- 著者
-
堀江 明香
- 出版者
- 日本鳥学会
- 雑誌
- 日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.2, pp.197-233, 2014 (Released:2015-04-28)
- 参考文献数
- 351
- 被引用文献数
-
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鳥類は生活史進化の研究において最も古い研究対象であるが,今なおその進化機構の解明には議論が続いている.Ricklefs(2000a)は生活史進化の研究史を2つに分けた.第1期はLackを初めとする鳥類学者が生活史を自然選択の枠組みで捉え,その進化について議論を開始した時期,第2期は生活史理論が成熟してその進化機構を実証しようと研究が進められてきた時期である.この第2期の流れは現在も続いているが,2000年前後を境に生活史進化の分野には新たな視点が加わり,研究は次のステージに入ったと考えられる.つまり,一腹卵数以外の生活史形質への研究拡大,餌資源の制約や捕食以外の新たな選択圧の探索,そして生活史を規定する内的機構の解明といった視点である.これらの研究によって,生活史進化を複合的・総合的に説明する土台が築かれつつある.本稿では,このような研究の転換から10-15年経った現時点において,新旧の選択圧が生活史に与える影響はどの程度検証されているか整理した.それぞれの選択圧についての検討には,個体や個体群内での影響を評価した可塑的なものと,種間比較や個体群間比較などから進化的な影響を推察したものがあったが,後者については検証が不十分なものが多かった.これらの問題点を含めて鳥類における生活史進化の現状と課題を議論し,日本における生活史研究の方向性について述べる.