- 著者
-
城下 裕二
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- no.30, pp.7-19, 2005-10-18
2004年9月に「凶悪・重大犯罪に対処するための刑事法の整備に関する要綱(骨子)」が法務大臣に答申され,同年12月に「刑法等の一部を改正する法律」として可決・成立し,2005年1月より施行された.本改正の内容は多岐にわたるが,最も注目されたのは刑法典における凶悪・重大犯罪の(約1世紀ぶりの)法定刑引上げである.今回の改正は「治安回復のための基盤整備」の施策の一環であり,法制審議会における審議状況を概観すると,法定刑引上げを必要とする立法事実としては,(a)国民の正義観念(規範意識)の変化,(b)犯罪認知件数の増加,(c)科刑状況の厳格化の3要因が挙げられ,これらは各種の統計資料によって根拠づけられるということが事務当局から説明されている.本稿は,審議会議事録および配布資料の内容を分析することにより,事務当局が指摘するような立法事実を根拠づけるのは困難であること,また,仮にそうした事実が存在するとしても,法定刑引上げという立法政策が直ちに正当化されるものではないことを明らかにする.そして,わが国の刑事立法政策過程が,EBP(エビデンス・ベイスト・ポリシー)の発想から学ぶべき点は何かを検討する.