著者
古賀章彦 平井 百合子 平井 啓久
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第27回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.45, 2011 (Released:2011-10-08)

<目的> StSat 反復配列が形成するブロック1か所あたりの平均の大きさは、 過小に推定して、3 × 109 bp(ゲノムサイズ)× 0.001(割合の推定値)/ 24(染色体数)/ 2(両末端)= 60 kb である。異なる染色体の端部に塩基配列が均質で、かつ長大な領域が、テロメアに加えて存在していることになる。このため「StSat 反復配列の領域で非相同染色体間の組換えが頻繁に起こる」との推測が成り立つ。これを直接検出することを我々は目指している。ただし、特定の反復単位を見分ける手段はないため、マーカーのDNA断片を染色体に組み込んだうえでその挙動を追うことになり、時間を要する。そこで、短時間で可能な間接的な検証のための実験を考案し、これを行った。<方法> StSat 反復配列を含む約 30 kb のプラスミドクローン(A)と、含まない同じ大きさのクローン(B)を作り、それぞれをチンパンジーの培養細胞にリポフェクション法で導入した。クローンはサークル状であるため、染色体との間で組換えが1回起こるとクローンの全域が染色体に組み込まれる。これが起こることを可能にする時間として4世代ほど培養した後、AとBに共通する部分をプローブとして、染色体へのハイブリダイゼーションを行った。<結果> Aを導入した方でのみ、主に染色体端部にシグナルが観察された。StSat 反復配列の部分で組換えが起こってクローンが染色体に取り込まれたとの解釈が順当であり、頻繁な組換えの間接的な検証であるといえる。<考察> 一般に染色体のある場所で組換えが起こるとその近辺での組換えが抑制されることが、知られている。これを考慮すると、「チンパンジーでは StSat 反復配列があるために、隣接する領域での非相同染色体間組換え頻度は、ヒトより低い」ことが可能性として考えられる。
著者
平井 啓久 古賀 章彦 岡本 宗裕 安波 道朗 早川 敏之 宮部 貴子 MACINTOSH Andrew カレトン リチャード 松井 淳 中村 昇太
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

病原体が通常宿主特異性を持つために、宿主と病原体は頑健な宿主寄生体関係を示す。これを病態生理的発現型と見なすことができる。その特性を基盤にして、アジアの霊長類(特に多様性の高いテナガザル類ならびにマカク類)に焦点をあて、これらに感染する病原体(ウイルス(サルレトロウイルス)、細菌(ヘリコバクター)、寄生虫(マラリア原虫))との共進化を以下の項目からひもとく。(1)双方の遺伝子の分化機構を明確にする。(2)霊長類の生物地理学的分化との総合的見知から、病原体と宿主霊長類の双方の進化史を描く。(3)宿主応答機構ならびにゲノム内分化機構から宿主寄生体関係史を遺伝生理学的に明らかにする。
著者
古賀 章彦
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

大規模なヘテロクロマチンが短期間(種分化が起こる程度の時間)に増幅(生成を含む)あるいは縮小(消失を含む)する現象が、ヒト科やテナガザル科など、霊長類の多数のグループでみられる。その機構の解明につなげることを目指し、増幅や縮小を起こしたヘテロクロマチンの特性を調べた。反復配列が転移などでセントロメアやテロメアに入り込んだ際にこれが起こること、および増幅や縮小の効率は塩基配列に依存することが判明した。