著者
坂井 忍
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

地震時の人的被害軽減を念頭にこれまでに多くの死傷者発生予測式が提案されている。しかしその多くは過去の震害資料をマクロ的に統計処理して得られる実験式であり、建物が何戸倒れ、その結果として死傷者が何人発生したのかというレベルから議論がなかなか進展していない。その一方、近年の地震(フィリピン、イラン、エル・サルバドル)においては緊急救助活動の現場から、どういう建物がどのように倒壊し、何人閉じ込められ、どのくらいのあいだ生きながらえたのか、という資料が蓄積されつつある。これにより従来よりもやや微視的な観点から、死傷者の発生プロセスに深く立ち行って議論することが可能となってきている。本研究では、建物の倒壊から死傷者の発生にいたるプロセスを解明し、モデル化することを目標としている。本年度は、現場資料の充実をはかる一方で、昨年度提案した建物崩壊モデルをもとに負傷者の予測モデルを構築し、プロトタイプモデルとしてコンピュータ上に実現した。本年度の研究期間における成果を、以下にまとめる。資料収集:救助隊からの資料収集を継続する一方、被災現場における救助活動パターンの整理を被害資料等をもとに行った。負傷者の予測モデル:近年の被災現場からの報告書には、瓦礫の下から救出された人間の救命率を救助活動の全期間にわたって記録したものが見うけられ、研究代表者は、これらの解析から建物倒壊時において何割の人々がどの程度の怪我を負ったのかを推定する手法を提案している。本年度では、救助隊から得られた資料を中心にこの手法を適用し、組積造とRCフレーム造の2つの事例について倒壊時における負傷程度を比較検討し、建物の倒壊メカニズムの差異が負傷程度にどの程度の影響を与えるのかを探った。そして、これまでの成果を単一のモデルとしてコンピュータ上に統合した。
著者
岩井 彌 坂井 忍 神農 悠聖
出版者
一般社団法人 照明学会
雑誌
照明学会 全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.41, pp.50, 2008

大阪地下鉄御堂筋線の9駅のホームの視環境に対し,大学生6名による心理評価実験を実施すると共に,照度分布ならびに輝度分布を測定した.ホーム床面平均水平面照度は,全ての駅がJIS照度基準を満たしていたが,満足度の低い駅がほとんどであった.床面平均照度よりも評価時の視野内平均輝度のほうがホーム全体の明るさ感との相関が高く,特に算術平均輝度よりも幾何平均輝度のほうが高い相関が得られた.評価結果に順序効果の影響が見られた.
著者
岡田 成幸 坂井 忍
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.4, pp.277-286, 1994-08

1993年釧路沖地震の特徴として、室内でのケガ発生が多かったとの指摘がある。これは何を根拠としているのであろうか。震度と負傷率の関係をみる限り、過去における地震(1978年宮城県沖地震・1983年日本海中部地震)との間に大きな違いはない。むしろ、これまでの地震同様の負傷者発生状況であったといえる。しかしながら、釧路沖地震について特に室内でのケガ人発生が印象づけられているのはなぜであろうか。震度と住家被害率の関係をみてみると、釧路沖地震は本州を襲った地震に比較し同一震度に対する住家被害率、は小さい。すなわち、北海道の木造住家は本州のそれに比べ耐震性が高い。住家被害が小さかった割には、負傷者が相応に発生したため、クローズアップされたのかもしれない。いずれにしても、住家の耐震性向上が、負傷者低減にはそれほど寄与していないことになる。わが国の木造住家の構造様式は靭性に富み、ある程度の耐震性が保証されているなかで、家具の転倒等による室内変容が今日の日本の地震時の人的被害の様相を決定づける主要因となりつつある。室内変容に配慮した防災対策を本格的に考えていく必要性がある。室内変容の実態と負傷者の関係を詳細に調査すべく、釧路沖地震発生後、釧路市内の集合住宅を対象に聞き取り調査を行った。調査の主要項目は地震前の家具配置、地震時の家族の行動軌跡、家具転倒・散乱状況、負傷の有無とその発生場所・原因、および震度調査である。解析は地震時に家族のとった種々の行動を分類し、それを地震発生時を原点とする時系列上に整理し、行動パターンを特定していくというものである。その結果以下のことが判明した。この地震は震源深さが約100Kmと深く、したがって、釧路市内での初期微動継続時間が比較的長かった。この間に、主婦らは火の始末・避難のための移動・要介護者の保護などの必要な行動をほとんど完結している。主要動が始まり、行動がままならなくなったときには比較的安全な場所へ移動し終わっていた。すなわち、この地震では負傷者が多いことが指摘されているが、実際は揺れ方が幸いし、被害は最小限に押さえられていたと言うべきであろう。地震感知から主要動に即時に移行するような揺れ方をする、いわゆる直下型の地震であったならば負傷者はさらに増えていたことは容易に推測できる。なお、本論文は平成5年度文部省科学研究費突発災害調査研究・総合研究(A)「1993年釧路沖地震による被害の調査研究(研究代表者 鏡味洋史)」成果報告書(平成5年3月)に既発表のものである。