著者
多田 博一
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
日本土木史研究発表会論文集 (ISSN:09134107)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.69-78, 1987-06-20 (Released:2010-06-15)

1757年, ブラッシーの戦いで勝利をおさめ, インド征服の足掛かりをつかんだイギリス東インド会社は, インド諸候の分裂に乗じて, 次第に領土を拡大していった。この過程で攻城戦はもとより, 平和時における道路, 兵舎, 庁舎の建設において, 工兵将校の役割が大きくなった。このため, 東インド会社は1809年に, ウーリッチの王立軍事アカデミーとは別に, 独自の軍事セミナリーを開設した。年間約60-80人の将校が養成され, そのうち特に優秀な者10人弱が工兵将校としての特別訓練を受けた。彼らは, イギリス領土の拡大にともなって生じた種々の公共事業, 例えは道路, 舟運, 灌概, 鉄道, 公共建築物の設計・施工・監督に当たらねはならなかった。現地の事情に通じた土木技師の必要が痛感ざれるようになり, 1847年アジア最初の工科大学が北インドのルールキーに設立されることになった。インド近代土木工学の夜明けである。この大学にはインド駐在のイギリス軍・官・民間人の子弟だけでなく, インド人の青少年も入学をみとめられていた。19世紀後半にはいると, そこを卒業したインド人技術者が, 1855年に設置された公共事業局の技官として採用されるようになった。インド統治のインド人化の始まりである。この大学では研究成果発表の機関誌として “Professional Papers on Indlan Engneering”が刊行された。また, 土木工学に関する教科書も編纂され, 次第にインド独自の土木工学が形成されていった。
著者
多田 博一
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.231-238, 1990-06-25 (Released:2010-06-15)

イギリス東インド会社は, インドの植民地領土の拡大にともない, 1820年代以降貿易よりも組織的な植民地経営に力を入れるようになった。その中心になったのは, 第一に, 歳入の柱である地租の増収のもとになる農業生産の安定・増加, 干魃の被害の軽減にとって欠かせない灌漑施設の整備, 第二に, 輪出入品および政府物資・人員ならびに軍隊の輪送・移動に不可欠の鉄道であった。技術史の立場からみて, この両者のインドにおける発展はきわめて対照的であった。灌漑についていえば, イギリス本国の農業は天水依存であり, 当時のイギリス人技術者たちは大規模な人工灌漑施設の建造・維持管理の経験をもっていなかった。これに対して鉄道は, 1825年にリヴァプール・マンチェスター間の鉄道路線が開業して以来19世紀を通じて, イギリス最大の輪出産業に成長していき, 技術的にも世界の先端を切っていた。本稿では, 19世紀中葉世界最大の用水路工事といわれた上ガンガー用水路の建造工事を追跡しながら, 当時のイギリス人にとって未知の領域であった用水路灌漑技術がどのようにして形成されていったか, を明らかにしようとするものである。(その一)では計画立案過程と事業計画概要を扱った。本稿では, 工事実施上の諸問題ならびに労働者・資材の調達の問題に触れたい。その中で, 種々の構造物の案出, インド在来技術とイギリスの近代的科学・技術知識との融合の側面に着目して, イギリスの技術者たちがインドにおける用水路灌漑技術を確立していった過程を明らかにしてみたい。
著者
高橋 孝典 篠崎 毅 二宮 本報 遠藤 秀晃 佐藤 公雄 多田 博子 深堀 耕平 広瀬 尚徳 大友 淳 杉江 正 若山 裕司 苅部 明彦 沼口 裕隆 三浦 昌人 福地 満正 菊地 淳一 渡辺 淳 白土 邦男
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.606-613, 2003-11-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
27

