著者
吉田 昭子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.21-33, 2015-01-31

本研究では,公共図書館における図書館員のためのレファレンス研修における,レファレンス事例の活用,評価の実践についてとりあげる。本研究の目的は,図書館の現場で実現可能で効果的な研修方法を検討し,現場の図書館員によるレファレンス事例評価の観点とは何かを整理することである。筆者が,図書館員向けのレファレンス研修で行った国立国会図書館のレファレンス協同データベースの事例を活用した事例検討会について述べる。事例検討会では,グループ学習とプレゼンテーションを組み合わせた研修方法を用いた。実践を通じて,図書館員のレファレンス能力の向上を図る上で,レファレンス事例を活用して事例評価の観点を考察することが,効果的であることを確認することができた。
著者
吉田 昭子
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.67, pp.1-38, 2012

原著論文【目的】伊東平蔵(1857-1929)は, 明治末期から昭和初期の日本の図書館界で, 図書館設立に精通した人物として知られている。彼は東京外国語学校の教授を務め, 一方で多くの図書館設立建設準備にあたった。しかし, 彼に関する先行研究は充分に行われてきたとはいえない。本研究の目的は, 伊東平蔵の人物像と, 実践の中で培われた図書館思想を明らかにすることである。【方法】伊東の経歴を明らかにするために, 先行研究で用いられた資料や公刊された資料類の調査を実施した。さらに横浜市中央図書館が所蔵している伊東の資料(日記, 書簡類の複製)や, 東京都公文書館等の一次資料の調査を行った。彼の図書館思想については, 公刊された伊東の論文などから再構成した。【結果】伊東の生涯を7つの時期に分けて検討を行った。彼は東京に市立図書館がなかった時代に, 市民のための通俗図書館の設立運営にあたった。伊東は私立図書館, 市立図書館, 県立図書館と性格の異なる図書館を設立し, その運営に当る一方, 人材育成を通じて図書館界の基盤の必要性を唱え, その整備と内容充実に力を注いだ。こうした実践の中で, 彼の考え方は, 小規模な図書館を数多く設立することから, 図書館の通俗性を維持しながらも自治体の規模にあった図書館を設立すること, さらに府立図書館や県立図書館と市町村立の図書館の役割分担が重要であることへと展開していった。
著者
吉田 昭子
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.64, pp.135-175, 2010

原著論文【目的】東京市立日比谷図書館は1908年11月に設立された。本研究では, 東京市立日比谷図書館が果たしてどのような考えを持って設立された図書館なのか, 設立以前の構想と設立経緯を, 経費, コレクション, 設計等から具体的に明らかにすることを目的とする。【方法】当時の雑誌, 新聞, 公文書類等の一次資料や図書館報などによる文献調査を行った。さらに, 今回新たに判明した日比谷図書館建築仕様書を加え, 設立構想の推移を調査した。研究対象期間は1900年から1908年までである。【結果】東京市立日比谷図書館の主な設立構想としては, 伊東平蔵等の小規模図書館構想, 坪谷善四郎の大規模図書館構想, 寺田勇吉の中規模図書館構想の3つがみられる。1906年7月に, 東京市会で通俗図書館建設のための予算が決議された。しかし, 開館時の蔵書総数は12万冊, うち10万冊は日英文庫が占め, 利用可能な図書の6割は洋書であった。図書館を建築したのは三橋四郎であった。東京市立日比谷図書館は収容人数400人, 煉瓦造の耐火構造書庫や児童閲覧室, 婦人閲覧室などを持つ図書館として開館した。今回の調査で, 開館前に雑誌『建築世界』に建築仕様書が連載されていたことがわかった。日比谷図書館は当初の小規模図書館構想より, はるかに大きな規模の図書館として開館した。しかし, そこには市民のための通俗図書館を目指す理念が存在していた。
著者
吉田 昭子
出版者
文化学園大学・文化学園大学短期大学部
雑誌
文化学園大学・文化学園大学短期大学部紀要 (ISSN:24325848)
巻号頁・発行日
no.52, pp.82-88, 2021-03-31

