著者
大堀 研
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.23-33, 2011-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
24

東京大学社会科学研究所の希望学プロジェクト釜石調査グループは,地域活性化に必要な条件の一つとして,「ローカル・アイデンティティの再構築」を掲げた.しかし,調査グループが2009年に調査成果として発刊した書籍では,ローカル・アイデンティティという用語は,地域の個性・らしさという言い換えが示されている以外に,明確な概念規定はなされていなかった.またそれが地域活性化をもたらすという論理は,釜石の事例に関しては検討すべき点が残されている.後者の論点については,筆者の考えでは,岩手県葛巻町,福井県池田町の事例でみてとることができる.葛巻町ではクリーン・エネルギーのまちという新しい要素が導入されたことにより,交流人口が増大している.池田町では,従来の「能楽の里」という自己規定に加え,農村という特性に基づき環境のまちづくりを推進したことから,NPO など各種環境団体が形成されるようになっている.これらの事例を踏まえ,本稿では「地域(社会)」を自治体と規定し,ローカル・アイデンティティは,自治体のキャッチフレーズ等に表示されるものとして捉えた.これを敷衍すれば,ローカル・アイデンティティの再構築とはキャッチフレーズの更新に象徴されるようなものとなり,自治体戦略の一環となる.ただしこの再構築は,自治体行政だけでなく,企業や住民など多様な主体が関与しうるものであり,その意味で偶有的である.
著者
大堀 研
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、岩手県釜石市で、災害被災地へのボランティア・ツーリズムと復興・地域活性化の関連性について実証的に研究するものである。平成25年度は、①使用概念の理論的検討、②釜石市の文献資料・統計資料の収集・分析、③関係者へのインタビュー調査・参与観察、の三点を実施した。特に①を主要な作業として進めた。被災地への外部からの交流には複数の用語が使用されることから、実態を適切に表現しうる概念の把握を目指した。具体的には、A)復興ツーリズム、B)ダークツーリズム、C)ボランティア・ツーリズムの3つが頻繁に使用される。A)は国際的でなく、時限的という限界がある。B)は被災地住民の感情にそぐわない。C)はこれらの問題が少ない。国際的には"Disaster tourism"が使用されることも多いが、B)と同様の問題がある。これらから、「ボランティア・ツーリズム」が適切と考えられる。概念の比較検討は例が少なく、本領域の研究を進展させるための作業として意義があったといえる。②、③に関しては、3回の調査旅行により資料収集、参与観察、インタビュー調査を実施し、対象である「三陸ひとつなぎ自然学校」の活動の把握に努めた。釜石市でも震災後のボランティア活動者は減少傾向にある。その中で「三陸ひとつなぎ自然学校」によるボランティアの受け入れは、地域の復興に一定程度寄与している。この団体が受け入れを継続できている背景には、意欲的な受け入れプログラムの開発がある。参与観察では、ボランティアと団体が協働でプログラム開発を行う現場を調査した。こうした手法がボランティア活動者の満足を高めている可能性がある。またインタビュー調査では、外部組織と連携しプログラム開発を行っていることを確認した。総じて柔軟にプログラムを開発しており、その柔軟性が活動継続に寄与している。この点を明らかにしたことが、今年度の研究の意義である。
著者
大堀 研
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.23-33, 2011

東京大学社会科学研究所の希望学プロジェクト釜石調査グループは,地域活性化に必要な条件の一つとして,「ローカル・アイデンティティの再構築」を掲げた.しかし,調査グループが2009年に調査成果として発刊した書籍では,ローカル・アイデンティティという用語は,地域の個性・らしさという言い換えが示されている以外に,明確な概念規定はなされていなかった.またそれが地域活性化をもたらすという論理は,釜石の事例に関しては検討すべき点が残されている.後者の論点については,筆者の考えでは,岩手県葛巻町,福井県池田町の事例でみてとることができる.葛巻町ではクリーン・エネルギーのまちという新しい要素が導入されたことにより,交流人口が増大している.池田町では,従来の「能楽の里」という自己規定に加え,農村という特性に基づき環境のまちづくりを推進したことから,NPO など各種環境団体が形成されるようになっている.これらの事例を踏まえ,本稿では「地域(社会)」を自治体と規定し,ローカル・アイデンティティは,自治体のキャッチフレーズ等に表示されるものとして捉えた.これを敷衍すれば,ローカル・アイデンティティの再構築とはキャッチフレーズの更新に象徴されるようなものとなり,自治体戦略の一環となる.ただしこの再構築は,自治体行政だけでなく,企業や住民など多様な主体が関与しうるものであり,その意味で偶有的である.
著者
大堀 研
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.143-158, 2010

地域再生の文脈で使用される「ローカル・アイデンティティ」という用語は, これまで複数の意味・水準で使われてきた. 明確な概念規定抜きで使用すると, 現場に混乱をもたらしかねない. これまでの使用例は, 個人レベル(個人の地域に対する帰属意識)と, 集合レベル(地域関係者の多くに共有されている地域内の要素), の二通りに大別できる. 現場では, 語義を明示して使用する必要があり, コミュニケーション・コストは高い. だが「アイデンティティ」という語は「自己認識」の意識を喚起する利点がある. ただし正負の両側面の複合的な自己認識が求められる. また「アイデンティティ」の語が誘発する本質化の危険性を避けるために, 「ローカル・アイデンティティ」を, 変化し得るものと把握することが必要である. 一方で「アイデンティティ」と言う以上, 保持すべき要素の弁別も欠かせない. ここでも複合的な認識が求められる. 地域の複合性を捉えるツールとすることに, 「ローカル・アイデンティティ」の語を用いる意義を見出すことができる.The term "local identity" is used to mean a number of different things. Its meanings can be classified into two broad categories: the individual level (an individual's sense of belonging to a community) and the collective level (elements within a community that are shared by many people within it). At the community level, there is a need to clarify this definition, and it is a complicated process. Here, the word "identity" is advantageous in that it triggers an awareness of the "recognition of the self." However, both positive and negative aspects should be recognized in a composite way. Also, in order to avoid the risk of falling into essentialism, "local identity" should be understood as changeable, and should be understood in a complex way, along with the elements that ought to be preserved.
著者
大堀 研
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

地域デザインの一環としての環境政策の形成および展開過程を、岩手県葛巻町、福井県池田町を対象に社会学的・実証的に検討した。社会課程の相違点として、開発政策の有無など初期条件の違いにより、展開される政策内容に違いが出ることが明らかとなった。また、両町に共通の要素として、町の特性を意識した環境政策の展開、柔軟な住民参加手法の採用の二点を把握することができた。