absorbed doses of marine organisms, based on which a case study was also carried out for estimating absorbed dose rate of several species of marine organisms inhabiting in the coastal sea off Rokkasho-Mura, Aomori Prefecture where a spent nuclear fuel reprocessing plant came into operation.
著者
和田 明 杉本 隆成 落合 実 遠藤 茂勝 立田 穣 渡部 輝久
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)北極海を対象として3次元流動解析結果(開発済)を用い、事故時の放射性物質の濃度解析を行った。核種拡散モデルには海水の流動、拡散の他に物質間の吸着・脱着(スキャベンジング効果)、海水と海底堆積層(3層モデル)との相互作用を考慮したモデルの構築に努め、線量評価のための精度向上を図った。濃度解析は核種(Pu-239とCs-137)の放出シナリオに基づいて、局所域(カラ海、バレンツ海)と北極海全城を対象として実施した。濃度解析ではパラメータ(分配係数値、粒子の沈降速度、SS濃度)が海水及び海底土内の濃度におよぼす影響を検討した。Pu-239の場合、3つのパラメータが大きいほど、海水中濃度が低く、Cs-137の場合はパラメータによる濃度への影響はPu-239よりも小さいこと、どちらの核種においても海水に接する粒子層が最大値を示した。核種が放出されてから、10年後(局所域)及び1000年後(全域)の濃度は核種により異なり、Pu-234では海底土内に90%、残りは海水中に残存すること、Cs-137では海水中に60〜80%、残りは海底土に残存する事を確認した。(2)放射性核種の底質移行に係わる浮遊懸濁物の役割に着目し、懸濁物の放射性核種吸着量を支配する要因の一つである懸濁物の物理化学的特性を調べるためにPIXE法を用いた元素分析を実施した。試料は那珂湊の海水を用いた。1年間に亘る調査の結果、主要元素の濃度はほぼ一定であり、海洋中での生物活性の季節的変動にも拘わらず安定であることを見出した。更に、室戸沖の表・深層水、青森県を囲む3海域での懸濁物元素組成を比較した結果、元素濃度はほぼ一様であった。従って、浮遊懸濁物の元素組成は海域間及び季節間で大きな変動は無く懸濁物による核種の吸着効果は各海域で同様でスキャベンジング効果は濃度に依存することを確認できた。(3)生物への移行に関するデータを収集してプランクトン生態系による放射線核種の鉛直方向の輸送モデル化を検討した。14年度に構築した生物中のCs-137の濃度予測モデルについて検証データの取得を行った。検証データとしてIAEA・モナコの海洋研究所がモナコ沖合で観測したチェルノブイリ事故時のCs-137のデータを適用して、海産生物中Cs-137の動的濃度予測3次元モデルを検証した。
著者
城谷 勇陛 御園生 淳 渡部 輝久 宮本 霧子 高田 兵衛
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.65, 2018

<p>核燃料サイクル施設周辺海域における1991年以降の海水および2001–2011年の海産生物の<sup>3</sup>H濃度について2006年からのアクティブ試験や2011年に起きた福島第一原発事故による影響について明らかにすることを目的とし、<sup>3</sup>H分析を行った。アクティブ試験の影響による<sup>3</sup>H濃度の上昇が、海水については2007、2008年に、海産生物では2006、2007,2008年に確認された。一方で、福島第一原発事故の影響による<sup>3</sup>H濃度の上昇は両方で確認されなかった。</p>