コロナ禍における大学生の生活は,ことごとく変わっている。その中で大学生は工夫をしながら生活している。「新しい生活様式」を探るにはあまりにも複雑な状況にある。本稿では新 1 年生に焦点を当て,おそらく初めてであろう電子図書館利用の体験を指導することから,「大学生と読書」を考えてみることにした。電子図書館の利活用という新たな観点から,読書環境を見つめ直すことが課題解決の一助になると考えた。 大学生からの電子図書館改善点は,次のような 3 つの主な要望であった。図書のタイトル数を増やす,貸出冊数や貸出期間を増やす,試し読みのできる図書を増やす。筆者が最も痛感したのは,電子図書館に関するPRが少ないという指摘である。電子図書館の申請や利用方法,利用事例などをきめ細かく例示することで,利用を促進することができる。さらに,大学生だけではなく,教職員に対しても,その利便性を広く伝え,文化学園ならではの図書館づくりを目指していきたい。より多角的かつ立体的な観点から大学生の読書,大学図書館のあり方をとらえ直すことで,新たな図書館を創出することができるということが明らかになった。
著者
吉田 昭子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21873372)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.141-152, 2016-01

日本人の読書離れが指摘され,特に大学生の読書離れが繰り返し論議されている。大学生の読書はどのような状況にあるのだろうか。大学生は実際にどのような作品や著者を好み,読んでいるのか。学生が読書好きや読書嫌いになるきっかけとは,果たしてどのようなものか。本研究では既存の読書調査類を比較して大学生の読書状況を概観するとともに,文化学園大学の授業の中で大学1 年生が執筆した読書体験記に基づいて,その読書傾向や状況に関する考察を行った。読書体験記から見ると,幼少期における読書環境の状況にかかわらず,受講者は成長につれて本と接する機会が減少している。しかし,読書離れや不読は,読書嫌いを意味するわけではなく,読書体験を振り返る中で多くの受講者がどちらかと言えば,読書好きであると述べている。受講生は一貫して読書好き,読書嫌いな場合と,中高校生の時期に読書好きから読書嫌いへ,読書嫌いから読書好きへと変化している場合がみられることが明らかになった。変化のきっかけや理由として,「本との出合い」,「読書環境の設定」,「人との出会い」の3 つの場合が見られることが確認された。
著者
吉田 昭子
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.62, pp.145-165, 2009

原著論文【目的】本研究の目的は,新潟県加茂市立図書館が所蔵する坪谷善四郎関係資料の概略と特色を把握し,その図書館史研究上の意義を明らかにすることにある。坪谷善四郎は大橋図書館(現三康図書館)の図書館長を務め,東京市議会議員として,東京市立日比谷図書館の設立に貢献した人物として知られている。【方法】加茂市立図書館所蔵坪谷善四郎関係資料の調査を実施し,その資料種別,各種別の内容および特色,保存状態を検討した。さらに,現在三康図書館が所蔵する坪谷善四郎関連資料と比較し,現存する坪谷関係資料の全容を推定した。【結果】加茂市立図書館坪谷善四郎関係資料とは,坪谷が郷里加茂に寄贈した自筆資料や坪谷収集資料類である。自筆日記,雑稿類,加茂町立図書館寄贈台帳,写真集・アルバム・旅手帳,回顧録,絵葉書集,名士書簡類などからなる。たとえば,日記と雑稿類は,坪谷自筆の活動日誌や雑誌などに掲載した原稿類を集めたものである。それぞれ推敲や修正の形跡がみられ,図書館史上の歴史的事実を確認することや,坪谷の思考のプロセスをたどることができる。今回の調査の結果,坪谷善四郎関係資料は,現在未整理のままではあるが,豊かな内容を持ち,東京市立図書館をはじめとする,わが国図書館史研究の第一級史料であることが明らかになった。