著者
大井 暁
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.622, pp.622_183-622_203, 2013

赤信号無視の加害車両に衝突された被害車両の運転者は,通常信頼の原則により無過失とされる。運転者が同乗の幼児にチャイルドシートを使用させなかったため幼児が重度後遺障害を負った場合,保有者に自賠法3条の責任が生じるか。チャイルドシート不使用を「運行」とする見解には賛成できない。自動車の走行を「運行」とすれば,運行と事故発生との間に相当因果関係は認められる。しかし,チャイルドシート不使用の過失は,人身事故発生との間に因果関係がないから,保有者には自賠法3条但書の免責が認められる。東京地判平成24年6月12日を題材に検討した。
著者
大井 暁
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.636, pp.636_5-636_24, 2017-03-31 (Released:2018-01-29)
参考文献数
30

2000年に販売開始された弁護士費用保険の普及に伴い,その問題点も顕在化してきた。少額事件の増加に関し,対象となる請求権の額に最低額を設けることは保険の対象とする紛争の種類によっては可能と解されるが,自動車保険に関しては示談代行との関係で困難である。濫訴の弊害に関しては,弁護士費用保険の普及との因果関係が明らかでないとの指摘があり,濫訴か否かを保険者が判断する約款の導入も慎重を要する。保険金算定をめぐる紛争の予防には約款に保険金算定基準を織り込むことが有効であるが,約款規定がない場合でも保険者は適正妥当な保険金を算定できると解すべきである。弁護士費用保険に特化した紛争解決機関の設置には,保険業法との関係を考慮する必要がある。弁護士等の事件処理や顧客対応に関する苦情は,弁護士会等が適切な対応をしなければ保険会社が弁護士のパネル化を進める契機となりうる。弁護士費用保険と責任保険の引受保険会社が同一の場合等の利益相反には,指揮命令系統の区別や情報の遮断が必要となると解される。
著者
大井 暁
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.135-158, 2017-05-25 (Released:2019-04-10)
参考文献数
44

逸失利益を一時金賠償方式で算定する場合,将来取得する逸失利益を現在価額に換算する中間利息控除が行われる。民法(債権法)改正案では,中間利息控除に関する規定が新設され,中間利息控除は法定利率により行い,法定利率が当初3%から変動する案とされている。裁判実務上,若年者の逸失利益の算定方式として全年齢平均賃金にライプニッツ方式を用いる東京方式が定着しているが,この方式に従い改正案による3%の法定利率(変動制)で中間利息を控除すると,改正前後の逸失利益の格差や男女間格差が拡大する懸念がある。法改正を機に逸失利益の算定方法を再考する必要があると考える。具体的には従来あまり用いられて来なかった「表計算方式」ないし「個別割引方式」が再評価されて然るべきと考える。また,中間利息の控除割合の変更で損害額が大幅に増加することから,適用利率の基準日,現価計算の基準日は明確に決定される必要がある。