著者
大木元 明義 檜垣 實男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.3, pp.148-152, 2005 (Released:2005-04-26)
参考文献数
24

1990年に開始されたヒトゲノムプロジェクトの結果,2004年10月にはヒトゲノムの99%を解読した信頼性(エラー率100,000塩基に1つ)の高い遺伝子配列が報告され,今まさにポストゲノムシークエンス時代に突入している.ゲノム研究は単一遺伝子疾患の原因遺伝子の解明から生活習慣病をはじめとする多因子病の疾患感受性遺伝子や薬物応答性に関する遺伝子の網羅的(ゲノムワイド)な遺伝子多型解析へ移りつつある.SNP(Single Nucleotide Polymorphism,一塩基遺伝子多型)はゲノム内に300-1500塩基に1個程度(約300万個)存在する.SNPは人種,個人により,遺伝子頻度が異なる場合が多いため,人種差,個人差を検出するための有効な遺伝子マーカーである.また,SNPそのものが疾病への感受性や薬物への反応性またその副作用の出現などに影響を与える場合もある.結果を信号化することができるため情報処理が容易であること,高速で大量にSNPをタイピングするための技術が実現していることから,網羅的遺伝子解析を行うにあたり便利である.この総説では,各種遺伝子多型と網羅的遺伝子多型解析に適したタイピング法,統計学的解析法とその限界,遺伝子解析研究の倫理的問題点について解説する.
著者
櫃本 竜郎 井上 勝次 飯尾 千春子 藤本 香織 河野 珠美 藤井 昭 上谷 晃由 永井 啓行 西村 和久 鈴木 純 大蔵 隆文 檜垣 實男 大木元 明義
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.57-63, 2015 (Released:2016-01-14)
参考文献数
7

症例は72歳, 女性. 当院膠原病内科で全身性エリテマトーデスに合併した血球貪食症候群に対して化学療法 (CHOP療法) を施行後に心不全を発症しアドリアマイシン心筋症と診断された. また, 心エコー上中等度の大動脈弁狭窄症を指摘された. 以後心不全標準治療を継続したが, 約10年の経過で徐々に心機能低下と大動脈弁狭窄症の重症度が進行し, 心不全の増悪による入退院を繰り返した. 内科的治療の限界と判断し, 外科的大動脈弁置換術や経カテーテル的大動脈弁植込み術 (Transcatheter Aortic Valve Implantation ; TAVI) の適応を診断するため, 低用量ドブタミン負荷心エコー検査を行った. 本症例は偽性重症大動脈弁狭窄症の可能性があるため, Blaisらが提唱した予測有効大動脈弁口面積 (projected effective orifice area ; EOAproj) 測定したところ, EOAproj 1.18cm2で境界所見であった. 胸部CT検査から求めた大動脈弁石灰指数 (Agatston's score) は659であり, 強い石灰化は指摘できなかった. カテコラミンを含む心不全治療を行ったが, 心不全の改善を認めず死亡した. 剖検を行った結果, 大動脈弁は弁腹の石灰化を認めたが, 弁尖の変性は軽度であった. 今回われわれは低左心機能を伴う大動脈弁狭窄症例におけるドブタミン負荷心エコー検査の有用性, 限界について検討したので報告する.
著者
大木元 明義
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

遺伝性循環器疾患ではサルコア蛋白などの原因遺伝子変異だけでなく,病態修飾遺伝子多型がその病態に大きく影響していることを報告してきた.既存の原因遺伝子解析では遺伝子変異同定率は約60%であり,病因と予後を解析するうえで限界があった.本研究では,遺伝性循環器疾患に対して網羅的にターゲット・リシーケンスを行い,遺伝性循環器疾患をより正確な診断群として分類することを目的とした.対象は60例(96例を予定)の遺伝性循環器疾患を対象にした.イルミナ社製の次世代シーケンサーMiSeqとTruSight Cardioキットを用いて,17の遺伝性循環器疾患における174遺伝子に対してターゲット・リシーケンス(0.57 Mb)を行った.平均リード深度は230,カバレッジ(20x)が97%であった. 平均297個/症例の遺伝子多型・変異(96%が既報)が確認できた.VariantStudioを使用して,アジア人1%未満のrare variantsを解析すると原因遺伝子候補が平均6個抽出できた.特に,心臓再同期療法や心臓移植登録を行った重症肥大型心筋症の4例では,MYBPC3遺伝子変異(各々Arg820Gln,Glu386Ter,Glu258Lys)だけでなく,まれなTTN遺伝子等の変異も重積していた(平均8個).拡張型心筋症と刺激伝導系障害を合併する家系で,新規のLMNA遺伝子変異(Gln258HisfsTer222)を確認した.この変異は1塩基欠失によりフレームシフトがおこり,本来のLMNA蛋白よりも短い蛋白が翻訳されることが推察された. RBM20遺伝子(Ser75Leu)の重積変異の影響や,男性では女性に比較して若年で発症し重症化する可能性が推察され,早期の心臓再同期療法等による治療介入で病状の進展を抑制できる可能性が示された.今後も,先制医療に向けた新たな治療標的を探求する予定である.