著者
吉武 理大
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.27-42, 2019 (Released:2020-07-31)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

米国の家族研究では,親の離婚経験が,子どもの教育達成や社会経済的地位達成の不利,成人期の貧困や格差の再生産につながりうること,子ども自身の離婚という形で離婚の世代間連鎖が生じていることが明らかになっている.日本でも近年離婚を経験する者が増加しているが,特に離別母子世帯では,社会保障制度が十分な効果を有さず,貧困が解消されにくい状況にある.日本でも離婚の世代間連鎖が顕著ならば,子どもがいる世帯では母子世帯が世代的に再生産されやすく,貧困の世代的な再生産とも関連しうる.日本では離婚の世代間連鎖を検証した研究はきわめて少なく,そのメカニズムについてはほとんど明らかになっていない.本稿では,米国の研究を参考に,離婚の世代間連鎖の実態と,それを媒介するメカニズムとして子の教育達成と早婚の効果を検討した.「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)」の若年・壮年データを用いた分析の結果,親の離婚経験は自身が離婚を経験する確率を高める効果があり,日本においても男女ともに離婚の世代間連鎖が存在することが示された.また,親の離婚経験の効果の一部は低い教育達成と早婚を媒介していることが示唆された.離婚の世代間連鎖は,部分的ではあるが,教育達成における不利,早婚,自身の離婚を経由し,子どもがいる場合に母子世帯,そして貧困の世代的な再生産が生じている可能性がある.
著者
吉武 理大
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.157-178, 2019-05-31 (Released:2019-10-10)
参考文献数
27
被引用文献数
3

日本では母子世帯の貧困の問題に対して利用可能な社会保障制度として,児童扶養手当や死別の場合の遺族年金のほか,生活保護制度があるが,母子世帯の貧困率の高さに比べ生活保護の受給率はきわめて低い.先行研究では,貧困であるにもかかわらず,生活保護を受給していない世帯が存在することが示唆されてきたが,受給を抑制する要因を計量的に分析した研究はほとんど存在しない. 本稿では,全国の中学3 年生及びその保護者を対象とした,内閣府による「親と子の生活意識に関する調査」を用い,母子世帯の生活保護の受給状況とその規定要因の検討を行った.分析の結果,相対的貧困層であるにもかかわらず生活保護を受給していないケースが多く存在した.相対的貧困層の母子世帯(貧困母子世帯)では,母親が高卒以上,就労している場合に加え,内的統制傾向が強い,すなわち物事の結果は自身の行動に起因し,自分の努力や行動次第であると考える人ほど,生活保護を受給していない傾向が示された.貧困母子世帯における内的統制傾向の強さと生活保護の非受給との関連から考えると,「自立や自助」に高い価値を置き,生活保護の受給を控えている可能性が示唆される.母子世帯において,貧困であるにもかかわらず生活保護を受けないことが貧困を持続させうるという点では,生活保護を受給しつつ長期的な「自立」をめざすことが現実的かつ子どもの貧困の問題に対しても有効であると考えられる.
著者
稲葉 昭英 吉武 理大 大久保 心 吉田 俊文 大橋 恭子 夏 天 小正 貴大
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

大規模な公共利用データを用いて貧困低所得層の世代的再生産に関する計量分析を行った。その結果、ひとり親世帯の子(中学3年生)の教育アスピレーション(進学期待)が低く、成績が悪く、勉強時間が少ない傾向がみられた。とくにこの傾向は父子世帯の子に大きかった。多変量解析の結果、母子世帯の子に見られる差異は所得の低さからほぼ説明されえたのに対して、父子世帯の子に見られる差異は所得からは説明されえなかった。