著者
吉川 圭二
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

過去3年にわたって、量子宇宙における相転移とゲージ対称性の起源を追求する目的で始めた本研究は、後者の問題に関して物理的および数学的な基本問題を解決することができたこと(以下の項目1)、前者に関しては2次元宇宙模型に於てではあるが4次元問題にも共通して現れると考えられる極めて興味深い結果が得られた(項目2)。1.素粒子の相互作用のゲージ対称性は、一般には理論構成の原理として最初に仮定されるもので、高エネルギーではその全対称性が観測されるが、低エネルギーでは対称性の自発的破れによって、より低い対称性が観測されるのが一般である。しかしこの研究では、逆に高エネルギー領域の対称性よりも低エネルギーの対称性が高くなる例があることを発見し、そのゲージ対称性の発生機構を解明した。それはBerry位相機構で、従来はこの機構ではゲージ場の運動エネルギー項が生成されないとされていた。ここでは、その運動エネルギー項の誘発機構を例示し一般の条件を示した。具体的には、6次元時空におけるU(1)ゲージ理論がKaluza-Klein機構によって4次元時空と2次元のgenusがgのRiemann面の積にコンパクト化した場合、4次元空間におけるゲージ対称性はU(1)のg個の直積になる。これはKaluza-Klein機構とは別のもので、運動エネルギー項はRiemann面のソレノイド・ポテンシャルの自由度が転化する。この新機構は他の位相的に単純でない空間にも適用できるので、現在の標準理論の持つゲージ対称性が全てこの機構で誘発されている可能性も考えられ、今後の研究に大きな示唆を得ることができた。2.一方絃理論に関しては、従来非臨界次元の絃理論が2次元の量子宇宙論の模型として研究されていたのに対して、ここでは臨界次元の絃模型を2次元量子宇宙模型として解釈することで、宇宙の生成消滅や分離された一つの宇宙の持つ自由度などを求めた。とくに、1つの宇宙に棲む知的生物が観測し得る物理量を特定した点は重要な成果である。3.量子宇宙に関しては、3次元のChern-Simons重力理論において、トーラス、de Sitter及びanti-de Sitter宇宙解の古典的及び量子論的発展問題を論じた。
著者
沢田 昭二 大槻 昭一郎 玉垣 良三 吉川 圭二 福田 礼次郎 高木 富士夫 松田 哲 秋葉 巴也
出版者
名古屋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

1.QCDジェットや重いクォ-コニウムなど摂動論的方法が有効な領域において実験との一致をみているQCQ(量子クロモ力学)が、非摂動的効果が重要となる領域において、どのようにカイラル対称性が自発的に破れる相に移行し、カラ-自由度が閉じ込められてハドロンを構成するか、その機構を理論的に明らかにすることを本研究の中心課題とした。2.この方向に沿って、非摂動効果を含む問題を取扱う新たな手法として、格子ゲ-ジ理論、ア-ベリアン射影、逆転法などを用いた方法が開発され、相移転機構や閉じ込めなどの具体的問題に適用された。3.QCDの低エネルギ-有効理論と考えられる非線型シグマ模型とQCDとの関連を明らかにするとりくみもおこなわれ、またこの模型におけるソリトン解すなわちスカ-ミオンによって核子をはじめとするバリオンとその相互作用の研究が引きつづいておこなわれ、またカイラル・バッグ模型にもとづいて核子の諸特性および核力の導出がおこなわれた。4.格子ゲ-ジ理論にもとづいてQCDから電子計算機を用いて直接QCD系の相構造、ハドロンの質量スペクトル、レッジュ軌跡の勾配などを求めるとりくみは、新しい計算方法の開発と電子計算機の大型化、高速化によって、一層信頼性の高い結果が得られ、当初の結果の抜本的な見直しがおこなわれた。この方向の研究は計算機の進歩とあいまって今後引きつがれる。5.QCDを含めた相互作用の統一を求める研究、標準模型を超える試みも活発におこなわれ、100GeVおよびこれを越える実験結果がえられつつある状況の中でCD不変性の破れ、トップ・クォ-ク質量予測などの研究成果も挙げられた。また宇宙初期の創成過程とかかわって有限温度QCDにもとづくクォ-ク・グル-オンプラズマ,高密度核物質の研究にも新たな知見が加わった。