著者
田中 一義 大澤 映二 千々和 一豊 吉田 孝紀 横尾 俊信 伊藤 彰浩
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は海外調査研究として、現地・ロシア連邦カレリア共和国のオネガ湖北西部付近の下部原生界Karelian Super Group中のシュンガイト鉱石産出地Shungaほかにおいて採取した鉱石試料の分析を行うものである。一般にこの鉱石群は黒色、細粒かつ緻密な岩石で、最大98wt%もの炭質物を含む。平成16年度は前年度に引き続いて、約20億年前(先カンブリア時代)に堆積した炭素富裕鉱物層中でフラーレン分子が存在していることを確認したType Iシュンガイト(75-98wt%C)に加えて、上記オネガ北岸地域および西北地域Shunga, Zazhogino, Maksovoで産出される、Ludicovian Groupでの低炭素含有鉱石(タイプII-V;10-75wt%C)の産状と周辺の岩石層の研究の纏めを行った。Karelian Super Groupは層序的下位より、Jatulian, Ludicovian, Kalevian, Vepsianの各グループに区分されている。Ludicovian Groupの玄武岩のSm-Nd年代は1.98Gaである。16年度に得られた結論として、低炭素含有シュンガイトは初生的に有機物に富む硅質な堆積岩を起原とすると考えられ、Type IIIシュンガイト(20-35wt%C)などの中程度の炭素含有量を示すものは、初生的に炭素質な堆積岩と火山岩類の反応によって富化された結果による可能性がある。Type I-II(35-98wt%C)シュンガイトは何らかの状況で濃集した炭質物が流体として再移動した結果の産物と考えることができる。しかしながら、堆積物中に本来存在した炭質物の起源や、火山岩類を伴わない大量のType III-IV (10-35wt%C)シュンガイトの起原は現時点では不明であり、なお調査を要すると考えている。さらに12月3日京都大学において、海外共同研究者のナタリアN.ロシュコワ博士を招いて西側諸国としては初のシュンガイトシンポジウムを開催し、化学的・鉱物的・地質学的な各視点からの活発な討論を行った。
著者
加藤 倫平 植田 勇人 吉田 孝紀
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

北海道中軸部の空知-エゾ帯の主要な構成メンバーとして南北に渡って広く分布する白亜系堆積物は蝦夷層群と呼ばれ,多くの層序学的・古生物学的研究が重ねられてきた。その層序は従来から下部,中部,上部に区分されている(Matsumoto, 1942など)が,蝦夷層群の下部と中部の境界の層序学的位置は各地で異なり,蝦夷層群の広域的な対比は困難である。一方,蝦夷層群分布域全域に渡って追跡できる珪長質な凝灰岩や火山砕屑性砂岩からなる鍵層が確認され,北海道中央部では丸山層と命名された (Matsumoto, 1942;本山ほか,1991など)。この鍵層の堆積年代は蝦夷層群の広域的層序対比に有効であると考えられる。しかし,空知-エゾ帯北部の天塩中川地区や南部の春別川地区においても,化石の産出が乏しいため,この丸山層に対比されるような地層の特定は困難である。このような化石の産出に乏しい地層の年代決定には,U-Pb法による砕屑性ジルコンの年代値が有効である。よって,本研究では,天塩中川地区と春別川地区の凝灰岩層中の砕屑性ジルコンを用いて,U-Pb法により堆積年代を決定し,蝦夷層群下部~中部に及ぶ層準の広域的層序対比を試みた。ジルコンのU-Pb測定には新潟大学のLA-ICP-MS (Agilent 7500a ICP-MS及びNew Wave UP213 レーザーアブレーションシステム)を用いた。 その結果,天塩中川地区の蝦夷層群中部の白滝層の凝灰岩の堆積年代として,96.3-103.4Maを得た。一方,春別川地区の蝦夷層群中部春別川層の凝灰岩層の堆積年代として,98.5±0.5Maを得た。これらの凝灰岩及び凝灰質砂岩の岩石学的性質は珪長質であることが分かった。すでに報告されている北海道中央部の丸山層の堆積年代は浮遊性有孔虫の検討から,102-105Maである(高嶋ほか, 1997b)。また,北海道中央部の日陰の沢層の凝灰岩層のサニディンから98.98±0.38Maおよび99.16±0.37Maの Ar-Ar年代がすでに報告されている(Obradovich et al., 2002)。これらの凝灰岩層は,96-127MaのK-Ar年代を示す渡島帯の花崗岩類(柴田・山田, 1978など),100.6±3.3MaのAr-Ar年代を示す火山岩類(滝上, 1984など)に由来すると考えられる。
著者
酒井 治孝 今山 武志 吉田 孝紀 朝日 克彦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.6, pp.403-421, 2017-06-15 (Released:2017-07-25)
参考文献数
138
被引用文献数
3

ヒマラヤの4つの地質帯を画するプレート境界断層の活動が,北から南へと移動するのに伴い山脈は上昇・隆起してきた.大陸衝突以前に深度100kmを超えるマントルまで沈み込んだテチス海の海洋プレートがslab break-offしたことにより,約50~35Maにチベット前縁山地が急激に上昇した.次にインド亜大陸の北縁の上部原生界の地層が沈み込み,地下約40kmに達し中圧型の変成作用を被ったが,デラミナーションを起こし,22~16 Maに急激に上昇した.約15Maに地表に露出した変成帯は上昇を続け,南方のレッサーヒマラヤを構造的に覆い変成岩ナップを形成したが,その運動は11~10Maに停止した.それ以降ナップと下盤の弱変成したレッサーヒマラヤ堆積物は,その先端から北方に向け約10km/Myrの速度で冷却した.また運動停止後,その前縁に生じたMBTに沿ってインドプレートの沈み込みが始まり,3~2.5Maには南方のMFTに移動し,それによってヒマラヤ前縁山地とシワリク丘陵が誕生した.