著者
島田 卓哉 齊藤 隆 大澤 朗 佐々木 英生
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.461, 2004 (Released:2004-07-30)

ミズナラなどの一部の堅果には,タンニンが乾重比にして10%近くの高濃度で含まれている.タンニンは,植物体に広く含まれる植食者に対する防御物質であり,消化管への損傷や消化阻害作用を引き起こすことが知られている.演者らは,ミズナラ堅果を供餌したアカネズミApodemus speciosusが,著しく体重を減らし,高い死亡率を示すことを既に報告している.その一方で,アカネズミは秋季には堅果を集中的に利用することが知られているため,野外ではタンニンを無害化する何らかのメカニズムを有しているものと予測される. コアラなどの一部の哺乳類の腸内には,加水分解型タンニンを特異的に分解するタンナーゼ産生細菌が存在し,タンニンを代謝する上で重要な働きを持つことが報告されている. そこで,演者らは,アカネズミ消化管内にタンナーゼ産生細菌が存在するかどうか,存在するとしたらどの程度の効果を持つのかを検討した. タンニン酸処理を施したブレインハートインフュージョン培地にアカネズミ糞便の懸濁液を塗布し,タンナーゼ産生細菌の分離を行った.その結果,2タイプのタンナーゼ産生細菌が検出され,一方は連鎖球菌の一種Streptococcus gallolyticus,他方は乳酸菌の一種Lactobacillus sp.と同定された.野外で捕獲されたアカネズミが両者を保有する割合は,それぞれ62.5%,100%であった.また,ミズナラ堅果を用いて堅果供餌実験を行い,アカネズミの体重変化,摂食量,消化率,及び糞便中のタンナーゼ産生細菌のコロニー数を計測した.その結果,体重変化,摂食量,消化率は,乳酸菌タイプのタンナーゼ産生細菌と正の相関を示し,この細菌がタンニンの代謝において重要な働きを有している可能性が示唆された. さらに,アカネズミのタンニン摂取量,食物の体内滞留時間,タンナーゼ産生細菌のタンナーゼ活性等の情報から,タンナーゼ産生細菌がタンニンの代謝にどの程度貢献しているのかを考察する.
著者
木島 彩 梅川 奈央 吉田 優 大澤 朗
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.293-302, 2010 (Released:2010-11-25)
参考文献数
30
被引用文献数
1

偏性嫌気性グラム陽性桿菌であるビフィズス菌は,新生児腸内細菌叢において圧倒的多数を占める.その由来として,母親からの「垂直伝播」が示唆されているが,実際に母親由来ビフィズス菌が子の腸内に伝播しているという直接的な知見は未だ報告されていない.そこで,ビフィズス菌の母親から新生児への菌株レベルでの伝播をパルスフィールドゲル電気泳動(Pulsed-Field Gel Electrophoresis; PFGE)法によって検証した.その結果,5組の母子双方の糞便から Bifidobacterium longum subsp. longum(B. longum)が分離され,このうち3組の母親由来株と新生児由来株のPFGEパターンが組ごとに一致した.次に,これら母親由来株の好気及び微好気条件下での生残性を調べた.その結果,1)培地平板上では好気条件下で6時間,微好気条件下で18時間は初発の菌数を維持すること,2)ヒトの手のひら上では生残数が急速に減少し,3時間で全ての菌が死滅すること,3)好気環境でも乾燥状態では全ての菌が死滅するまでに24時間以上かかることが明らかとなった.これらの結果から,ビフィズス菌は母親の手指よりも産道や大気,器具,衣類等を介して垂直伝播することが示唆された.
著者
大澤 朗
出版者
JAPAN BIFIDUS FOUNDATION
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-5, 2011-01-01

緑茶やワインに含まれるカテキン類は強い抗酸化力を持ち,体内で発生する活性酸素を「無害化」して発ガンを抑制したり,コレステロールの酸化を防いで動脈硬化を予防したり,また糖質分解酵素の働きを阻害して過剰な血糖値の上昇を抑える等,ヒトの健康維持・増進・疾病予防に非常に有用な効果をもたらすことが知られている.緑茶に含まれる主なカテキン類は,没食子酸エステル構造をもつ加水分解型タンニン様のエピガロカテキンガレート[EGCg]とエピカテキンガレート[ECg],エステル構造をもたない非タンニン様のエピガロカテキン[EGC],エピカテキン[EC]の4種類である.我々はキムチや糠漬けといった発酵食品より分離された乳酸菌種, <i>Lactobacillus plantrum</i>にEGCgからEGCと没食子酸へと加水分解するタンナーゼ活性があること,さらにこのタンナーゼは構造的にも性状において公知のカビ由来タンナーゼと異なることを明らかにした.他方,我々はEGCgが食品成分(おそらく蛋白質)と速やかに結合し難吸収性の「塩」となるが,EGCは大半が遊離型を維持していること等も明らかにした.そこで「タンナーゼ活性を有する乳酸菌株が腸内に存在すれば,食品成分と結合して難吸収となったタンニン様カテキンから非タンニン様カテキン類が遊離し,速やかに腸管壁から吸収させる,すなわち,緑茶カテキンの抗酸化力を最大限に体内に"届ける"ことができるのでは・・?」と着想した.本稿ではこの着想に基づくタンナーゼ活性を有する乳酸菌を利用した新規プロバイオティクスの開発について,その概略を紹介する.<br>