著者
増井 光子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.17-23, 1996 (Released:2018-05-05)
参考文献数
21

最近は, 動物園でも種保存事業が重要視されるようになってきた。そのためには, 動物園動物の累代飼育繁殖に力点を置く必要がある。しかし, 累代繁殖を続けていくと, 幾つかの問題が生じてくる。その問題点の主なものは, 動物舎の汚染による感染症の発生, 個体の早熟化, 骨密度の低下, 体格の矮小化と体形の微妙な変化, 毛色の変化, 人工飼育動物でしばしば認められる, 社会性の欠如による繁殖障害, 集団の活性度の低下などである。これらのことは, 既に順化された動物の家畜化の経過の中で生じたことと同様であると思われる。動物園は野生動物が本来もっているものをできるだけ維持しようとするならば, 家畜化現象は好ましいものではない。一定面積の動物舎での適正飼育頭数を把握することは, 集団の健康管理上大切である。過密になれば新生子の死亡率は高まるし, 動物舎の汚染も進み, 感染症も発生しやすくなる。早熟化は, 多くの動物種に認められるし, 骨密度の低下は, 矮小化や体形の変化を招き易い。異種の動物に刷り込まれてしまう現象は, 人工哺育や人工育雛を行う場合, 特に注意を要する。基礎個体が少ない集団は, そのままにしておくとたとえ一時期繁殖成績が上がっても, 次第に衰退していく。活性化をはかるためには新規個体の導入が必要である。
著者
松本 令以 植田 美弥 村田 浩一 比嘉 由紀子 沢辺 京子 津田 良夫 小林 睦生 佐藤 雪太 増井 光子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.79-86, 2010 (Released:2011-03-01)
参考文献数
52

蚊媒介性感染症のベクターとなる蚊の生息状況解明を目的として,2005年5月から5か月間,横浜市立よこはま動物園内においてドライアイストラップ,グラビッドトラップおよびスウィーピング法を用いた捕集調査を行った。その結果,アカイエカ種群蚊(Culex pipiens group),ヒトスジシマカ(Aedes albopictus),トラフカクイカ(Lutzia vorax)など計9属14種2,623個体が捕集された。アカイエカ種群蚊およびヒトスジシマカが捕集蚊全体の約85%を占め,これらの蚊が園内における優占種であると考えられた。神奈川県内で生息が確認されている蚊26種のうち53.8%にあたる種が捕集されたことから,本動物園およびその周辺地域は,各種蚊が選好する多様な環境で構成されていると考えられた。なお,捕集蚊の10.6%で吸血が認められ,動物園動物を吸血源としている可能性が示唆された。動物園動物の蚊媒介性感染症を制御し,希少種の生息域外保全を行うためには,蚊種の生態に応じた防除対策が必要である。