- 著者
-
大木元 明義
- 出版者
- 愛媛大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2014-04-01
遺伝性循環器疾患ではサルコア蛋白などの原因遺伝子変異だけでなく,病態修飾遺伝子多型がその病態に大きく影響していることを報告してきた.既存の原因遺伝子解析では遺伝子変異同定率は約60%であり,病因と予後を解析するうえで限界があった.本研究では,遺伝性循環器疾患に対して網羅的にターゲット・リシーケンスを行い,遺伝性循環器疾患をより正確な診断群として分類することを目的とした.対象は60例(96例を予定)の遺伝性循環器疾患を対象にした.イルミナ社製の次世代シーケンサーMiSeqとTruSight Cardioキットを用いて,17の遺伝性循環器疾患における174遺伝子に対してターゲット・リシーケンス(0.57 Mb)を行った.平均リード深度は230,カバレッジ(20x)が97%であった. 平均297個/症例の遺伝子多型・変異(96%が既報)が確認できた.VariantStudioを使用して,アジア人1%未満のrare variantsを解析すると原因遺伝子候補が平均6個抽出できた.特に,心臓再同期療法や心臓移植登録を行った重症肥大型心筋症の4例では,MYBPC3遺伝子変異(各々Arg820Gln,Glu386Ter,Glu258Lys)だけでなく,まれなTTN遺伝子等の変異も重積していた(平均8個).拡張型心筋症と刺激伝導系障害を合併する家系で,新規のLMNA遺伝子変異(Gln258HisfsTer222)を確認した.この変異は1塩基欠失によりフレームシフトがおこり,本来のLMNA蛋白よりも短い蛋白が翻訳されることが推察された. RBM20遺伝子(Ser75Leu)の重積変異の影響や,男性では女性に比較して若年で発症し重症化する可能性が推察され,早期の心臓再同期療法等による治療介入で病状の進展を抑制できる可能性が示された.今後も,先制医療に向けた新たな治療標的を探求する予定である.