アミオダロン (AMD) が慢性心不全患者の左室収縮能に与える効果を検討した.頻脈性不整脈の治療目的にAMDが投与され, かつβ遮断薬を使用しなかった慢性心不全患者のうち, AMD投与後6カ月以上生存した連続15例を前向きに観察した, NYHA機能分類 (NYHA) , 左室駆出率 (EF) , 左室拡張末期径 (LVDd) , 心拍数 (HR) , 収縮期血圧, QTc, BNPについてAMD投与開始時から6ヵ月間の変化を検討し, 年齢・性別をマツチさせた対照群15例と比較した, AMD投与後にEFとQTcは有意に増大し, NYHA, LVDd, HR, BNPは有意に低下した.EF, QTc, NYHA, LVDd, HRの変化は対照群に比べて有意に大きかった.全15例中5%以上のEFの改善を示した9例は, 5%未満であった6例に比し, その後の心不全入院回避率が有意に高かった.EFの変化とHR, QTcの変化の間には相関を認めなかった.結論: AMDは慢性心不全症例の左室収縮能を改善させる.その効果はQTcおよび心拍数の変化で説明することはできない.
著者
友田 春夫 滝川 修 森本 浩司 藤田 有希美 岩本 智超 多田 博己 小熊 俊明 臼井 和胤 椎名 豊 吉岡 公一郎 布施川 雄一 田川 隆介 井出 満 鈴木 豊
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.26, no.Supplement1, pp.139-145, 1994-01-31 (Released:2013-05-24)
参考文献数
20

不安定狭心症,非貫壁性心筋梗塞を主とする,acute coronary syndromes例における虚血心筋の評価を,123I-MIBG,201TlClSPECT法にて試みた.123I-MIBG 111 MBq(3mCi)静脈内投与90分後より心筋SPECT像を撮像後,引き続き201TICIを投与15分後より心筋灌流SPECT像を撮像した.冠動脈造影は1週間内に施行した.非貫壁性心筋梗塞症例7例の内,201TlClによる心筋灌流低下一欠損部位を特定できない3症例においても,123I-MIBG心筋像では全例責任冠動脈領域の欠損像を描出し得た.不安定狭心症例にて,6例中3例においては,血清酵素の逸脱所見を認めず,かつ201TlClによる心筋灌流正常所見であっても,123I-MIBG心筋像では,責任冠動脈領域の明確な欠損像を描出し得た.以上のように,123I-MIBG心筋像により,他の方法で捉えられない,過去数週以上の虚血発症部位が描出されることが示された.
著者
多田 博
出版者
旭川医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

【目的と方法】腕神経損傷の中でも神経根引き抜き損傷は、脊髄硬膜内損傷であり、その修復は不可能とされる。しかし、本損傷は、節前損傷であるため、脊髄後根神経節及び末梢知覚神経は生存している。私は、末梢神経の切断縫合後にいわゆるmisdirectionが起こり、知覚神経線維が運動神経髄鞘内に迷入することに着目し、本損傷に対して、再建を目的とする筋の支配神経を一度切断し、再縫合することで故意にmisdirectionを起こし、後根神経筋による運動単位を形成させるという実験を試みた。実験動物として250〜300gのラット16頭を用い、腹腔内ネンブタール麻酔下に、腹臥位にて、手術用顕微鏡を用い、無菌的に操作を行った。まず、第4、5腰椎(L4、5)の椎弓切除を行い、一側のL4、5神経根を約1cm切除し、創を閉鎖する(神経根節前損傷の作成)。次に、一方の坐骨神経を露出後、切断し、180度回旋を加えて神経上膜縫合を行う(A群)。処置後、8、12週後に、坐骨神経を露出し、大転子部を刺激点とする前脛骨筋、腓腹筋の誘発筋伝図検査を行う。同時に筋そのものの電気刺激を行い、筋の反応性をみる。前脛骨筋、腓腹筋を摘出した後、その湿重量を測定し、筋及び脛骨、腓骨神経の組織学的検索を行う。コントロールとして、筋前損傷のみの群を8頭作成し(B群)、同様の検索を行った。【結果】処置後8及び12週において、坐骨神経を刺激点とする誘発筋電図検査では、B群と同様、A群においても明らかな誘発電位は得られなかったが、筋の直接刺激において、A群において、筋の収縮がみられた。また、健側と比較した筋湿重量の検索でもA群ではB群に比較し、有意に大きかった。組織学的検索においては両群に明らかな差はなかった。以上の結果より、後根神経筋による新しい運動単位の形成は起こらなかったが、本法が脱神経による筋の萎縮にあ対して抑制的に働いている可能性が示唆された。