著者
土岐 健次郎 勝山 信之
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.853-861, 1995 (Released:2008-05-15)
参考文献数
10
被引用文献数
6 8

サルスベリの花色育種に関する基礎資料を得る目的で, 紅色~紫色の変異機構の解明を試みた. 結果は以下の通りである.1. シアニック系67個体の測色で, 紅色系 (b/a,-0.183~+0.165) と紫色系 (同, -0.785~-0.442) に大別された.2. 生花弁の吸収スペクトル測定では, 紅色系は524~544nm, 紫色系は, 555~570nmにλmaxがあり,紫色系において360nm付近に強い吸収が観察された.また, E360/EVIS.maxとb/aの間には, 高い負の相関(r=-0.897***) がみられた.3. 含有する主要アントシアニンは, 紅色, 紫色ともDp3G, Pt3GおよびMv3Gであった. これら3色素の量比は, 大きく変異するが, 全体でみるとb/a値との間には相関関係はなかった. ただし, 紅色系に限るとMv3G比 (Dp3G比) とb/aには負の (正の) 相関がみられた.4. 花弁細胞液のpHの測定値は, 4.2~5.1の範囲で, 変異した. しかし, これと花色には, 有意な相関はなかった.5. 粗抽出水溶液を酢酸エチルと振って分画し, 水分画に酢酸エチル分画を加えることにより, 吸収極大は長波長側にシフトし, 逆に粗抽出液を酢酸エチルで洗浄することにより, 短波長側に移動した.6. TLC分析により, エラグ酸誘導体と考えられる物質が, 特に紫色花弁に多量含まれることより, この物質がサルスベリの花の青色化に関係する主要なコピグメントの一つであると推定された.
著者
立澤 文見 土岐 健次郎 大谷 祐子 加藤 一幾 斎藤 規夫 本多 利雄 三位 正洋
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.259-266, 2014 (Released:2014-07-31)
参考文献数
14
被引用文献数
6 6

2 種類の主要アントシアニン(色素 1 と 2)が青色花弁のネモフィラ(Nemophila menziesii ‘Insignis blue’)およびその変異系統の紫色花弁から検出された.これら 2 種類のアントシアニンを青色花弁から単離し,化学およびスペクトル分析による構造解析を行った結果,ペチュニジン 3-O-[6-O-(シス-p- クマロイル)-β- グルコピラノシド]-5-O-[6-O-(マロニル)-β- グルコピラノシド](色素 1)とペチュニジン 3-O-[6-O-(トランス-p- クマロイル)-β- グルコピラノシド]-5-O-[6-O-(マロニル)-β- グルコピラノシド](色素 2)であり,色素 1 は新規化合物であった.さらに,2 種類の主要フラボノール配糖体(色素 3 と 5)と 2 種類の主要フラボン配糖体(色素 4 と 6)も青色花弁から単離され,ケンフェロール 3-(6- ラムノシル)- グルコシド-7- グルコシド(色素 3),アピゲニン 7,4′- ジグルコシド(色素 4),ケンフェロール3-(2,6- ジラムノシル)- グルコシド(色素 5),そしてアピゲニン 7- グルコシド-4′-(6- マロニル)- グルコシド(色素 6)と同定された.これら 4 種類のフラボノイドの内,色素 4 と 6 は紫色花弁からは検出されなかったことから,これらの違いにより花色が異なることが示唆された.
著者
斎藤 規夫 本多 利雄 立澤 文見 星野 敦 阿部 幸穎 市村 美千代 横井 政人 土岐 健次郎 森田 裕将 飯田 滋
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.452-460, 2011
被引用文献数
13

