著者
澤田 いずみ 丸山 知子 吉野 淳一 今野 美紀 片倉 洋子
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

I.研究の目的夫婦間暴力を受け夫と離別した女性の心身の健康状態を明らかにし、暴力が女性の健康に与える長期的な影響とヘルスニーズを明らかにすること。II.研究方法1.質問紙調査1)対象:過去に夫婦間暴力を背景に民間のシェルターに援助を求め、現在は夫と離別して生活している女性100名。2)調査の内容:(1)身体・精神症状32項目、(2)IES-R、(3)Zungうつ病自己評価尺度、(4)受診状況と受診ニーズ、(5)基本的属性、(6)暴力の被害状況、(7)生活習慣を尋ねた。3)回収結果:調査用紙の回収数は67部(回収率67.0%)であった。2.聞き取り調査1)対象:1次調査の参加者で面接への同意が得られ、離別後3年以上を経過していた20名。2)面接内容:20名のうち14名に夫と同居中、別居した直後、現在での健康状態とヘルスニーズについて1〜2回の半構造化面接を行い、逐語録を作成し内容分析を行った。III.調査結果質問紙調査の結果、夫と同居中、約8割の女性が抑うつ状態を体験していたが、夫からの暴力により受診行動が制限されていた。離別後では、約5割の女性が「憂うつな気分」「眠れない」「疲れやすい」などの症状を"まあまあ"又は"かなり"感じており、約3割の女性に軽度以上のうつ状態、7割の女性にPTSDが疑われる状態であることが示唆され、健康に問題を自覚している女性のうち約5割が暴力と関係していると認識していた。心身症状は離別期間の経過に伴い減少するものもみられるが、個人差が大きく顕著な統計学的な関連を認めなかった。面接調査においては、暴力によるソーシャルサポートの分断や経済的困難などの生活基盤の脆弱性や、暴力の影響を受けた子どもの健康状態が、女性たちの健康状態の回復に影響していることが示唆され、離別後の親子を総合的に支援することが必要と考えられた。今後は、健康状態の個別性の背景と回復の過程を明らかにする予定である。
著者
神成 真 澤田 いずみ 道信 良子 吉野 淳一
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.88-97, 2021 (Released:2021-07-29)
参考文献数
20

目的:精神療養病棟の治療構造における病棟規則の機能を明らかにすること.方法:3施設4か所の精神療養病棟で月1回6か月間のエスノグラフィーを実施し,構造機能主義を理論的パースペクティブとして質的帰納的分析を行った.結果:病棟規則の機能として,【管理指示型集団従属的規則運用パターン】の規則は,【地域住民・病院職員が安心で入院患者が安全に生活する場としての閉鎖的施設環境】の治療構造の存続を維持するために順機能していた.【対話支持型個人主体的規則運用パターン】の規則は,【急性期の病状を脱した患者や慢性期の患者を地域生活に近づけるための治療】の治療構造の存続を維持するために順機能していた.結論:精神療養病棟の病棟規則は,患者の医療保護および社会防衛の機能と,患者を社会復帰に向ける機能を有していた.患者個人を支援する規則の内容と対話を用いた運用が,患者を社会復帰に向ける機能を果たすと示唆された.
著者
吉野 淳一
出版者
札幌医科大学保健医療学部
雑誌
札幌保健科学雑誌=Sapporo Medical University Sapporo Journal of Health Sciences = Sapporo Medical University Sapporo Journal of Health Sciences
巻号頁・発行日
no.7, pp.38-44, 2018-03

本研究では,自死で配偶者を亡くした女性の夢の中での自死者との再会についての語りと描画の作業(ナラティヴ・イメージワーク)を報告する。研究協力者は,自死した夫の登場する夢を見て,それを記憶し,そして,研究者の求めに応じてその内容を語り描写することができた。夢に現れた状況は,夢見手によって把握され,音,音感,表情について報告された。夢中では,研究協力者と自死者との言語的な対話は成立しているとは言いがたく,研究協力者の問いかけにも自死者からは明確な言語的な回答はなかった。しかし研究協力者は,夢の中での自死者のふるまいから言葉を超えたメッセージをくみとっていた。そして,語られた内容のうち印象的な場面を描画することができた。これらから,自死者の登場する夢を語り描画する作業を通して,自死遺族と自死者そして研究者のあいだで対話的な関係が維持され,メッセージの持つ意味が共同生成されていることから,ナラティヴ・イメージワークが自死遺族の作業の進展に寄与できることが示された。
著者
欠ノ下 郁子 澤田 いずみ 吉野 淳一
出版者
札幌医科大学
雑誌
札幌保健科学雑誌=SAPPORO MEDICAL UNIVERSITY SAPPORO JOURNAL OF HELTH SCIENCES (ISSN:2186621X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.14-20, 2017-03-01

目的:思春期に統合失調症を発症した人が不調を感じてから精神科病院へ受診し、統合失調症との認識を持つまでのMHLの様相を明らかにすることである。研究方法:研究協力者4名を対象に半構成的面接を行い、質的記述的研究法を用い分析を行った。結果:本研究の結果として、MHLは4つのカテゴリーで構成され、初回受診過程におけるMHLの様相は(健康状態への自己認識)の変化に沿って4つのフューズに分かれた。対象者は(病気になって初めてわかる精神疾患に関する知識)を語り、病気になるまでは知識がない中で(必死に模索してきた自己対処行動)を行っていた。初回受診に至ったのは、(周囲の人の健康状態への認識)の変化によるものだった。結論:初回受診過程におけるMHLは4つのフューズに分かれ、このMHLに影響する要因は個人特性、思春期の特徴、対象者を取り巻く人々のMHLが考えられ、DUP短縮に向けた看護の可能性が示唆された。