- 著者
-
坂井 晃介
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.4, pp.397-412, 2020 (Released:2021-03-31)
- 参考文献数
- 38
本稿の目的は,福祉国家の制度形成に関わる理念の位置価を,とくに19世紀後半ドイツにおける「連帯Solidarität」という語の政策的意義から,知識社会学的に明らかにすることである.
既往研究はこの語の階級闘争的意義を強調するが,政策形成に関わる統治実践においてこれがいかなる意味内容をもっていたのかについては十分に明らかにされてこなかった.そこで本稿では,1860 年代から構想され1880 年代に成立していく,労働者社会保険立法にかかわる政策担当者による諸言説を,制度と理念の相互連関から分析し,この語彙の同時代的布置を探った.
その結果明らかとなったのは次の点である.第1 に,同時代の政策担当者は,労働者や資本家が適切に自身の利害関心を自覚せず対立しているところに,社会問題の原因を見出している.第2 に,双方がもつべき適切な利害関心を特定し,それらを調和的に充足させるために,国家介入の重要性を主張している.第3 に,そこにおいて「利害関心の連帯」というフレーズは,階級的な闘争概念としての意味を離れて,国家介入を正当化する文脈で用いられている.
こうした分析により,同時代のドイツにおける統治実践において,連帯Solidarität という語が,社会集団の秩序を特定し,それを政策的に実現することで社会国家を作り上げていくための1 つの知識として動員されていることが明らかとなった.