著者
丸山 高行
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.627, pp.627_31-627_61, 2014

AIJ事件を受け,企業年金ガバナンスへの関心が従来以上に高まっている状況をふまえ,本論文は,企業年金ガバナンスの定義と基本構造を明らかにした上で,(1)わが国の企業年金ガバナンスの実態はどのようになっているか,(2)厚生年金基金,確定給付企業年金の基金型,同規約型という3つの制度間でガバナンスの内容に違いはないか,(3)総合的なガバナンスの進展度合いを示す指標等を用いて比較分析はできないか,という3点について,独自の見解を示すことを目的とする。<br />企業年金ガバナンスの現状分析にあたっては,今回,特別に実施したアンケート調査を活用する。また,アンケートの結果を基に,ガバナンス・レベルのスコアリング化と,スコアを利用した「総合ガバナンス・インデックス」の作成を試みる。さらに,主成分分析を実行して,総合ガバナンス・インデックスの指標としての妥当性をチェックした上で,インデックスを活用して,企業年金ガバナンスに関する各種特性分析を行う。
著者
甘利 公人
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.619, pp.619_163-619_175, 2012

東日本大震災における各業界の対応について,生命保険および傷害保険ならびに損害保険とに分けて,法律の視点なかんずく保険約款におけるいくつかの問題点を指摘した。<br />今回の震災における保険金支払いにおいて,削減払いをしない対応をとったが,その場合の判断基準が明確ではない。生命保険の保険料の支払い猶予については,保険契約者の利益になるが,両刃の剣の面があることも否定できない。死亡保険金受取人の確定については,最高裁判決があり,保険金受取人の確定は困難である。損害保険については,自己申告による保険金支払いや地震免責の解釈問題に課題が残されている旨を指摘した。
著者
金 亨冀
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.613, pp.613_207-613_223, 2011

本稿は,最近,改正された韓国の保険業法について,その改正の主要内容を概観することを目的とする。2011年1月24日から施行された改正保険業法の主な内容は,1)契約者への保護装置の強化,2)保険商品の開発及び審査手続きの改編,3)保険募集組織に対する規制体系の整備,4)保険業認可の緩和,5)保険会社の業務範囲の拡大,6)保険会社資産運用の自主性拡大などである。この中でも,政策当局が特に重点を置いて改正した部門は,消費者の保護強化と保険会社の自主性拡大である。今回の保険業法の改正に含まれなかった事項は,共済事業の監督一元化,保険会社への共済業務の許容,保険詐欺と関連した金融委員会の資料提出要請権などであるが,保険業界からは,これらを認めるべきであるとの要望が強く,今後,さらなる議論が展開されると思われる。
著者
大井 暁
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.622, pp.622_183-622_203, 2013

赤信号無視の加害車両に衝突された被害車両の運転者は,通常信頼の原則により無過失とされる。運転者が同乗の幼児にチャイルドシートを使用させなかったため幼児が重度後遺障害を負った場合,保有者に自賠法3条の責任が生じるか。チャイルドシート不使用を「運行」とする見解には賛成できない。自動車の走行を「運行」とすれば,運行と事故発生との間に相当因果関係は認められる。しかし,チャイルドシート不使用の過失は,人身事故発生との間に因果関係がないから,保有者には自賠法3条但書の免責が認められる。東京地判平成24年6月12日を題材に検討した。
著者
高崎 亨
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
no.606, pp.121-136, 2009

本稿は,近時の最高裁判決2件を参考に,遺族厚生年金保険の受給者としての「遺族」,「配偶者」性を検討することを目的とする。<br>わが国の厚生年金保険法は,戸籍上の配偶者だけでなく,内縁配偶者にも配偶者性を認め,遺族年金受給資格を付与している。しかし,法律上の配偶者と同様の保護を受けるにあたって,重婚的内縁関係や近親婚的内縁関係にまで,その射程を広げうるかには議論のあるところである。<br>本件最高裁判決は,上記いずれの場合も例外的に社会保険上の保護(年金給付)が及びうることを示した事案であり,その共通する要素としての実体,扶養関係に着目して検討した。本稿では,遺族年金受給者としての「配偶者」性が,婚姻法秩序を原則としながらも,例外を認めて拡大している点を,政策的判断として評価できると結論付けたが,課題もあることを付言した。
著者
浅井 弘章
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.618, pp.618_17-618_36, 2012

消費者庁は,平成23年12月,「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の骨子」を公表し,本稿脱稿日現在,新しい訴訟制度を導入するための法案作成を行っている。新しい訴訟制度は従来の民事訴訟と異なる構造・特徴を有している。また,保険募集業務,契約管理業務,保険金支払業務など保険会社が営む業務全般に係る紛争が新しい訴訟制度の対象となる可能性があると考える。<br />保険会社が新しい訴訟制度の被告となるという事態の発生を避けるためには,それぞれの保険会社において新しい訴訟制度の特徴等を踏まえ,それぞれの業務ごとに,従来から継続している態勢整備を一層充実・強化する必要があると考える。
著者
小松原 章
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.615, pp.615_127-615_146, 2011