アサガオ(<i>Ipomoea nil</i> または,<i>Pharbitis nil</i>)の <i>speckled</i> 変異により淡黄色花を咲かせる 54Y 系統と <i>c-1</i> 変異により白花を持つ 78WW<i>c-1</i> 系統の F<sub>1</sub> 並びに F<sub>2</sub> 植物について,花弁に含まれるアントシアニンとその関連化合物を解析した.<i>speckled</i> 変異が優性の遺伝因子である <i>speckled-activator</i> と共存すると,花弁に吹掛絞が現れる.<i>Speckled</i> と <i>C-1</i> 遺伝子座は強く連鎖しており,78WW<i>c-1</i> 系統にのみ <i>speckled-activator</i> が存在する.このため,F<sub>1</sub> 植物は赤紫花を咲かせ,F<sub>2</sub> では赤紫花,白花,吹掛絞(淡黄色地に赤紫の斑点模様)の花,淡黄色花の植物が 8 : 4 : 3 : 1 の割合で分離する.解析の結果,F<sub>1</sub> と F<sub>2</sub> の赤紫花,さらに吹掛絞の斑点部分には同じアントシアニンが含まれていた.いずれもウェディングベルアントシアニン(WBA)が主要な色素であり,その前駆体など 9 種のアントシアニン(ペラルゴニジン誘導体)も蓄積していた.一方,54Y と淡黄色花の F<sub>2</sub>,さらに吹掛絞の淡黄の地色部分では,カルコノナリンゲニン 2'-グルコシドが主要なフラボノイドとして検出されたほか,少量のカフェ酸とオーロシジン 4-グルコシドやクロロゲン酸もみいだされた.また,78WW<i>c-1</i> と白花の F<sub>2</sub> には,クロロゲン酸とカフェ酸が存在した.これらの結果から,<i>speckled</i> 変異と <i>c-1</i> 変異を持つアサガオでは,それぞれカルコン異性化酵素(CHI)とカルコン合成酵素(CHS)が触媒する反応過程でアントシアニン色素生合成が遮断されていることが強く示唆された.また,吹掛絞の斑点部分では,完全に色素生合成系が活性化していると思われた.さらに,F<sub>2</sub> の赤紫花と吹掛絞の斑点部分に含まれるアントシアニン構成が個体毎に異なることから,これまで報告されていない未知の遺伝的背景が WBA の生合成を制御している可能性が高い.<br>
著者
立澤 文見 斎藤 規夫 鴫原 淳 本多 利雄 土岐 健次郎 篠田 浩一 遊川 知久 三吉 一光
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.215-220, 2010 (Released:2010-04-22)
参考文献数
26
被引用文献数
6 15

青花シラン‘紫式部’の青紫色花被から新規アシル化アントシアニンを単離した.この色素はシアニジン 3,7-ジグルコシドをデアシル体とし,2 分子のカフェ酸でアシル化していた.化学構造は化学およびスペクトル分析による構造解析の結果,シアニジン 3-O-(β-グルコピラノシド)-7-O-[6-O-(4-O-(6-O-(4-O-(β-グルコピラノシル)-trans-カフェオイル)-β-グルコピラノシル)-trans-カフェオイル)-β-グルコピラノシド]であることがわかった.本研究の結果から,青花シランにおける花色のブルーイング効果について考察した.
著者
斎藤 規夫 立澤 文見 星野 敦 阿部 幸穎 市村 美千代 横井 政人 土岐 健次郎 森田 裕将 飯田 滋 本多 利雄
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
Journal of the Japanese Society for Horticultural Science (ISSN:18823351)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.452-460, 2011 (Released:2011-10-22)
参考文献数
33
被引用文献数
11 13 4

アサガオ(Ipomoea nil または,Pharbitis nil)の speckled 変異により淡黄色花を咲かせる 54Y 系統と c-1 変異により白花を持つ 78WWc-1 系統の F1 並びに F2 植物について,花弁に含まれるアントシアニンとその関連化合物を解析した.speckled 変異が優性の遺伝因子である speckled-activator と共存すると,花弁に吹掛絞が現れる.Speckled と C-1 遺伝子座は強く連鎖しており,78WWc-1 系統にのみ speckled-activator が存在する.このため,F1 植物は赤紫花を咲かせ,F2 では赤紫花,白花,吹掛絞(淡黄色地に赤紫の斑点模様)の花,淡黄色花の植物が 8 : 4 : 3 : 1 の割合で分離する.解析の結果,F1 と F2 の赤紫花,さらに吹掛絞の斑点部分には同じアントシアニンが含まれていた.いずれもウェディングベルアントシアニン(WBA)が主要な色素であり,その前駆体など 9 種のアントシアニン(ペラルゴニジン誘導体)も蓄積していた.一方,54Y と淡黄色花の F2,さらに吹掛絞の淡黄の地色部分では,カルコノナリンゲニン 2'-グルコシドが主要なフラボノイドとして検出されたほか,少量のカフェ酸とオーロシジン 4-グルコシドやクロロゲン酸もみいだされた.また,78WWc-1 と白花の F2 には,クロロゲン酸とカフェ酸が存在した.これらの結果から,speckled 変異と c-1 変異を持つアサガオでは,それぞれカルコン異性化酵素(CHI)とカルコン合成酵素(CHS)が触媒する反応過程でアントシアニン色素生合成が遮断されていることが強く示唆された.また,吹掛絞の斑点部分では,完全に色素生合成系が活性化していると思われた.さらに,F2 の赤紫花と吹掛絞の斑点部分に含まれるアントシアニン構成が個体毎に異なることから,これまで報告されていない未知の遺伝的背景が WBA の生合成を制御している可能性が高い.