著者
大久保 心
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-17, 2017 (Released:2018-08-01)

本稿は,園児と保育者の相互作用で形成される就学前教育の生活時間に生じるタイムマネジメントを分析する視点の基礎的な構築を目的とする. まず,これまでのタイムマネジメントに関わる研究から時間厳守と時間調整について検討し,小学校教育と比較した就学前教育の時間的特徴を整理し,事例分析を行う意義を示す.次に,研究方法を提示し,認定こども園と保育所での質的調査のデータをもとにした分析を行う.データの分析を通じて,タイムマネジメントの分析を行うために園生活における〈時間の区切り〉に着目することで,就学前教育で保育者が細やかな配慮を行い,個々の園児の主体性を尊重しながら園児集団のまとまりも維持しようとしているという実態が明らかにされる.その結果は,家庭と学校を結ぶ位置にある就学前教育の時間的特徴が,その後の学校生活や社会生活に関わる効果と関連している可能性を示唆する.
著者
大久保 心
出版者
日本時間学会
雑誌
時間学研究 (ISSN:18820093)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.31-51, 2021 (Released:2022-07-01)

生活時間研究を通じて,子どもの日常生活の階層間格差や地域間格差,特定の行動の時系列変化が明らかにされてきたが,子どものライフスタイルの総合的な趨勢の検討は十分でなかった。そこで本稿は,子どものライフスタイルの変化と安定の傾向を長期的に把握することを目的とした。10歳以上を対象とした「国民生活時間調査」の小学生,中学生,高校生,および親世代の40代の集計データを用いて,1970年から2020年までの時間量とタイミングの情報から生活時間の時系列変化を確認した。その結果,夜帯の生活時間の時系列変化について,40代と小学生は連動しやすい傾向が見られた一方で,中高生は40代と独立した傾向が見られた。また,日中の生活時間の多様性について,平日は50年間かなり安定していたが,日曜では一貫した変化と安定の傾向は見られなかった。平日と日曜の夜帯について,どの年齢層でも長期にわたり行動の多様化が見られたが,40代と小学生は徐々に夜型化していたのに対して,中高生は夜型傾向の維持と同時に自由行動の増加が確認された。以上の結果から,生活時間データからライフスタイルを捉える場合に時間量とタイミングの両情報の利用が有効であること,生活時間研究が子どもの社会化を長期的かつ客観的に把握するために重要であることが示された。
著者
稲葉 昭英 吉武 理大 大久保 心 吉田 俊文 大橋 恭子 夏 天 小正 貴大
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

大規模な公共利用データを用いて貧困低所得層の世代的再生産に関する計量分析を行った。その結果、ひとり親世帯の子(中学3年生)の教育アスピレーション(進学期待)が低く、成績が悪く、勉強時間が少ない傾向がみられた。とくにこの傾向は父子世帯の子に大きかった。多変量解析の結果、母子世帯の子に見られる差異は所得の低さからほぼ説明されえたのに対して、父子世帯の子に見られる差異は所得からは説明されえなかった。