成長顕著な株価指数連動型年金に対して証券規制導入提案を行ったSECに対して,当該年金主力の生保業界が強い反対姿勢を示し,規則撤回を求めて連邦控訴裁判所に提訴した。裁判所は,規則の内容は妥当であるが,規則導入に必要な効率性等の分析が不十分であるとしてSECに対して再検討を指示した。SECは規則再提出意欲を示したが,おりからの金融危機後における金融規制改革法案審議の過程でSEC規制を排除する条項が組み込まれた同法案が成立することとなった。これにより,証券規制は阻止できたが,州の監督責任は一段と重くなり,その真価が問われている。
著者
鎌田 浩
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.622, pp.622_83-622_101, 2013

保険業法等における募集行為規制は,主に対面募集の保険募集人の募集行為を対象としており,インターネット募集等のあらたな販売形態については付随的に言及されているにとどまっている。ITの進化により,保険業法等の制定・改正時には想定しなかった問題も発生していることから,保険業法300条1項1号から3号のいわゆる情報提供義務の観点から,インターネット募集のあり方を考察する。インターネット募集には,保険者が顧客に提供する「情報の内容」,保険者が説明すべき「重要事項の説明方法」,特約の「説明義務の範囲」の3点において対面募集とは同一には論じられない側面がある。インターネットにおける情報の即時性,最新性,連携性の利点を活かし,募集画面等において「顧客が知る必要がある情報」を効果的に充足させ,顧客への情報提供義務に応えることは可能であると考える。
著者
中林 真理子
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.622, pp.622_103-622_121, 2013

生命保険販売従事者が直面する倫理的課題についてのアンケート結果をもとに日米比較研究を行ったCooper and Nakabayashi[2010]での,「保険会社が提供する商品種類とサービスが十分でないので,顧客のニーズにあった商品を販売できないことは倫理的に問題かどうか」という問題提起に対し,その後の環境変化を踏まえて一つの答えを出すことが本稿の目的である。<br />日本ではアンケート実施後,銀行窓販が全面解禁になるなど,提供可能な商品やサービスの幅が広がっているという面では問題は解消しつつある。しかし環境が整備されてきたからこそ,それぞれの顧客のニーズに合わせた販売および契約保全活動ができないことは倫理的に問題であるという状況になってきた。このような環境下では,営業職員の自覚はもちろん,生命保険会社が主導して営業職員の質を高め,より包括的で合理的なアドバイザーとしての役割を担えるような体制を整備することが,営業職員チャネルの存在意義を高めることになる。
著者
平澤 敦
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.620, pp.620_321-620_340, 2013

海賊は,有史以来存在する海上危険である。しかし,時代の趨勢と共に海賊および海賊行為は変容し,今日の海賊は単なる武装強盗集団ではなく,ソマリア沖の海賊のようなハイテク武装集団も多く存在し,その目的も乗組員や旅客への襲撃や殺害,船舶や積荷の強奪といった往時の海賊の姿とは異なり,旅客等を人質に多額の身代金を要求する頭脳犯的な側面を持つものまで登場している。海賊の問題は,海上保険における海賊危険の取り扱いにも多大な影響を及ぼしているが,海賊および海賊行為に関する確固たる統一的な定義はなく,その扱いについては,国際法や海上保険法においてそれぞれ異なっているのが現状である。本稿では,主に国際法や海上保険法における海賊および海賊行為の定義について検討し,海賊類似の危険と線引きが困難な問題や国際法上の定義が海上保険の領域では妥当性を欠くことを考察した。
著者
村田 敏一
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
no.602, pp.129-148, 2008

本年5月に成立した新保険法では,一定類型の保険契約につき,多くの片面的強行規定が導入されるとともに,全契約類型に適用される任意規定と絶対的強行規定に関しては,その仕分けが解釈に委ねられた。本稿では当該仕分けにつき,幾つかの手法を併用しながら確定作業を行うとともに,三つの規律の相互関係を包括的に分析することにより,保険法の構造を解明する手掛りを得ることとしたい。
著者
佐々木 一郎
出版者
The Japanese Society of Insurance Science
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
no.603, pp.69-86, 2008

昨今のわが国では,親の収入・学歴・職業と,子の収入・学歴・職業との関連性が顕著に高まるなど,階層固定化傾向が強まり,格差社会が進展しつつあることが先行研究から指摘されている。一見すると,年金問題(とりわけ若者の年金未加入未納問題)は,この格差社会の問題とは無関係にみえるかもしれない。しかし,親の年金意識の「格差」から,子の年金未加入・未納率に顕著な差が生じている可能性もあり,年金問題は格差問題と深いかかわりがあることも考えられる。本研究では,大学生対象のアンケート調査データから,親の年金意識の格差と,子の国民年金未加入との関係を分析した。分析の結果,親の年金意識の格差は,子の国民年金未加入に顕著な影響を及ぼしていることが明らかになり,年金問題には,格差問題の一端が反映されていることが示唆された。